No.68 2001.3.21
妹の子供が5才になって、電話のかけ方を覚えたようです。
かすみ
「あっ、こちさぁ、おはよう」
コチサ
「なんだ、かすみか・・・なーに?何かご用?」
かすみ
「あのね、バービーちゃん、買って」
コチサ
「バービーちゃんかぁ、まぁいっか、じゃぁ送ってあげるよ」
かすみ
「ありがとう。えーと・・・それから、とっぷすのチョコレートケーキも・・・」
コチサ
「かすみ、それは君の希望じゃ無いね。お母さんが後ろで言わせているね。お母さんに言っておきなさい。そんなもんばっかり食べてたら太るからダメだって」
かすみ
「・・・おかーさん、太るからダメだってぇ〜」
ふっふっふっ・・・
子供を使ってこのコチサさんを乗せようとしたってお見通しさ。
ところで、この妹の子供たちは、コチサの両親、つまり母親の祖父祖母を、「山じぃじ」「山ばぁば」と呼びます。
山の向こうに住んでいるおじいちゃん、おばあちゃんという意味で、決して妖怪だと思っているわけではありません。
この「山じぃじ」の孫娘の可愛がりようといったら、目の中に入れても痛くないとはこのことです。
今年の正月のこと、妹夫婦がこの孫娘を連れて新年の挨拶にやってきました。
かすみ
「山じぃじ・・・」
山じぃじ
「おーかすみ、よう来たなぁ、山じぃじですよぉー」
孫娘を抱き上げ、ほおずりをして満面の笑顔の山じぃじ、ふと何かの視線に気が付いたのでしょう。
どきっとしたようにこちらに目を向けました。
そこには、しらーっとした目をしてその光景を見つめる、山じぃじの長女コチサが・・・
山じぃじ
「な、な、なんだ、何か文句あ、あ、あるか?」
コチサ
「別に・・・」
山じぃじ
「じゃじゃぁ、こっちを見るな、気色悪い」
コチサ
「♪山じぃじぃ〜」
山じぃじ
「な、なんだ、お前にそんな呼ばれ方をするいわれはないわい」
しまったという父の顔。
こいつだけには見られたくなかったという顔です。
久しぶりにやってきた孫娘が嬉しくて、年末から帰ってきている要注意人物コチサの存在を忘れてしまっていたようです。
子供の頃から厳しく、笑顔など見せた事のない父。
コチサにとっては、恐いというイメージしか無かった父。
その父が、孫娘の前で恰好を崩しています。
コチサ
「あーぁ、その笑顔をこの娘にも見せていてくれてたら、コチサの人生も変わっていたかも知れないのになぁ〜」
山じぃじ
「何を言ってる。お前に甘い顔見せたらどこまでもつけあがって大変な騒ぎだわい」
コチサ
「ほー、いいなぁかすみ、山じぃじ優しくて・・・」
山じぃじ
「うるさいお前は、あっち行け。お前がいるとおちおち孫とも遊べん」
山ばぁばがやって来て、コチサを台所に連れ出しました。
母
「やっとああいう風に気楽になれたんよ、遊ばしてあげなさい」
コチサ
「全く、コチサが子供の時にもあんなに優しくしてくれれば良かったのに・・・」
母
「お前の時は、初めての子供でそんな余裕はなかったんよ。良い子供に育てなくてはって、とにかく毎日が真剣勝負やったんよ。私らも新米のお父さん、お母さんやったからな」
コチサ
「お母さん・・・」
母
「でもお父さんが必死で頑張ったから、曲がりなりにもお前は悪いこともせずに育ってこれたんやろ、感謝しぃよ」
コチサ
「そだね・・・」
母
「お前もその分、今のかすみのように、おじいちゃんおばあちゃんに随分可愛がられたんやで」
コチサ
「うん、覚えている・・・」
母
「かすみも山じぃじには優しく可愛がられているけど、お父さんには厳しく躾られているんやろ」
コチサ
「役割があるんだね、みんな・・・」
母
「親も勉強、子も勉強や・・・山じぃじもお前が無事に育ってくれたんで、やっと自信を持ってああして孫にあんな優しい顔が出来るようになったんやろな」
あー子供も大変だ。
お父さんに自信を持って孫をあやしてもらうためには、まだまだコチサも娘として精進していかなくちゃいけないんて。
でも自分の人生が誰かの何かを支えているっていうのは、結構ステキなことかもしれない。
それが、両親や家族ならなおさらだ。
すっかり頭頂部が禿げ上がった父が、山じぃじなどと呼ばれる姿はまさに妖怪のようです。
しかし、その笑顔の一端をコチサが背負っているのかと思うと、誇らしい気持ちになりました。
コチサ
「♪山じぃじぃ〜」
山じぃじ
「な、なんだ、また来たのか、何か用か?」
コチサ
「いや、別に・・・かすみ、山じぃじ好き?」
かすみ
「うん!大好き!」
コチサ
「コチサも」
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