No.425 「花とシャンパン」 2004.7.12
 カラー

 電車に乗っていました。

 隣の席に座っていた女性が立ち上がり、下車しました。

 そして空いたその席に、青年が座りました。

 27,8歳くらいかな?

 それとも30歳くらい?

 まじめそうな・・・

 今風というよりは、どちらかというとおたく系・・・^-^;

 少し小太りの体を、ピチピチのポロシャツとジーンズに包んでいます。

 その大きなお尻を小刻みに左右にゆすって、場所を確保します。

 コチサのお尻がその微妙な振動を察知して、避けるように反対側に重心を移します。

 コチサ
 「(強引な奴だなぁ(`_'))」

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 青年は足元に置いた紙袋から、包装された2本の切り花を取り出しました。

 黄色いカラーが出てきました。

 コチサ
 「(カラーはコチサも好きな花だよ。可憐な花だよね(^o^))」

 続いて、紙袋からはシャンパンの瓶がむき出しで出てきました。

 コチサ
 「(モエ・エ・シャンドン?)」

 シャンパンに興味の無いコチサは、それが高価なものなのかさえよくわかりません・・・

 シャンパンに花・・・

 若しくは

 花とシャンパン・・・^-^;

 コチサのみならず乗客はみな、この青年がこの後に大きなイベントを抱えている事を予想しました。

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 青年は花屋さんでもらったのか買ったのか、ひも状のツルを1本取り出すと、花とボトルを結び始めました。

 コチサ
 「(花とシャンパンボトルのラッピングだね^-^;)」

 しかし青年の考えている事はそこまでのことではないらしくて、ただシャンパンボトルの横にカラーの花を結びたいだけのようでした。

 でも・・・

 流線型のボトルに平行して2本の直立する切り花を添えつけるのは、素人には意外に難しいようです。

 青年の悪戦苦闘が始まりました^-^;

 ボトルと花を並べ立て、ツルを2、3回クルクルまわすと、花がクルッと垂直の方に向いたり、一本だけ下に滑ったり、なかなか思う通りにいきません^-^;

 おしゃれだったひも状の植物のツルも、何回も巻かれているうちに、だんだんササクレが目立ってきました。

 コチサ
 「(花屋さんかワイン屋さんどっちでもいいから、後に買ったほうのお店で絶対にラッピングを頼むべきだったと思うよ。この花をワインにおしゃれに巻きつけて下さいって・・・)」

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 青年は時々顔をあげ、駅名を確認します。

 そしてツルをクルクルっと・・・・

 でもうまくいきそうになると花がクルッ^-^;

 この光景を気にしているのは、どうやらコチサだけでないことがわかりました。

 ボトルと平行に結わえ付けられた花が、クルッと横を向いてしまうと、

 「(あーっ)」

 と声にならないため息を車両のあちこちから感じるようになりました。

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 この青年がこの花とワインを誰に渡すのか?

 そしてその人とこの青年の関係は?

 今日がどんな日なのか?

 車内の人たちは思い思いに想像しています(^-^)

 コチサも想像しています^-^;

 きっとそれぞれの想像は微妙に違うけど、思うことは同じです。

 「(その人は、この要領のあまり良くない青年の気持ちを託されたラッピングを、笑って受け入れてくれる人であって欲しい・・・)」

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 青年の駅を確認する回数が増えて来ました。

 きっと降りる駅が近づいて来たのでしょう。

 でもクルクルクル・・・そして・・・クルッ(あーっ(>.<))

 ところで・・・

 コチサの太ももが妙に熱く感じてきました。。

 そしてなんか、じっとりとしてきました^-^;

 隣の青年の体温がみるみる上昇しています。

 ピタッと貼り付いたジーンズを通して、くっついているコチサの太ももに伝わってきました^-^;

 なんとも言えない複雑な気分です。

 一生懸命な青年の姿を前に、露骨に体を避けるわけにもいきません^-^;

 かといって、この季節にこの生ぬるい湿気は、あまり気持ちのよいものではありません。

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 コチサ
 「(おいおい、車内には誰か一人くらいラッピングの上手な人がいるでしょ。助けてやってよ(>.<))」

 でも・・・

 クルクルクル・・・そして・・・クルッ(あーっ(>.<))

 コチサ
 「(誰の発想だよ、シャンパンにカラーの切り花を一体化なんて・・・)」

 クルクルクル・・・そして・・・クルッ(あーっ(>.<))

 コチサ
 「(本に写真でも載っていたんなら、責任を持ってラッピングの仕方まで記述するべきだよ・・・)」

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 そしてついに・・・

 ブチッ!

 ツルが切れました。

 「あーっ」

 今度は本当に車内の一人が声を発してしまいました。

 青年の額から汗が滴り落ちました。

 コチサ
 「(こんな日に・・・ツルが切れるなんて・・・)」

 誰もが青年に駆け寄り肩を叩いて、励ましてやりたい気持ちになりました。

 「(くじけるなよ、頑張れよ)」

 しかし一生懸命の青年は、そんな車内の空気に気がつくはずはありません。

 車内の人がどうやって慰めようか戸惑っている事など知りもせず、ちぎれたツルを丸めて紙袋に押し込むと・・・

 ・・・なんと新しいツルを取り出しました。

 コチサ
 「(よ、予備をもっていたのかい(^o^;)」

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 そして山の手線はぐるぐる回るのであった・・・

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