コチサニュース No.134 2001.8.28

 コチサニュースに実家の話題が増えるにつけ、「田舎っていいよね」というメールをいただきます。

 書店には「田舎暮らし」に関する本も並んでいます。

 ということで、今号は「田舎暮らし」賛歌を・・・



 小学校の頃、「こども会」の順番で年に一回は、コチサにも廃品回収の当番が回ってきます。

 前日、コチサは田舎の家々を回ります。

 コチサ

 「こんにちは、明日は廃品回収ですので、本や雑誌をまとめといてください」



 そして当日。

 まだリヤカーは大きすぎてコチサには扱えないので、一輪車(リヤカーの小さい奴、バランスを取るのが難しいんだ)を繰り出しての出発です。

 コチサ

 「行ってきまーす!」

 お父さん

 「おう、ようけ働いてこい!」

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 さぁ、首にタオルを巻いたコチサの「廃品回収」の一日が始まります。

 何人かの小学生が地域を分担しています。

 集合場所は、バス停の前です。

 ここに誰よりも早く、一番多くの廃品を集めるんだと決意も新たに出発です。



 コチサ

 「おばちゃん、おはよー。廃品を取りに来たよー」

 おばちゃん

 「あーご苦労やなぁ、そこに積んどるよ」

 コチサ

 「ありがとー」



 順調に回収が終わり、さぁ後は山上のおばちゃんの所を残すのみです。

 重い一輪車を押して、山の上まで登るのは一苦労です。

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 コチサ

 「はぁはぁ、山上のおばちゃん、おはよう、廃品を取りに来たよー」

 山上のおばちゃん

 「あらあら、ご苦労さまですね。ちょっとジュースでも飲んで行って下さいね」

 コチサ

 「(ちゅー、ちゅー)ありがとー、じゃぁ帰るよ」

 山上のおばちゃん

 「気をつけて帰って下さいね。ご苦労さまでした」



 山上のおばちゃんは、きれいな言葉を話します。

 服装もいつも地味だけど小奇麗です。

 コチサは、以前お母さんに聞いた事がありました。

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 コチサ

 「山上のおばさんって、きれいな言葉しゃべるんな」

 お母さん

 「あの人は、町からこの村にお嫁に来たからなぁ」

 コチサ

 「ふーん、やっぱり町の人は違うんなぁ」

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 山上のおばちゃんは、率先して村の行事に参加します。

 村の集まりにも一番早く着て、一番遅くまで居ます。

 山の上の一番遠いお家なのに・・・

 山上のおばちゃんは、子供たちの憧れです。

 きれいな言葉を話して、優しくて・・・

 山上のおばちゃんは、村の人からの信頼も厚いです。

 山上のおばちゃんに任せれば、安心と絶大の信頼感があります。

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 ある日、お父さんがポツッとつぶやいた事があります。

 お父さん

 「あの人も、この村に嫁いで来て、ようここまで頑張ったのぉ。受け入れてもらう為には、もともとの村の人の何倍も苦労せないかんかったろうになぁ」

 でも山上のおばちゃんはいつも優しく、明るくて、とてもそんな苦労があったなんてコチサには想像もつきませんでした・・・



 時は一気に20年が経ちます。

 山上のおばちゃんの息子さんは、学者肌で自宅に篭って仕事や考え事をするのが好きな息子さんになっていました。

 人付き合いもそんなに得意ではなく(得意でないと言っても、コチサが東京で暮らすようになってから出会った人たちと同じなのですが)、定期的に開かれる村の会合や、消防団の集まりとかに参加するのは特に苦手なようでした。

 山上のおばちゃんは、若い頃の無理がたたったか足腰がすっかり弱り、山の上という事もあり、めったに外に出ることはなくなっていました。

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 村に住んでいて、村の集まりや消防団の集まりに参加しないのは大きな「情報不足」になります。

 近所の人たちとの交流も途切れがちになります。

 良からぬ噂話の的にさえなります。

 山上のおばちゃんの家も、だんだんそうした情報不足の影響を受けそうになって来ました。

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 ある日の会合の時・・・

 山道を杖に辿って崩れ落ちそうにおりて来る、山上のおばちゃんがいました。

 何時間もかけて、山上のおばちゃんが集会所に付いた時には、集会も終わりに近づいていました。

 山上のおばちゃん

 「今日は息子が参加出来なくて申し訳ありません。今後も息子は参加しないかもしれません。でも集会には私が出席します。この村の一員としてどんな事があっても私が出席します。だから山の上の私たちの家族を忘れないで下さい」

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 そこにいた皆は、思い出しました。

 この山上のおばちゃんがまだ若かった頃を・・・

 率先して村の行事を切り盛りしてくれた事を・・・

 そして、このおばちゃんが町から嫁いできて、並大抵の苦労ではない努力をしてこの村に馴染んだことを・・・

 その夜は、山上のおばあちゃんを家まで送るという立候補者があまりに多くて、山上の道がヘッドライトの行列を作ったほどでした。

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 結局、山上の息子さんはどうしても人付き合いが馴染めず、村を出て行きました。

 山上のおばちゃんは、一人ぽっちになっちゃったけど、集会を山上のおばちゃんの家でやったり、集会所でやった時はすぐ報告の車が走ったりと、村の人たちに囲まれて過ごしていました。



 コチサの廃品回収のあの時から二〇余年、山上のおばちゃんのことが気にかかりました。

 コチサ

 「なぁ、山上のおばちゃん、今も元気にしてるかなぁ?」

 浩二

 「あぁ先週会ったでぇ、元気ようしとるよ」

 コチサ

 「町からお嫁に来て、何年になるかな?」

 浩二

 「あのな、ここももう「町」になって何十年も経つんやで」



 「田舎暮らし」・・・

 いろいろなルールやしきたりがあるかも知れないけど、それがルールやしきたりと思わなくて自然なことのように思えたら・・・

 こんな素敵な生活無いかもしれないよね。

 住めばミヤコチサ


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