307ch
FILE30-父からのメール
29/30days
コチサのペッパーフレンズ●益田沙稚子 

ちょっぴり髪を掻き上げるコチサ


「拝啓、頑張っていればいつか報われる、父」
家出同然で東京に出てきました。でも家を見つける時、詐欺にあい不動産屋さんで途方に暮れたコチサ。結局父が腹巻きにお金を包み上京して来ました。狭いワンルームで一言も交わさず明かした一夜。アルバイトが決まった時も、両手に抱えきれない位のうどんの束を持って父は上京して来ました。「これ、益田さんのお父さんから」と社内に配られるのが恥ずかしかった。
初めて、テレビに出演した時は大騒ぎさ。たった5秒の為に田舎ではビデオを買い1カ月も前から準備。その日「やった〜」と大騒ぎをしている妹弟、おばあちゃんは眼鏡をかけ、お母さんは手が震えたといいます。お父さんはお酒を飲んで炬燵で寝ていたそうです。
後日ダビングされたテープが届きました。当時テレビもビデオも無いコチサはお友だちの家で見せてもらいました。そしてありがとうの電話を実家に。おばぁちゃんが出ました。
「可愛く映っとたな。お父さんな皆が寝た後、一人でビデオを見とったよ。何回も何回も。沙稚子、誰も怒っとらんからいつでも帰って来い。寂しいのはお前だけじゃない」
長い年月が経ちました。おばぁちゃんはもういないし、妹は嫁に行き、お母さんは3台目のカブに乗り換えました。
そしてお父さんははげました。相変わらず恐いけど、今では実家に帰ると自慢げにコチサを連れ回すと評判です。メールでもコチサは平気で家族の話をします。前から皆が知っている人のように話します。大好きな家族がいてコチサがいます。あれ以来東京に来ていないお父さん、まだ一度も故郷を離れた事のないお母さん、コチサの部屋は相変わらずのワンルームだけど重なって寝るのも良いかも知れない。
弟に載せられて、父が無理矢理書いたメールは、コチサにちょっぴりの郷愁とたくさんの涙をくれました。お父さん、お母さん、大好きだよ。


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