No.206「まだ死にとうなぁ〜い!」  2002.3.4

 写真・・・木

 中学校の同級生、南ちゃんと久しぶりの電話です。

 生活に追われて目標を見失いがちな毎日にポツリ一言・・・

ライン

 イラスト・・・南ちゃん南ちゃん

 「何もやり遂げないままじゃ、死にたくないな・・・」

 コチサ

 「何言ってんの、まだまだこれからの人間である私たちがそんな事言っちゃいけないよ」

 南ちゃん

 「あっ、そういえば『私、まだ死にたくないぃー』って叫んでた中学生知ってるよ」

 コチサ

 「(うっ、古傷が・・・)」

ライン

 イラスト・・・リュックサックそれはコチサが中学2年の遠足の日の事でした。

 お隣の徳島県、池田高校の近くの○○山で登山をしたのです。

 当初は各クラスが列を作り順序よく山を登っていました。

 しかし単調な行進に少し飽きてきたのか、それともお昼も近づいて来て気持ちも緩んだのか・・・

 やがて列も長く伸びはじめ、それぞれがだらだらモードに入って歩き出すようになっていました。

 そんな時、同級生の橋本達也(こいつはフルネームで呼び捨てだ)がある木の上に大きな蜂の巣を見つけました。

 イラスト・・・橋本達也そして何を思ったのかこのばか者は、その蜂の巣に向かって石を投げたのです。

 普段は運動神経も無く、運動会の玉入れだって一つも玉を籠に入れることが出来ない橋本でしたが、何とこの時に限ってその石を蜂の巣に命中させてしまったのです。

 蜂の大群が一気に押し寄せてきたのと、生徒たちの大きな悲鳴が上がったのはほぼ同時の事でした。

 大事件はこの後です。

 イラスト・・・ビックリ顔の蜂何故か蜂は、犯人の橋本を襲わずに、そして100数十名いる他の生徒たちへも見向きもせずに、大挙してコチサ一人に襲い掛かってきたのです。

 コチサは何もしてないのに・・・

 あたりは一瞬にしてパニックになりました。

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 イラスト・・・青いリュックサック生徒A

 「コチサ、逃げろ!」

 イラスト・・・青い水筒生徒B

 「コチサ、体をフレ!」

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 言葉だけはいかにもコチサを気遣っているようですが、誰も彼もが、コチサからどんどん距離を置いて逃げていきます。

 担任の大西先生が駆けつけて来ました。

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 大西先生

 「益田、払え、蜂を払え」

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 そう言いながらも大西先生は、積極的にコチサを助けに蜂の輪に飛び込む事はなく及び腰です。

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 コチサ

 「うわー、助けてくれー、いやじゃーいやじゃー嫌なのじゃー」

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 コチサの叫びに蜂たちは一層かさにかかって襲ってきました。

 ようやく職業意識に目覚めた数人の教師たちが、上着をふりまわしながら蜂に挑みかかり、悪夢の時は過ぎていきました。

 その間約7,8分の事でしたが、コチサには何時間にも感じられました。

 コチサは教師たちによって救出され、バケツリレーのように人の手から人の手に運ばれ麓の病院に運ばれました。

 そしてその時に○○山一帯にこだましていた言葉が・・・

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 コチサ

 「嫌じゃぁー、まだ死にとうないわ、嫌じゃー死にとうなーい!!!」

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 という悲鳴だったそうです。

 結局コチサは頭を6個所蜂に刺されていました。

 でも包帯を巻かれるでもなく、変なバンソウコウを貼られて家まで送り届けられただけでした。

 大きな謝罪問題にも新聞記事になることもなく、この事件はひっそり闇から闇に葬りされれたのでした。

 しかしそれから数日、学校はコチサの話題で持ちきりでした。

 イラスト・・・教壇に立つ先生授業の担当教師が教室に入ってくるたびに、

 教師1

 「なんでも、このクラスには蜂に刺されて、まだ死にとうないと叫んだ奴がおるそうじゃのう・・・」

 教師2

 「若い奴から『まだ死にとうない』なんて言葉、初めて聞いたわ」

 教師3

 「昨日はこのクラスの女子が大立ちまわりをしたそうやな・・・」

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 等と、教師としての責任を棚に上げコチサを笑いものにすることひとしきりでした・・・

ライン

 コチサ

 「そっかぁ、そんな事もあったね」

 南ちゃん

 「でも何であん時、橋本や他の生徒を襲わず、コチサだけ襲ったんやろ、いまだに謎やわ」

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 実は今ならその理由がなんとなくわかるのです。

 以前、加齢研究所で調べてくれたコチサの声の周波数の問題です。

 コチサの声は通常の会話でも2万ヘルツを超える周波数が出ているそうです。

 街中で赤ちゃんに見つめられたり、お年寄りが真っ先にコチサに耳を傾けるのはそういう理由だと言われた事があります。

 イラスト・・・蜂蜂が襲ってきたのもその事に何か原因があるのだろうと思うのです。

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 南ちゃん

 「すごいねコチサ、こうもりみたいじゃん」

 コチサ

 「まぁね」

 南ちゃん

 「でも、やっぱり一番すごいのは『嫌じゃぁーまだ死にとうない』って台詞だよね。その台詞が2万ヘルツを超える周波数で○○山に響いたんだから、全ての生物が聞いたよね」

 コチサ

 「そだね。まぁあれが全ての生物たちに、人間を襲ったらいけないんだよという警鐘になってくれたら幸いです」

 南ちゃん

 「何か思い出話をしたら元気が出たよ」

 コチサ

 「いえいえ人の古傷えぐって元気が出るなら何よりです」

ライン

 イラスト・・・体を張るコチサ今後とも、自らの体を盾にしてでも皆様のお役に立てるように一層精進をさせていただきますのじゃぁ・・


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