コチサニュース No.74 2001.4.4

 コチサニュース第52号のお話、「池上線」の続報です。

 コチサニュースを見てくれた方から繋がった、人から人への手渡しで、ついにコチサの手元にあの「池上線」のCDが届きました。

 歌っていたのは、西島三重子さん。

 コチサの口ずさんでいたフレーズとは若干違っていて、

 「池上線が走る町に あなたは二度と来ないのね
  池上線に揺られながら 今日も帰る私なの」

 というものでした。

 多くの方の手をわずらわせてまで、手元に届けてくれた事に心より感謝させていただきます。

 ありがとうございました

 では、感謝の気持ちを込めて一曲・・・

 ・・・と思ったのですが、送られたCDに、

 「決してHP上で歌わないで下さい」

 と付箋が貼られていたので(何でだ?)泣く泣く辞退させていただく事に致します。



 さて、せっかくだから池上線にまつわる最近の出来事を・・・

 時刻は夕方、車内の座席は埋まって、所々に立っている乗客がいるという、まぁ中程度の混み具合で発車を待つ始発駅でのこと・・・

 コチサの前の座席では、小学校高学年くらいの女の子が二人座って仲良くお話をしています。



 女の子1

 「じゃぁ、あれ食べようか」

 女の子2

 「うん」



 カバンから出した包みは「麦チョコ」のお徳用パッケージです。

 今時、麦チョコって・・・

 ちょっぴり微笑ましく思ったコチサでしたが・・・

 女の子が、封を切ろうとビニール袋を引っ張った瞬間・・・

 バリッ!

 お徳用パッケージのほとんどの中身が車両全体にぶちまけられてしまいました。

  コロコロコロコロ・・・

 麦チョコは転がる

  ・・・コチサの足元にもコロコロ・・・



 ところが・・・

 この女の子、麦チョコをぶちまけたリーダー格の子ですが、全然動じません。

 コチサのイメージでは、「わぁー」とか「きゃー」とか言って後はオロオロというのがパターンですが・・・

 「この子たち、何も気にしてないのかしら・・・」

 ちょっぴり、「ムッ」っとしたコチサです。

 すると・・・

 女の子1

「あらあら、散らかっちゃったわねぇ」



 その後・・・

 女の子はおもむろに立ち上がり、カバンを椅子に置いて、マフラーもはずし、スカートのすそを少し絞りあげ器用に巻き込みます。

 ここまでで、既に麦チョコをぶちまけてから2分くらいは経っています。

 その反応と緩慢な動作は、なんか若年寄りという風格があります。

 そしておもむろに・・・

 車内にしゃがみ混みながら麦チョコを拾い出しました。

 相棒の女の子には、

 「ちょっとそこで、待っててね」

 と言い残して。



 女の子は、

 「あらあら」

 「こっちも」

 「ちょっとすみませんねぇ」

 などと言いながら、ちょっぴり小太りな体を窮屈そうにさせ、車内を移動して行きます。

 麦チョコは飛び出した袋に一粒づつ戻されて行きます。

 立っている乗客が踏みつぶしてしまった麦チョコは、片手をほうき、片手をちりとりの要領ですくい集めます。

 列車が発車しても女の子の麦チョコ拾いは終わりません。

 車内の乗客は、その一部始終を見守っていますが、何故か誰も手伝いに参加しません。

 いつもならその空気が嫌で、真っ先に話しかけてしまうコチサも今回は無言のままでした。



 なんかその女の子の動作がすごく自然なのです。

 「あぁ、こぼしちゃった、急いで拾わなくては」という雰囲気でも無く、

 「あぁ、恥ずかしい、顔が火照る」という雰囲気でもないのです。

 何よりその女の子は、周りの人の反応を全く気にしてもいなければ期待もしていないのです。

 もちろん、拾おうとする麦チョコの前に人がいれば、

 「すみません、ちょっと」

 と言って動いてもらってから拾います。



 その女の子の頭の中では、

 「あぁ誰か手伝ってくれないかな」とか「みんな冷たいな」とか、そんな言葉は最初から考えた事もない感じなのです。

 コチサだったら、多分家の中で一人っきりの時に何かをぶちまけてしまっても、ここまで淡々とした動きは出来ないでしょう。

 「あーもう!」

 とか言って、自分自身に八つ当たりして嫌々片付けに入るはずです。



 歩いていてちょっと靴の紐がほどけたから、立ち止まって紐を結ぶ。

 女の子の動作はまさにそんな感じだったのです。

 まさか、靴の紐を結ぼうとしている子に「手伝いましょうか?」とも言えない・・・

 そんな雰囲気の出来事でした。

 そして五反田発の池上線が3つ目の駅を過ぎた頃、女の子の回収作業は終わり、何事も無かったように相棒の女の子の隣の席に戻りました。



 この子、大物になるな・・・

 心地よい電車の揺れに身を任せながら、目の前の女の子の将来を勝手に想像していたら、とっくに下車駅は過ぎていきました。


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