「コチシム」第7章次点作品

第7章のナイスな「コチシム」作品群

第6章とは対照的に、
常連さんは「「グッド、ぐっど!」さんのみ。
今回は範囲が狭く物語を作るのが難しかったみたい。
最初の構成に問題があったのかと反省してます。


[第7章次点作(その1)]
(厚木のコウちゃんの作品です)

「おっぱいのひとつやふたつ見せないで、何が芸能人だ!」
「あたし、MCだもん」
「同じだ!、この世界で生きて行くにはおっぱいを見せるのは義務だ」
「いやだもん」
「見せろ!」
「いやだもん」
「片方だけでもいいぞ」
「いやだもん」
「そこまでこだわるには、何か欠陥があるのか」
「ないよ、ピチピチだもん」
「じゃぁ見せろ」
「いやだ!」
「ちょっとでいいんだぞ」
「いやだもん」
「この世界で生き残れないぞ」
「生き残るもん」
「俺は社長だぞ!」
「コチサはMCだもん」
「首にするぞ」
「ならないもん!」
・・・・・・・・・・

延々と続くかみ合わない議論の後、コチサは「芸能人水泳大会、おっぱい班」の仕事を拒否することに成功した。
事務所の他の女の子たちは泣く泣く「おっぱい露出」を引き受けたようだが、
「声はきかせちゃるけど、胸は見せんよ」という四国女の心意気で、依然ピンクの乳首は封印されたまま末永く闇に閉ざされていくようであった。

「歌は嫌!」
「アイドルデビューだぞ」
「歌は、イメージが違う」
「ちやほやされるんだぞ」
「もうされとる」
「うちは芸能プロダクションだぞ、少しは仕事してくれ」
「声の仕事しかせん」
「声だけの仕事なんてないんだよ」
「探してちょ」
「お前、発音直ってないぞ」
「へへへのへん!」

声の仕事が少ない。コチサはコチサなりに現実の業界の実状がつかめてきてはいた。しかしフリフリのドレスを着てニコニコ歌を歌うことは、ポリシーにあわなかった。というより音痴がばれるのが嫌だったのだ。

「声の仕事だぞ!なんでダメなんだ」
「これは、声じゃない」
「声だよ声」
「うちの田舎じゃ、むつごとって言う」
「睦言でもいい、とにかく声だ、やれ!」
「やらん!あー、うー、なんて声は好かん」
「好き、嫌いじゃないんだよ。アフレコなんだよ」
「社長はスケベじゃ」
「な、何を言ってる、仕事だ」
「やらん」

やりたかったけど、外人の女性のパワフルなあの声はコチサには出来なかった。それにあんな格好であんな大きな声を出すなんてコチサには信じられなかった。

「今度はどうしてだめなんだ、アルプスの少女だぞ」
「コチサは声優じゃない」
「声の仕事だろうが」
「純粋な声の仕事と声優の仕事は別もんだと思うちょる」
「お前、また訛ってるぞ」
「言葉を紡ぎたいねん」
「お前、四国の出身だろ、それ関西弁だぞ」
「自分でもわからんねん、声の仕事って」
「まぁとりあえず、声優してみろ」
「いやだもん、声優は声がキャラクターの手段になるやん。コチサは声がそのまま武器になりたいんや」
「お前は何を求めてるんだ」
「わからんねん」

コチサの求めてることは、まだこの世に存在しないものなのかもしれない。人から発声された「声」「言葉」が他の人の心に入ってそこから育っていく。そんなイメージをコチサは「言葉を紡ぐ」と表現しているが、では何をしたらいいのか。
コチサは悩みパニックになると、アクセント辞典の効果が一気に薄れていってしまうのであった。

「お前と同じように悩み続けて30年も経った馬鹿がいる」
「・・・・・・・・」
「声にこだわり、発声法を研究している」
「・・・・・・・・」
「独特の発声練習で声の幅を広げてくれる。苦しい練習だからみんな辞めていくけどな」
「・・・・・・・・」
「何かお前のやりたい仕事のイメージが掴めるまで、基礎を、土台を広げておくのもいいかも知れないな」
「首ですかい?」
「出向だ!しっかり腹式呼吸の頂点を究めて来い」
「給料はでるんか?」
「あぁ現状の7割は保証してやる」
「いいんか?」
「ああ」
「何か悪いなぁ」
「いいから、行け」
「ありがとな、じゃぁちょっとだけ社長さんには、おっぱい見せちゃろか」
「いいから行け」
「ほうか、ほんじゃな」

すでに山猿のようなコチサが修行を重ね、山にこもり一層の山猿となって街におりてくるのはそれから一年後のことである。


◆コチサの寸評

せっかく東京に出てきて洗練されたのに、またあか抜けないコチサに戻っちゃたのね。
作品的には意味がないんだけど、何となく捨てるには惜しい作品として掲載となりました。
働かなくて勉強していて「現状の7割の給料が保証」されるシステムにコチサは憧れるなぁ
あと妙におっぱいフェチなところはコチサ嫌いだ!


[第7章次点作(その2)]
(札幌の花魁さんの作品です)

「ほら、あの子よ」
「なんかお高くとまってるって感じ」
「でもあたしとっても明るく挨拶されちゃった」
「それって嫌みじゃない」
何処の世界も先輩の「いびり」はあるもので、給湯室へお茶を汲みに来たコチサの耳に、聞こえよがしのひそひそ話が飛び込んで来ました。
「まただよ」
相手にはしないつもりでもあんまりいい気分はしません。
この3カ月でコチサが彼女たちに下した決断は、
「あれだけ人の足を引っ張ることに集中できる力を、もっと自分を磨くパワーに向けたらみんな大成するのにな」
ということでした。

3カ月前、アナウンス学校を首席で卒業したコチサは、数々のタレント事務所からスカウトされました。
「なんかスター誕生の決戦大会みたい」
札こそあがりませんでしたが、コチサにとってはこの2年間の苦労が報われた感じで、ちょっと「ぽー」となってしまったのでした。
その勢いでミーハーなコチサが顔を出してしまったのか、ついネームバリューのあるタレント事務所と専属契約を結んでしまいました。

この3カ月、コチサは忙しさで目の回るような生活をしましたが、振り返ってみればどれもタレントとして露出の仕事ばかりでした。純粋な「声」の仕事はひとつもありません。
今日も「にわかスクールメイツ」の一員として「オールスター水泳大会」の壁の花のお仕事です。
有名タレントはそれぞれ個室をもらって着替えますが、コチサ達は大部屋での着替えです。
野望を胸に秘めたタレントの卵達で埋め尽くされたその部屋の臭いは強烈です。
コチサの事務所から派遣されたタレント達も数人コチサの回りで着替えています。

「シューズに画鋲を入れる」「衣装を盗む」「下剤を飲ませる」・・・・・様々な嫌がらせはコチサも聞いていました。しかしこんな嫌がらせが・・・・・
支給されたコチサの水着は両方の乳首の部分が切り取られていました。
右に左にたくさんのおっぱいが溢れる大部屋更衣室で緊張していたコチサがそのことに気づいたのは、ほとんど出番直前、目の前が真っ暗になりました。
だってもう廊下を歩いていたときだったから。

総合司会兼アシスタント役の由里さんが、すれ違うコチサにそっと「ニプレス」を渡してくれました。
切り取られた乳首の部分を「ニプレス」で応急処置をして本番に臨んだコチサは終始ヒヤヒヤでした。
画面に映らないように、いつもカメラを意識して動いていました。

由里さんは、タレントとしても人気がありましたが、将来は声優として仕事をしていきたいと願う強い意志を持った人でした。
由里さんによると、芸能人水泳大会では毎年必ず、水着乳首切り裂き事件は起こっているそうです。だから由里さんはいつもニプレスを持ち歩いていたのでした。
「一昨年は純ちゃん、去年はミドリちゃんがやられたのよ」
「えっ?」
「そう、今では有名なタレントさんよね。だからあなたも頑張りなさいってことかもね」
由里さんはそう言って、コチサに優しく微笑みました。
忙しい時間をわざわざ自分の控え室にまで呼び出して、こんな話しを聞かせてくれた由里さんの暖かさにコチサは思わず本音をもらしてしまいました。
「でも。私、タレント志望じゃないんです。朗読とかナレーションとか声で勝負していきたいんです」

由里さんの顔が変わりました。
「帰りなさい。時間がいくらでもあると思ってる人には何も話したくはないわ。為にならない遠回りはただ流されているだけよ」

「そういえば、本格的な発声レッスンなんてもう随分してないなぁ」
「由里さんの声、怒ったときと優しいとき随分響きが違ったなぁ」
その夜、ミーハーコチサが顔を出した就職決定の安易さを、コチサはつくづく実感しました。

事務所では相変わらずいじめやいびりが続いています。
タレントサポート的な仕事も相変わらずです。
そんなとき、スポーツ新聞に病気療養中の由里さんの記事が載りました。

「時間がいくらでもあると思ってる人には何も話したくはないわ」
由里さんの言葉が蘇りました。
「覚えていてくれるかな私のことなんか」まるっきり自信がなかったけど、由里さんの入院している病院にお見舞いに行くことにしました。

「まだ、あんなお仕事続けてるの?」
開口一番、由里さんが口にした言葉でした。
でもそれは、前のように冷たい言い回しではなくどこか優しい響きが感じられました。
それに、コチサは由里さんが自分の事を覚えていてくれたことが嬉しくて、何を言われてもあんまり感じなかったのです。
「でも、発声練習とか筋力トレーニングとかは、家に帰って一人で続けているんです」
思わず弁解しちゃうコチサには、胸の中に今自分がしていることが中途半端なことだという自覚があったのでしょう。
由里さんもそれが伝わったようです。
「若い時は無駄も必要なのかもね、あなたには、為にならない遠回りじゃ無いかも知れないわね、あたしとあなたは違うもんね」

コチサは今、すったもんだの末、事務所を移動し、名もない小さなプロダクションで「商店街のセールの呼び込み」「バスの停車駅案内の吹き込み」など目立たない仕事をこなしています。なぁんだこれじゃ、アナウンス学校時代のアルバイトと変わらないじゃない。
いいや、コチサはそんなこと思っていません。
今度の事務所は無茶苦茶きついボイストレーニングがあります。「声」の仕事の世間の認知の低さというものも勉強しました。
声にまつわるいろんなことを理解して選んだ事務所です。「声」そして「言葉」に対する理解が深まったとき、それにまじめに取り組んでいくこの事務所は社会的に認められていく事務所となっていくでしょう。

また一つコチサは大きな経験をしました。
そしてまた一つコチサの声は大きな膨らみを持ちました。


◆コチサの寸評

コチシムファンの皆様にはお解りのように、かなり「編集」が入っています。
そうです、原作では由里さんの病は複雑なのです。(これで察してください)だから本当は作品はもっと練られていて、愛と友情ロマンに仕上がっています。(作者の名誉のためにね)
でもコチサ編集長は傲慢なので意にそぐわないストーリーは載せなかったのじゃ。


[第7章次点作(その3)]
(「グッド、ぐっど!」さんの作品です)

失恋、というほどのことでもないわ。最初から、あの人の心の中には彼女しかいないんだ、って、判ってたんだから。私さえ気にしなければ、あとは今までどおり。だけど、。。そう、それが問題なんだわ。

なにしろ、彼が選んだ女性は、いつも私の目の前にいる。彼女の名前を呼ぶだけで、反射的に彼のことを思い出してしまう。鏡の前で撮影のためにヘアメイクをしてもらっている彼女を眺めながら、立ち直るまでにはちょっと時間がかかるかもしれないな、と、私はぼんやり思っていた。

・・・・・・・・・・

新入社員となった私は、先輩の渥美涼子さんの後について廻りながら、業界のことを学びはじめた。涼子さんは私といくらも年が離れていないのだけれど、彼女にはすでに子どものころからCMタレントとして活躍してきた長いキャリアがある。

今の名前に変えてからは声のお仕事を専門になさってるけど、同性の私でさえ見とれてしまうような美貌と、スーパーモデルもかくやと思わせるすらりと伸びた肢体を持ち、歌わせれば張りのあるソプラノで聴く者を魅了する、とくれば、歌手だのアイドルだの映画女優だのといった、あまたのスカウト話がひっきりなしだったはずだ。

「もしそんなことになってたら、合う水着がなくって、オールスター水泳大会で大恥かいてた位がオチだわ」と、彼女はサラリとかわしたけど、理由はほかにあったのかもしれない。(でも、彼女の口から妬みや嫉みとか、いじめとかの話は聞きたくないな、って思った。)

「見かけじゃなくって、声なのよ、あたしのアイデンティティーは。声で勝負したかったの。」そのためにプロダクションも名前も変えた。そんな涼子さんの「声」に対するこだわりは、すごい。整体治療の様な激しいボイストレーニングをまのあたりにして目を丸くしている私に、彼女が放った言葉は、今も私の脳裏に鮮明に焼きついている。

「声はただ出すもの、じゃあないわ。努力して創り出すものなのよ。」

・・・・・・・・・・

最初に見た時にはキザっぽく思えた彼のピアスも、いまではその形のよい耳にぴったり似合っているのがよくわかる。

そうだ。初めて透さんを見かけたのは、彼が涼子さんの部屋から出てくるところだったんだ。私に顔を向けたその人は、気の毒そうな顔をして、涼ちゃんなら、今日はもう帰ったから、と言った。
「熱っぽくて、寒気がすんだってさ」

私は自分の名前を告げ、涼子さんにお世話になっていることを付け加えた。そして、自己紹介する彼を見つめながら、宮古透、ミヤコトオル、と、彼の名前を繰り返した。ちょっと、ドキドキしたっけ。

短く刈った髪は栗色。メタル・フレームの眼鏡が、理知的な面立ちによくマッチしてる。黒でつつんだきゃしゃな体の線と耳のピアスには、どこか妖しいイメージもあったが、ギョーカイの中ではそれほど目立ちもしない。

ずいぶんぶっきらぼうな口のきき方をする人だな、と思っていたのに、それさえ今では、だんだん好きになってきてる。。。

喫茶店のスピーカーから流れていた曲が途切れた時、私はたずねた。
「透さんは、涼子さんとは長くお付き合いしてらっしゃるんですか?」
「そう。。僕にとっては、彼女は特別の人だから」
遠くを見るようなまなざしで、透さんはそう言った。

・・・・・・・・・・

雑誌の表紙を飾る写真を撮るために髪を上げた彼女の耳に、見覚えのあるピアスが光った。
「あれは、透さんとおそろいの。。」
どっちがどっちにプレゼントしたのかしら。。。再び浮かんでくる彼の面影から逃れるように、私は無意識にメモ用紙にアルファベットをならべて、落書きをはじめていた。

・・・・・・・・・・

撮影も済み、呼んでもらった車を、涼子さんと私は控え室で待っていた。
コーヒー・カップを置いた彼女は、凝視している私に気づいた。
「あたしの耳に、なにか付いてるかしら?」

私は名前を呼んだ。自分でも、声が震えているのがはっきりわかる。
聞きなれた声で、「彼」の返事が返ってきた。
「どうして、僕だとわかったんだい?」

おそろいのピアスならあるかもしれないけど、耳の形までおそろいなんて、ありえない、と私は答えた。
丸めたメモ用紙を握っている右手が熱い。

「 ATUMI RYOKO は MIYAKO TORU の並べ替えだったんですね」

・・・・・・・・・・

どっちがどっちの並べ替えなのか、あたしにもはっきりわかんないんだけど、と前置きして、「彼女」の声が語りはじめた。

「カストラート」。それは女声よりつややかなソプラノと、幅広い声域を併せ持つ歌い手。18世紀までイタリアのオペラを支えた、男性機能を犠牲にして芸術に身を捧げた人たち。
「フィガロの結婚のケルビーノの役だって、完璧にこなせたのは彼らだけなのよ」

オペラ狂いの医者が、囲った女に生ませた子ども。女の子として育てられたこと。
「出生届さえ、女だったんだから、法律的にはりっぱに女性よね」

自分の体がひととは違っていることを知った衝撃。顔とスタイルを誉められるたびに、逆にコンプレックスがつのっていったこと。そして。。。

そして、「声」。
「あたしの声は、そのままでは女とも男のものともつかなかった。あたしはあたしの声を、自分で創り出さなきゃいけなかったの。自分を、あたし自身をこの手に取り戻すために。。。」

「声」。ただそのために、運命さえ狂ってしまった。だけどそれが、今のあたしの、たったひとつの財産。

彼女は淡々と語り終えたが、私の耳にはいつまでも重い響きが残った。

・・・・・・・・・・

結局私はプロダクションを移ることにした。涼子さんから学ぶことはまだたくさんあるのに違いなかったが、もう消化しきれないほどいっぱい与えてもらったような気がしていた。

書店に並んだ雑誌を手にとり、こちらを見つめている表紙の彼女を眺めながら、すべてを理解できるようになるまでには、かなり時間がかかるかもしれないな、と、私はぼんやり思っていた。


◆コチサの寸評

支店長をはじめ熱心なファンを持つ「グッド、ぐっど!」さんがラストで登場。
これで4週連続登場の新記録です。
でもね、今回の作品、コチサは少し不満。「育成作品」を目指すというプレッシャーがこうなったのかと思うけど、今まで本当に軽かった、「グッド、ぐっど!」さんの作品が重くなってしまいました。作品的には「かせ」もより巧妙になりテーマも絞られているのに・・・・・・
苦しみましたね「グッド、ぐっど!」さん
バージョンアップの度に機能が加えられて大型化した「ワープロソフト」のようです。
質はアップしたけれど「グッド、ぐっど!」さんの持ち味の、「サクサク打てる快適エディタ」の部分が消されてしまった気がします・・・・・
なんでもそうね、常連になればなるほど見方が厳しくなるのかしら?