No.150 2001.10.3
「内祝」・・・
なんという嬉しい響きでしょう。
この「内祝・益田」と書かれた包みが入ったダンボールが実家から届きました。
ご心配をおかけした「益田父」が、無事退院してお返しを贈れるようになったのです。
皆さま、ありがとうございましたm(__)m
コチサに送られたダンボールは、「内祝」と書かれたタオルセットの他に、お米、リンゴ、ふりかけ、ピーナッツ、カレールー、そして「お金が貯まる開運財布」のチラシが添えられていました。
コチサ
「もしもし、お父さん、荷物届いたよ」
お父さん
「おう、まぁ気持ちじゃ、受け取ってくれ」
コチサ
「ありがとう。でもよそに送ったのには、ふりかけとか入ってないんでしょ」
お父さん
「当たり前じゃ、快気祝いにふりかけ贈ってどうする。他の人にはちゃんと内祝いって書いてある包みだけ贈るもんじゃ」
コチサ
「じゃぁ、コチサだけはおまけ付きだったんだね」
お父さん
「また、別便で送るの面倒くさいから一緒にしたんや、お米は新米やで」
コチサ
「そっかありがとね(ぼりぼり)」
お父さん
「お前、もうピーナツ食べてるな、まったくまだダンボールも片付けてないんやろ。真っ先に食べたな」
コチサ
「(図星)いいじゃん、もらったものをどうしようと、こっちの勝手だよ。お母さんに代わって」
お父さん
「母さんな、畑に出ちょる・・・」
コチサ
「ふーん・・・」
退院はしたけれど、お父さんはまだ療養中です。
自宅でゴロゴロしているそうです。
お父さんのような田舎の人間には、実はこれが一番辛いことです。
もともとじっとしていられない、いつも何か動いて働いていなくちゃいられない人間です。
田圃にはお父さんとお母さんが一緒に出るのが益田家の決まりでした。
お父さんの運転する軽トラの後ろにお母さんが乗って出かけて行きます。
その後ろを、コチサたち兄弟が走って付いていきました。
子供たちが巣立ってもその習慣は変わりませんでした。
お父さん
「母さんな、畑に出ちょる・・・」
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その声は少し寂しそうでした。
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コチサ
「じゃぁ、お父さんが夕飯の支度でもしたらいいじゃん。お母さん喜ぶよ」
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「馬鹿言うな、なんでわしが台所なんかに立たなあかんのや」
憎まれ口が返ってくると予想していました。
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お父さん
「あぁ、そうしちょるんやけどな。父さんはうどんしか作れんからなぁ。昨日も一昨日もうどん、母さん飽きたと言っとったわ。サチコ、どないしたもんかなぁ」
コチサ
「どないしたもんかなぁって、自分で考えればいいじゃん、じゃぁねぇ」
コチサは怒ったように電話を切ってしまいました。
何でこんな悲しい気分になるんだろう?
お父さんの代わりに一人で田圃に出る、お母さん。
そのお母さんの代わりに、夕飯を用意して待つお父さん。
何か世間に胸を張って自慢したいことなのに、寂しさが先立ってしまいました。
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お父さんは誰よりも強くて元気で・・・
お母さんは誰よりも優しくて・・・
お父さんの差し出す「おかわり」のお茶碗に、お釜からご飯を盛るお母さん。
負けずにコチサも「おかわり」のお茶碗を・・・
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尖った石も下流にくる頃には、角が取れて丸くなります。
病を患った事が理由ではなく、お父さんも丸くなってきたのでしょう。
もしかしたら、お父さんとお母さんの間には、穏やかなやわらかい時間と空気が流れているのかも知れません。
コチサが公園で時々見かける老夫婦・・・
苔むした感じが強い絆を感じさせます。
それを見るたび、
「いいなぁ」
と、思っていたのですが・・・
自分の親はちょっと違うのかも知れません。
「いいなぁ」と感じる前に、月日を感じてしまうのかも知れません。
子供は親の前ではいつまでも子供でいたいから、親はいつまでもあの時のままでいて欲しいなんてつい思ってしまいます。
その夜、母から電話が・・・
お母さん
「昼間、電話くれたんやってな」
コチサ
「うん、荷物届いたから」
お母さん
「ふりかけ、入れといたからな食べなあかんで。あとカレーもな」
コチサ
「うん、ありがとう。お父さん、夕飯作ってるんだって」
お母さん
「あぁ、でも三日坊主や、わしはもう嫌じゃ、明日からは畑に出るって、フテ寝しちょるわ」
それでこそ
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