No.459 「ヘブンアーティスト」 2004.11.10
 都内の公園

 コチサの新師匠が「ヘブンアーティスト」なので、お手伝いを兼ねて許可を取った指定活動場所に出かけました。

 弟子のコチサが言うのもなんですが、師匠のアクロバット芸は大向こうを唸らせる大道芸なので、たくさんの人が集まってきます(^O^)

 コチサはその隅っこで小さくなってジャグリングボール3つを練習してます^-^;

 そんなコチサと目があったおじさんがいました。

 おじさんもジャグリングボールを3つ持っていました。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 コチサ
 「こんにちは(^o^)」

 おじさん
 「こんにちは」

 コチサ
 「おじさんもジャグリングやるんですか?」

 おじさん
 「ボケ防止にね。15年位前からはじめたんだよ」

 コチサ
 「15年!すごいですね」

 おじさん
 「まぁあなたより上手かもね^-^;」

 コチサ
 「じゃぁみんなに見せてあげれば喜ばれて、一石二鳥じゃないですか(^o^)」

 おじさん
 「前はね、そうしていたんだよ。子供たちも集まって喜んでくれたりしてね」

 コチサ
 「・・・」

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 コチサの記憶の引き出しがゆっくりと開き始めました。

 今はバラエティ番組で活躍されていらっしゃる浅田美代子さんの、歌手としてのデビュー当時のお話です。

 その頃、TBSで「時間ですよ」という人気番組があり、その挿入歌の「赤い風船」という名曲を歌ったのが、「となりのミヨちゃん」役で出演もされていた浅田さんでした。

 そして今はどうか知りませんが、その頃NHKでは、NHKの歌番組に歌手として出場して歌を歌う為には、NHKのオーデションに合格しなくてはならない決まりがあったそうです。

 でもその頃の浅田さんは、今のコチサ同様に音痴と言われていました^-^;

 浅田さんがNHKのオーディションに落ちるというニュースが、ワイドショー的扱いで巷を席巻しました。

 浅田さんのおかげで、NHKの歌番組に出るには歌手でもオーディションを受けなくてはいけないという事実を、多くの人がその時はじめて知りました。

 浅田美代子さんの歌う「赤い風船」は、すでに大ヒットをしていて、NHK以外の局では毎日のように歌番組で歌っていたにも関わらず、NHKでは浅田さんが歌うことは出来ませんでした。

 ワイドショーは「浅田さんがまた落ちた」「次回のオーディションは○月○日」などと取り上げ、家族団らんの話題に貢献していました。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 サブちゃん
 「歌は心だ。うまい下手より気持ちだ。歌のうまさを審査するもんじゃないよ」

 お千代さん
 「そうねぇ。いくら歌が上手でも心がこもっていなくてはねぇ」

 ゆり子姉さん
 「あんまり下手すぎるのは、国民に悪いと思っているのかしら」

 ばたやん
 「歌のうまさっていったら、オレだって自慢は出来ねぇや」

 (※時代考証がめちゃくちゃですみません。なにぶんリアルタイムじゃないもんで^-^;)

 もしかしたら歌手が集う楽屋では、このような会話がされていたかもしれません。

 (あくまでコチサの想像っす^-^;)

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 国営テレビとしてオーディションの是非はわかりませんが、コチサの田舎のような山奥ではNHKしか入りません。

 大ヒット曲「赤い風船」を聞きたくても聞けないのは、少し寂しい気がしました。

 サブちゃんもお千代さんもゆり子姉さんもばたやんも、いろいろ意見はあったと思いますが、共通しているのは、みんなすでにNHKのオーディションを簡単にクリアしているということでした。

 浅田さんはその後、何度目かのオーディションに合格し、晴れてNHKの番組で全国に「赤い風船」を聞かせてくれました。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 「ヘブンアーティスト」というのは、東京都の文化政策の一環で、

 【審査により選定したアーティストにライセンスを発行して、公園や地下鉄の駅など、公共施設の一部を活動の場として提供することによって、《街のなかにある劇場》として都民が気軽に芸術に親しむことができ、アーティストと観客との交流をとおして芸術文化を育む場としていくもの】

 とうたわれています。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 この制度が決まった時、大道芸を生業とする芸人さんたちにも、さまざまな意見がありました。

 コチサが聞いた中で一番多かったのは、

 「大道芸というのは、自由に活動して投げ銭で食べていくもの。
 面白いと思ったものには銭が飛んでくるし、そうじゃなければ自然に淘汰されていく厳しい世界。
 それを誰かが、あんたは上手だ、あんたはダメだとか認定して、活動の場を与えたり剥奪したりするのは、ちょっと違うんじゃないかな」

 というものでした。

 でも、議論をする大道芸人たちに共通するのは、みんな「ヘブンアーティスト」の資格を取っていたことでした。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 もし・・・

 昔とっても歌がうまくて、たくさんの人の心に染み入った歌手がいて・・・

 でもその歌手は歳を取ってかつての音域が出なくなってしまっていたら・・・

 歌は下手になったかもしれないけど、その歌手がステージに立てば、歌以上に聴衆に感動を与えるものを持っているかもしれない・・・

 歌に人生を賭けた「生き様」が発するオーラというのは、その歌手にとっても聴衆者にとっても大切な支えのような気がします。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 もし・・・

 かつて一世を風靡した大道芸人が、今では足腰が弱くなってしまって「ヘブンアーティスト」に合格できなかったら・・・

 その大道芸人がヘブンアーティストへのシステムへの不満を並ぺ立てたところで、

 「でもヘブンアーティスト、持ってないでしょ」

 と片付けられてしまったら・・・

 やっぱり、本人にとっても観衆にとっても寂しいことのような気がします。

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 公園はたくさんの人たちのたくさんの憩いの場です。

 コチサの師匠のようなアクロバットバリバリの完璧な大道芸人のすぐ横で、ボケ防止に始めたジャグリングをニコニコ披露している普通のおじさんがいても、楽しい気がしました。

 そしてその反対側では、少し酔っ払いながらチャップリンの服を着て、風船芸で走り回っているかつてのエースがいても、誰も文句は言わないと思います。

 何に感動するか、何を楽しむか、どう参加するか、どう表現するか・・・

 それは100人いれば100通りあるはずだから・・・

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 おじさん
 「ねぇ、君の師匠のパフォーマンス終わったみたいだよ」

 コチサ
 「あっ、ほんとだ、撤収してる」

 おじさん
 「手伝いに行かなくていいの?弟子なんでしょ」

 コチサ
 「うん・・・でも力仕事はね、嫌なんだ」

 おじさん
 「^-^;」

 コチサ
 「それよりおじさん、ジャグリングの苦労話の続き教えてよ」

 おじさん
 「うん、最初はね、こりゃ絶対だめだと思ったんだけどね・・・ある日突然ね・・・」

 コチサ
 「そうそう(^o^)そうなんだよね、ある日突然なんだよね。そうそう(^o^)」

 おじさん
 「だからそういう感動がね、他のいろんな事でも味わえるんだよって・・・子供たちに伝えられればなぁって・・・」

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 コチサのジャグリングボールはまだピカピカ、発色も鮮やかです。

 おじさんのジャグリングボールは継ぎ接ぎだらけ、色もくすんでいます。

 でもどっちのジャグリングボールも、いざ天に投げられると、太陽の光を帯びて眩しいくらいに輝くんだなァ、これが\(^o^)/

::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::

 「赤い風船」by浅田美代子さん

 あの娘はどこの娘 こんな夕暮れ
 しっかり握りしめた 赤い風船よ
 なぜだかこの手を するりとぬけた
 小さな夢がしぼむ
 どこか遠い空
 こんな時 誰かがほら
 もうじきあの あの人が来てくれる
 きっとまた 小さな夢もってぇ〜
 
 この娘はどこの娘 もう陽が暮れる
 隣の屋根に飛んだ 赤い風船よ
 なぜだかこの手に 涙がひかる
 しょんぼり よその家に
 灯りともる頃
 こんな時 誰かがほら
 もうじきあの あの人が来てくれる
 優しい歌 うたってくれる
 あの人が優しい歌 うたってくれるぅ〜

前のニュースへ                          次のニュースへ