No.315「母の日のカーネーション!」  2003.5.8

 写真・・・赤いカーネーション

 コチサ

 「母の日のお花を下さい」

 店員さん

 「いらっしゃいませ、ブーケにしますか、鉢植えにしますか」

 コチサ

 「母親を思う娘の気持ちが根付くように、鉢植えにして下さい」

 店員さん

 「やはりカーネーションがよろしいでしょうか?」

 コチサ

 「もちろんです。母の日といえばカーネーションです」

 店員さん

 「わかりました。お送りしますか?」

 コチサ

 「香川県まで、送ってください」

 店員さん

 「送料が1500円かかりますけど、よろしいでしょうか?」

 コチサ

 「けっこうです。それと『おかあさん、ありがとう、サチコ』というメッセージを付けてください」

 店員さん

 「(プッ)はい、『おかあさん、ありがとう、サチコ』ですね、了解しました」

 コチサ

 「あっ、今、笑ったでしょ。プッって言ったな」

 店員さん

 「相すみません。つい子供さんのようで可愛いらしかったものですから」

 コチサ

 「どんなに年を重ねても、母親にとって子供は子供です」

 店員さん

 「はい、そうですね」

 コチサ

 「お母さんに、お花は送りましか?」

 店員さん

 「はい、これと同じものを今朝、送りました」

 コチサ

 「「おかあさん、ありがとう、けいこ」ってメッセージは入れましたか?」

 店員さん

 「いえ、なんだか恥ずかしくて。ただお花を贈っただけです」

 コチサ

 「たった一言の短いメッセージが、百万本のバラより輝くときがあるものですよ」

 店員さん

 「はい。今晩でも電話して言ってみます」

 コチサ

 「そうですね。良い事ですね。では、発送の方よろしくお願いします、失敬」

 店員さん

 「ありがとうございました、あのぉ、サチコさん」

 コチサ

 「ん?」

 店員さん

 「ちなみに、私の名前はけいこではありませんから」

 コチサ

 「良いって事ですよ、私だってサチコではありません。コチサなんですから」

 店員さん

 「?」

ライン

 コチサは今、母の日にお花を贈ることができる幸せを、かみしめています。

 写真・・・ピンクのフラワーアレンジ

 まだ東京に出てきて間もない頃、コチサは、母の日にお花を贈りました。

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 お母さん

 「サチコかぁ、お花届いたで、ありがとうな」

 コチサ

 「そう、良かった。ん?どうしたの、元気が無いみたいだけど?」

 お母さん

 「いや、母の日にお花もらうのは嬉しいんやけどな。お母さん一人もらういうんはなぁ」

 コチサ

 「・・・」

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 写真・・・花1

 コチサは、おばあちゃんの血をひいていると言われます。

 コチサのおばあちゃんは、白黒はっきりさせる気性の激しい人で、益田家を切り盛りしていました。

 悪い人じゃなかったのですが、昔気質の頑固なところがありました。

 そのおばあちゃんは、なぜかコチサにだけはベタベタに甘く、やさしくしてくれました。

 お母さんが、益田家に嫁ぐ事になったとき、お父さんとの生活よりも、おばあちゃんとの関係をみんなに心配されたと言います。

 コチサのお母さんは、この娘からは信じられないくらい、おとなしく引っ込み思案だからです。

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 コチサ

 「コチサがお花を贈ったら、おばあちゃん何か言ったの?」

 お母さん

 「なんも言わへんで。でもいくら母の日いうてもな、私だけがなんかものをもらうのんは、申し訳ない気がするんや」

 コチサ

 「そんなことないよ、母の日なんだから。素直に喜べばいいんだよ」

 お母さん

 「そう言うてもなぁ・・・」

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 写真・・・花2

 そう言うてもなぁ・・・

 そうなんでしょう、コチサとお母さんは性格も違えば、育った時代も違います。

 コチサがもっと稼いでいて、同じお花を、お母さんとおばあちゃんに二つ贈る事が出来れば、問題はなかったのでしょうけど、当時(今も?)のコチサには、その余裕はありませんでした。

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 写真・・・花3

 そして・・・

 お母さんが遠慮に遠慮を重ねた20数年。

 おばあちゃんは、のびのびと暮らしていきました。

 近所にも、嫁と舅の見本のような親子関係と言われていました。

 コチサは、お母さんもおばあちゃんも大好きでしたが、台所のすみで涙していたお母さんを見た事もあります。

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 大人になったある日、そんな昔話をしていると、お母さんがポツンと話した事があります。

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 お母さん

 「おばあさんが死ぬ前の最期に、親戚や兄弟があつまったやろ。あんときな、自分の血のつながった家族や兄弟がいながらな、この私にな、最期はあんたに看取ってもらえて良かったわ、ほんにありがとうなぁって、言ってくれたんよ・・・あれでな、私は何かすっきりして幸せになれたんよ」

ライン

 写真・・・黄色のフラワーアレンジ

 おばあちゃんが亡くなり、コチサの実家は新築をしました。

 小さい庭が出来て、そこにお母さん専用の花壇が作られました。

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 お母さん

 「お前が毎年カーネーションを贈ってくれるようになってな、それを植え替えとるんよ。長旅で花も疲れて元気がないからな。植え替えるとまたすぐ元気戻して、何年も咲いてくれるようになるんよ」

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 写真・・・花4

 その花壇は、毎年一鉢ずつ増えていき、この時期真っ赤なカーネーションを咲かせます。

 この10年で、お花畑はずいぶん大きくなり、一面に咲いた赤い花は、天国からも十分に見渡せるくらいになりました。

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 写真・・・色とりどりのフラワーアレンジ

 コチサ

 「おばあちゃん、コチサの母の日のプレゼントは、お母さんと、天国からそのお母さんを守ってくれるおばあちゃんに贈っているんだからね」


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