コチサニュース No.024 2000.12.1

 いよいよ師走に突入です。

 今年は早めにと思って、年賀状ソフトをインストールしました。

 去年の年賀状を一枚一枚見直しながら、住所を打ち込んでいきます。

 赤ちゃんの写真がメインの年賀状が多いのに気が付きます。

 同級生達は、ほとんどがお母さんになっている年齢なんだと改めての実感です。

                   

 小学校の頃、コチサは1台バスに乗り遅れると、1時間半も一人で学校に残らなければならなかった・・・

 (一際、遠い山の中から通っていたからね)

 友達が誰もいなくなった放課後の校庭で、コチサはいつも鉄棒で遊んでいた。

 週に3回くらいは、そういう日があったから、コチサの鉄棒は随分上手になっていたはずだ。

                   

 ゆみちゃん

 「鉄棒、うまいやんか」

 コチサ

 「あっゆみちゃん、バスは?」

 ゆみちゃん

 「乗り遅れたわ・・・あたしも一緒にやっていい?」

 コチサ

 「うん、でも・・・」

 ゆみちゃん

 「何回、回れるん?」

 コチサ

 「30回出来た」

 ゆみちゃん

 「30回かぁ、すごいなぁ」

 コチサ

 「でも、セーター擦り切れるんよ、また怒られるわ」

  鉄棒の後ろの椎の木から、真っ赤な夕日が照りこんでくる。

 コチサ

 「まぶしいな」

 ゆみちゃん

 「今日はな、妹の世話せんでええねんよ」

 コチサ

 「そっか、だからゆっくり出来るんね」

 ゆみちゃん

 「あたしな、高校卒業したら東京行くんねん」

 コチサ

 「引っ越すんか?」

 ゆみちゃん

 「違う、あたしだけ。一人で東京へ行くんねん」

 コチサ

 「一人でか?すごいな」

 ゆみちゃん

 「大人になったら、一人がいいねん」

 コチサ

 「でも一人は、淋しいねんで」

 ゆみちゃん

 「でも、一人がいいねん」

                   

 ゆみちゃんの家は、山を二つ越えるコチサの家と違って、一つ超えるだけだから、次のバスでも家に帰れるのに・・・

 きっと今日は、妹の世話をしなくていいから早く帰りたくなかったんだろう・・・

 そんなことを思いながらコチサは相変わらず鉄棒でぐるぐる回っていた・・・

                   

 その後ゆみちゃんは、お父さんとお母さんが離婚して、ずーと妹の面倒を見ることが無くなった。

 東京に出ると言ったゆみちゃんは、結局は一度も村を離れることなく、今もそこに留まっている。

 何の因果か、一人暮らしを淋しがったコチサの方が、東京に出ることになり、年に一回ゆみちゃんからの年賀状で故郷の情報を仕入れることになっている。

 子供を抱いたゆみちゃんが笑っている。

 あんな田舎にまで、こんな写真付きの年賀状が普及したんだと感慨に浸っているコチサだけど、感慨の本当の理由は別のところにあることも知っている。

 あの日、ゆみちゃんは何でわざわざバスを1台乗り過ごしコチサに話しに来たんだろう?

 実はまだまだ良くわからないことだらけだけど、少しづつわかってきたこともある。

 ゆみちゃんは、妹の世話が嫌じゃなかったこと。

 あのとき既に、妹はお父さんに引き取られて東京へ行くことを、ゆみちゃんは知っていたこと。

 でも、ゆみちゃんが妹と会うことは二度と無かったこと。

 校庭に夕陽が差し込む頃、いつも一人で「山二つ越え」のバスを待ちながら、必死で鉄棒にぶら下がってぐるぐる回っているコチサを、ゆみちゃんは「山一つ越え」のバスに乗りながらいつも見ていたと言っていた。

 「でも一人は、淋しいねんで」というコチサの言葉に、「でも、一人がいいねん」といったゆみちゃんの言葉は、淋しそうなコチサへの激励の意味も込められていたのかもしれない。

 さぁ2001年のゆみちゃんからの写真入りの年賀状、赤ちゃんは大きくなっているかな?

 ゆみちゃんの笑顔は一層輝いているかな?

 たくさんある写真入りの年賀状の中で、何でゆみちゃんの年賀状だけひっかかってこんなことを思い出したんだろう。

 よーく写真を見ると、その答えがあった。

 その写真は、あの校庭のあの鉄棒の前で撮られていた。


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