さぁ、頭の中を香川県モードにして下さい。
コチサちゃんの生まれ育った香川県は温暖な気候と豊かな海の幸、山の幸、美しい自然に沢山めぐまれてます。一方を海。一方を山に囲まれた小高い丘の上にコチサちゃんのおうちはありました。
晴れた日には海の向こうに本州がくっきりと映ります。小さな漁港には所狭しと漁船がひしめき合い、真っ青な澄みきった空にはかもめ達が円を描くように飛んでいます。
なだらかな斜面が山側に続く石畳の坂道をあがっていくと、あたり一面に段々畑が広がり、ぽつりぽつりとわらぶき屋根の民家が見えてきます。夏も終わりに近づくころ、夕暮れ時になると山々から日暮らしの鳴き声がこだまします。
カナカナカナカナ・カナ・カナ・・・
その坂の途中に小さなおじぞうさんが海を見下ろすように立っています。コチサちゃんはそこから眺める瀬戸内海ののどかな風景がとても好きでした。赤や青や黄緑色の毬のような浮き玉が、規則正しく海面に列をつくり、太陽の光を反射した瀬戸内海の静かな波がキラキラと眩しいきらめきの間から点々と色鮮やかな浮き玉がのぞいています。
その浮き玉がワカメの養殖の為にあることを少女は知りませんでした。時折海の向こうの造船所から響いてくるほら貝のような低く太い音も、その風景になんとも言えぬ風情を与えています。
この四国の田舎町に小さいころから他の子とはちょっと変わっていたカワイイ女の子がいました。
両親はそんなの気にも留めずにせっせとお百姓をやってたんですが、ただ、この子の生まれ持った素質に気付いていた人が一人だけいました。
神父さんです!
他の子供たちがゴム飛びやカカシやキャンディーキャンディーのシール集めに熱中していたころコチサちゃんだけ教会に行ってたんです。(うお〜!!!カックイィ〜!!)
お父さんもお母さんも日曜日くらい田んぼ仕事を手伝ってもらいたかったんですが、コチサちゃんは教会で神父さんのお話を聞くのが大好きだったんです。
そして、いつも神父さんに難しい質問をしては神父さんを困らせていました
「ねぇ、神様ってどこにいるの?」
「コチサちゃん。それはね。お空の上のもっと上に天国が・・・・・」
「ねぇ、神様って男?女?」
「それはねぇ。」
「ねぇ、悪魔って何色の服をきてるの?」
「えっと、悪魔はねぇ、、、、」
「え〜!神父さんこの前と言ってることが違う〜!」
「え?・・・そうだった?」
「それ、おかしいと思う。だって神様はいい人なのになんで悪魔をいじめるの?」
「だからぁ・・・」
神父さんへの質問は日を追う毎に難しくなっていきました。そう神父さんとのお話のおかげで屁理屈を覚えちゃったんです。コチサちゃんは神父さんの困った顔をみるのが段々好きになっていきました。
神父さんは心の中で思うんです!
「この子は他の子とは違う・・・・ひょっとすると・・いずれ・・・・ひょっとするぞ」
ある日、神父さんが皆にコチサちゃんを紹介しました。コチサちゃんにとっては、大勢の人の前に出るのは初めての経験でした。神父さんはコチサちゃんに皆の前でお歌を歌うように言いました。でも、コチサちゃんは讃美歌を一つも覚えてませんでした。
どうしよう・・・と思ったコチサちゃんはひらめきました。
「よし!あの歌をみんなに聞かせてあげよう(^^)」そして、大きな声でうたいました。
「おいも〜え〜、おいも〜、、ほっかほっかのおいも〜だよ。。。(^0^)」
うたい終わったあと、コチサちゃんが予想していたのとは全く違うみんなの反応に、少女の顔は一瞬のうちに真っ青になりました。皆は一斉にゲラゲラと下品な声を張り上げて笑い出しだのです。教会中大笑いの渦です。その大きな笑いの渦はしばらく続きました。
コチサちゃんにとっては永遠とも思えるくらい長く長く響きわたりました。コチサちゃんは穴があったら入りたいくらい恥ずかしい思いをしました。
かわいそうに。この幼い少女は深く傷つきました。
(これは大好きなおばあちゃんの歌よ!みんな何がそんなにおかしいの!)
その時、コチサちゃんは泣きながら心の中で固く誓ったのです。
「神様のバカ!私はもう絶対にあなたの前で歌はうたいません!」
それいらいこの少女は歌うことをしなくなりました。学校の音楽の授業でも、お友達の誕生会の時でも。決して歌うことはありませんでした。
二度と・・・・・
小学生になったばかりのコチサちゃんは非常に賢く、明るい陽気な女の子でした。人一倍正義感が強く、曲がったことが嫌いで、澄んだ目をしたお人形さんのようにかわいらしい子でした。
しかし、進級するにつれて徐々に周りの友達はコチサちゃんを避けるようになってきたんです。
別に意地悪とかそういうわけではないんでが、
「ねぇ、コチサちゃんはサンタクロースになにもらいたい?」
「マシンガン」
「え?」
「あんた、まさか本当にサンタクロースがいると思ってるの?」
「いるもん」
「あんたが言ってるサンタクロースってのは毎日漁船に乗ってマグロとってるわよ」
「マグロ?」
「あんたのお父さんのことよ」
「・・・・・」
そして徐々にみんなはコチサちゃん抜きで遊ぶようになりました。
ある日コチサちゃんはクラス中のみんなを敵にしてしまいました。それは、学級委員のアッコちゃんとの喧嘩が原因です。アッコちゃんは頭が良く、クラスの中ではリーダーシップ的な存在でした。
先生達からは、いわゆる良い子という目で見られていました。
でも、コチサちゃんはアッコちゃんが放課後の時間に、ある女の子をみんなでいじめているのを知っていました。
ある日、2人は些細な事で口論となり、「あんた達はどっちの味方するのよ!」というアッコちゃんの号令で、クラスのみんなはコチサちゃんの敵になりました。
でも、コチサちゃんはそんなアッコちゃんを見て可哀相だと思っていました。コチサちゃんはアッコちゃんの家庭の事情が普通の人とは違うことを知っていたのです。
コチサちゃんが6年生の時、校内学芸発表会の司会を誰にするかということで先生達は議論を交わしていました。
本来でしたら児童会長の役目なのですが、交通事故で入院してしまい急遽代わりの人を選ばなければならなくなったのです。
「うちのクラスの益田さんを推薦したいと思います!」
そう言ったのはコチサちゃんのクラスの担任の山田先生でした。この白髪混じりの老女教師はコチサちゃんのことをいつも見ていました。
「この子の言葉にはトゲがあるけど、真実を突いているわ」コチサちゃんが問題を起こす度にそう思うのでした。
そしてこの担任の強引な説得により、司会はコチサちゃんに決まりました。
それを聞いたクラスのみんなは一斉に文句を言いました。
「なんであの女が司会なのよぉ」「あいつ賄賂でも送ったんじゃねぇの」
コチサちゃんの耳にもみんなの文句は良く聞こえました。
ある日の放課後。コチサちゃんは廊下の片隅で山田先生のことを待ち伏せしていました。
「山田先生!」
「あら、まだ学校にいたの?早く帰りなさい」
「先生、なぜ私が司会者に選ばれたんですか?」
「それはね、あなたには人前で話す才能があるからよ」
「私にはそんな才能なんかありません」
「人にはみんな生まれ持った素質があるの。でも、いくら才能があっても周りの人が認めてくれなくちゃどんな才能も死んでしまうわ。この世の中には、そうやって死んでいった才能がたくさんあるわ。私はね、長年教師をやってきていろんな子供達を見てきたわ。先生はコチサちゃん達が卒業したら教師を辞めようと思ってるの。」
「先生・・・」
「だって、もうおばあちゃんですもの。でね、今までの教師生活を振り返ってみて思ったのよ。もしかしたら、先生も沢山の才能を殺しちゃったんじゃないかな?って。そんな時にあなたが現れたの。あなたは天才よ。先生が保障する。まぁ、先生の保障なんかなんにもあてにならないかもしれないけど、でも、私には感じるの。先生はもう歳だから、コチサちゃんが世界に羽ばたくところをこの目で見れないかもしれないけど、あなたに一番最初にチャンスを与えられることを凄く誇りに思っているわ。たかが小学校の学芸発表会だなんて思っちゃだめよ!当日体育館のステージに上がったら、世界中の人の前でしゃべってると思いなさい。頑張ってね!」
さぁ、いよいよ学芸発表会の日がやってきました。コチサちゃんは徹夜で台本を何度も何度も読み返して練習をしました。当日の朝は緊張してごはんも喉を通りませんでした。
ステージの裾から会場を覗いてみました。
そこには1年生から6年生までの全校生徒が椅子に座って整列しています。もう、緊張感は極限状態まで上がってます。
心臓が破裂しそうなくらいドクドクいってるのがハッキリと自分の耳でも聞こえます。
いよいよ開演3分前。ドクン。ドクン。ドクン。
(ああ、もう死にそう。。。やっぱり断ればよかった。。。)
2分前。ドク。ドク。ドク。ドク。ドク。
(気絶したら救急車で運ばれるのかしら?)
1分前。ドッドッドッドッドッドッド。
(た・す・け・て)
少女の脳裏に、幼い頃の教会での忌まわしい過去が一瞬よぎりました。(大丈夫、私は天才よ!)
「こ、こ、これから、が、学芸発表会を始めます・・・・」
からからに喉が乾いて、声を出すのがやっとでした。蚊の鳴くような声は会場のみんなの耳にはとどかず、ガヤガヤとおしゃべり声が騒音となって体育館中をこだましています。
「みなさん。静かにして下さい。」
「学芸発表会を始めるので静かにして下さい。。。」
だれもコチサちゃんの声に耳を傾けるものはいません。
もう頭の中はパニックです。緊張のあまり台本を床に落としてしまい慌てて拾い上げたのですがどのページだか全然わからなくなってしまいました。
(あああ、どうしよう。。。)
(ええい!もうどうにでもなれ!コンチキショー)
「今回、この学芸発表会を開催することにあたって、岡山県に住む愛人、高橋今日子さんとのつかの間の愛のひとときの時間まで犠牲にし、町会議員の桑原茂市さんからもらった寄付金で温泉旅行に行った余りのお金まで出資して頂いた、わが○○小学校が誇る、我らが校長、石井富和氏に心より感謝致します。みなさん、石井校長に絶大なる拍手を!」
会場は爆笑の渦です。大きな拍手と共に「いいぞいいぞ!」という声援があちこちから聞こえてきます。
(よし!ウケてるぞ!)
会場のみんなの声援で自信を持ったコチサちゃんは、もうとにかくしゃべりまくりました。
まるで機関銃のように次から次へと言葉が出てきます。
(ふふ、、サンタにもらったマシンガンよ)
みんなはコチサちゃんの一言一句に引き付けられるように聞き入ってます。会場の主役はコチサちゃんです。それから数時間の間、その体育館はコチサちゃんのものになりました。
いよいよ学芸発表会も後半になり、残すところあと一クラスだけになりました。最後に出し物をするのはコチサちゃんのクラスです。
「えー、続きまして、本日のファイナルステージになります。とりを飾るのは私のクラス6年4組です。出し物は歌を合唱して頂くのですが、これから皆さんにお届けする歌には少しわけがあります。今回の学芸発表会に向けて、6年4組を一つにまとめ上げたのは皆様から向かって一番右に立っていますアッコちゃんです。実はアッコちゃんの大好きな優しいお母さんは今東京の病院にいます。病気と戦っているのです。いまから皆さんにお届けする曲は、アッコちゃんのお母さんが大好きな歌です。アッコちゃんのお母さんが一日も早く元気になって家に帰れるように6年4組全員祈りをこめてお送りいたします。みなさんも一緒にお祈りして下さい。」
益田沙稚子の華々しいデビューであった。
その当時担任だった山田先生はこう語る。
「その歌が終わった時は、そりゃあ物凄い拍手喝采でしたよ。全学年の全生徒が一つになりました。あの時の大声援と拍手の中で、ステージから私の方をじっと見て、『ありがとうございました』って言ったあの子の顔を、私は今でもハッキリと覚えてますよ。」
学芸発表会の日以来、誤解も解けコチサちゃんはクラスの人気者になりました。
「コチサ最高だったわ!」
「よくあんな台本かけたわねぇ(このギャグで嘘を覚えた)」
なんて口々に言いながらみんながよって来ました。
(これでチヤホヤされるの覚えちゃったんだなコレが)
この日以来、卒業するまでチヤホヤされまくって、ウケを狙って砂粒くらいの話を銀河系くらいの大きさで話す醍醐味を覚えちゃったんです。
そうそう、その日の放課後、コチサちゃんが学校から帰ろうとした時にアッコちゃんがやってきてコチサちゃんに言いました。
「あんた、これで貸しを作ったなんて思わないでね!」
「私はそんなつもりじゃ・・・・」コチサ困る、、、
「でも、とりあえずありがとう。嬉しかったわ。じゃあね。」ぷいっ
そうなんですよ、この子は素直じゃないんです。ここでもしアッコちゃんが、「コチサちゃん今日はありがとう!私、あなたのことを誤解してたわ、ごめんなさい」なんて言いながら涙をながしちゃうと「みにくいアヒルの子」とか「金八先生」になっちゃうけど。
でも、現実はそうはイカの××××(注:コチサ自主規制で伏せ字にしました)です。
(で、このアッコちゃんはのちに再登場してもらいましょう。コチサちゃんが大人になって社会に出て、世間の荒波にもまれて挫折しそうになった時なんかに・・)
ここまでのストーリーでとりあえず
「学校の先生が今だから語る」「屁理屈コチサのルーツが明らかに」が出来ましたね
あと、残るは神童事件ですね。
そうそう、あの例の学芸発表会の数日後に突然コチサちゃんは校長室に呼び出しをくらいました。
「失礼します!校長先生、なにか私に御用でしょうか?」
「君は学芸発表会で私のことを言ってくれたねぇ」
「スミマセン。この口がいけないんです」
「まぁ、いい、で、いつ見てたんだ?」
「は?」
「そうトボケなくったっていい。どこで見てたんだ?」
「どこで見たと言われても、私は軽い冗談のつもりで・・・」
「まあいい、よし、わかった。君がどこまで知ってるかはわからないが、これ以上は誰にも何も言ってはいけないぞ」
その日コチサちゃんが家に帰ってみると、家の前には新品のトラクターが一台と、ピカピカの自転車が一台、高価な着物が入った桐のタンスがひとつ玄関の真ん前にデンと置いてありました。
その脇に立て札が刺してあり、そこには
「益田 沙稚子様へ サンタクロースより」と書かれていました。
平凡な益田家に起きたこの珍事件以来、おばあちゃんは「この子は神童じゃ」と町中に言いふらしたのでした。(く、く、く、くるし〜〜〜〜!)
その贈り物が校長先生からの口止め料だったのか、それとも本当にサンタクロースからだったのか、もし、口止め料だったとしたらコチサちゃんはその意味がわかったのか、それともコチサちゃんが発表会で言ったことは、たんなる偶然だったのか、いや、コチサちゃんは実はどこかで目撃していたのか、それとも超能力を持っていて、テレパシーで見透かしたのか、いや、もしかするとマフィアの一員だったのか、ただ単に同姓同名の人の荷物が間違えて届いただけだったのか、いや、実は・・・・・
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