No.205「鍋焼きうどんの暖かさ」  2002.3.1

 イラスト・・・ピアノ発表会の打ち合わせの席には、楽器店側の担当、教室の先生達、営業担当、そしてコチサが一同に揃います。

ライン

 イラスト・・・営業さん営業さん

 「コチサさん今年はどうです?発表会?」

 コチサ

 「えぇまぁ今年と言わず、ここ数年でめっきり減りましたね」

 営業

 「やっぱりね。今じゃ何処に行っても廃止か縮小ですよ」

 イラスト・・・教室の先生教室の先生

 「小さな会場で、楽器店の人が司会をしてる場合もありますよ」

 営業

 「そうそれ多いですよ。やっぱり真っ先に経費削るとなると司会さんですからね」

 楽器店側の担当

 「うちでもそういう話しはあるんですよ。でも司会がしっかりしていない発表会は本当に学芸会みたいになっちゃうんですよ。だからうちは司会を削るんだったら発表会そのものを辞めようと決めているんですよ」

 コチサ

 「ありがとうございます」

 楽器店側の担当

 「いやコチサさんこそ、いつも安いギャラで出向いてもらって恐縮です」

 コチサ

 「なんの、なんの」

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 ・・・と、最近では気候の挨拶のように定番の日常会話になりつつある「不況話」になった頃・・

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 イラスト・・・楽器店側の担当楽器店側の担当

 「あっ、そろそろお昼ですね。コチサさんいつもので良いですか?」

 コチサ

 「あっ、はい、ありがとうございます」

ライン

 この教室の発表会は年に一回だけど、もう10年も続いています。

 そして何故かここではコチサは「鍋焼きうどん」が大好物という事になっています。

 初めての打ち合わせの時、

 「お昼何にしますか?出前取りますから」

 と言われてお蕎麦屋さんのメニューを見せられた時、実はコチサはお蕎麦屋さんに入った事もない田舎者だったので、取り合えず目に付いた「鍋焼きうどん」を注文したのでした。

 写真・・・「鍋焼きうどん」その1

 「うどん」という言葉と「鍋」という言葉で、田舎のお母さんの作ってくれるうどんのようなものを想像して、「多分それなら好き嫌い無く食べられるだろう」と思っての事でした。

 「鍋焼きうどん」がお蕎麦屋さんのメニューの中でも高価なものだと言うことはその時もその後も知らないままでした。

ライン

 営業

 「いやー毎年これが楽しみで」

 教室の先生

 「そう私たちもいつのまにか、鍋焼きうどんになっちゃって」

 営業

 「ほんと、なんか鍋焼きうどんはここって感じで、普段蕎麦屋入っても鍋焼きうどんはタブーって雰囲気があるんですよ」

 楽器店側の担当

 「私たちも今では、コチサさんが来られるこの日だけが出前がOKの日になってるんですよ」

 コチサ

 「もしかして陰でコチサの事「鍋焼き小僧」とか呼んでいません?」

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 そんな冗談を言いながら、熱い鍋焼きうどんをすすります。

 でもそのうちにみんなだんだん静かになって来て、黙々とうどんを吸う音だけが聞こえます。

 コチサがこの発表会の鍋焼きうどんに思いがあるように、みんなそれぞれこの鍋焼きうどんを通してこの発表会への気持ちがあるようです。

 写真・・・発表会

 どこも縮小傾向にある発表会・・・

 かつては来客があれば毎日のように出前を頼んでいた日々が、今ではそれが数少ないイベントの一つになってしまった。

 同じお蕎麦屋さんの同じ鍋焼きうどんの味ですが、今はかつてと違う味を感じています。

 それは一本一本噛みしめる味わいを覚えたから・・・

 ものを大切に、今を大切に思う気持ちを覚えたから・・・

 無言の中でコチサはそんな事を考えました。

 鍋焼きうどんの温かさがお腹の中から優しい力をわきたててくれました。

 そして・・・

 「司会を削るんだったら発表会そのものを辞めようと決めているんですよ」

 と言ってくれた担当者さんの言葉をお世辞ではなく真心として受けとめる事が出来ました。

 鼻の奥がつーんと来たので、一気に鍋を持ち上げつゆを飲み干しました。

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 営業

 「コチサさんすごーい、れんげを使わないで鍋ごと飲むんですね」

 コチサ

 「なんの、なんの」

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 そして、「じゃぁ当日頑張って、みんなで大成功させましょう」と言って帰り支度をするコチサに・・・

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 楽器店側の担当

 「コチサさん、気が早い話なんですけど、来年の3月○日、キープさせてもらえますか?」

 コチサ

 「は、はい!キープどころか決定でもOKです!」

ライン

 一斉に歓声があがりました。

 写真・・・「鍋焼きうどん」その2 来年もまた、鍋焼きうどんの日がやってきます・・・


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