コチサ
「もしもし」
弟・浩二
「起きてたんか?まだ朝の5時やで」
コチサ
「これから走りにいくところだよ(^o^)、で、そっちこそ何の用?・・・まさかお父さんかお母さんに何か?」
浩二
「そんなことないよ、両親は二人とも元気すぎるくらい元気だよ」
コチサ
「そりゃ良かった(^o^)、二人が元気なら言うことないよ。じゃぁね(^o^)/~~」
浩二
「電話かけたのこっちだよ(>_<)、まだ用件言ってないし^-^;」
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で、なんと弟は、この後の飛行機で東京に出てくるそう・・・
急遽、出張が決まったらしくて。
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コチサ
「じゃぁ、今日はウチに泊まるの?お安くしとくよ^-^;」
浩二
「ホテルは会社が用意してくれてるからいいよ。お昼に1時間くらい時間があるから、一緒に食事でもしようと思って・・・」
コチサ
「へっ?弟が東京に来るのに、最愛の姉に会うのがたった一時間だけ?」
浩二
「仕事だから仕方ないよ。夜も接待で飲まなくちゃだし・・・それに別に最愛の姉じゃないし・・・^-^;」
コチサ
「な、なんてことを(`_')、お前をここまで育てたのは誰だと思ってるんだ(`_')」
浩二
「^-^;」
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午前11時過ぎに東京に着いた浩二は、地図を頼りにコチサの事務所までやってきました(^o^)
都会の立ち居振る舞いをしっかり見につけた姉コチサは、田舎もんの弟を従え、東京ミッドタウンランチとなりました^-^;
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浩二
「すごいなここ、サッコ姉は毎日こういうところでランチしてんの?」
コチサ
「当然でしょ(本当は、コチサも初めてだけど^-^;)、じゃぁ今日は社会勉強代として、お昼代はお前が払っといてね」
浩二
「うん(^o^)、案内してもらったんだから当然だよ。最初からご馳走するつもりだったんだ(^o^)」
コチサ
「(ちょっと心が痛い(>_<))」
浩二
「あのさ、ここから六本木ヒルズって近いでしょ」
コチサ
「うん、すぐそこだよ。行ってみたいの?」
浩二
「うん、東京の取引先の会社がそこに入ってるんだ。挨拶に行こうと思って・・・」
コチサ
「へー、偉いね。じゃぁ先に電話して都合を確かめれば?」
浩二
「それじゃダメだよ。突然行かなくちゃ。相手にも悪いでしょ」
コチサ
「突然行く方が悪いんじゃない?」
浩二
「それ反対だよ、サッコ姉」
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子どもの頃、お客さんはいつも突然やってきました。
「ちょっとそこまで来たから」
「歩いていたら急に思い出して」
「元気かなぁと思って」
口上はさまざまですが、ここに来る予定で家を出たことは間違いありません。
それでも事前連絡をすることなく、やって来ました。
迎えるほうも、それは当然の事として、割烹着姿のお母さんは、ありあわせのお新香やお茶でもてなします。
ひとしきり会話が弾んだころ、
「じゃぁそろそろ」
「また顔出してね」
「そっちもね」
「うん、今度寄らせてもらうわ」
と、あっさりと別れが成立し、お母さんはまた何事も無かったかのように、洗濯に戻ります。
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浩二
「事前に連絡なんかしたら、相手にいろいろ準備させたりしてしまって、迷惑なだけだよ」
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浩二は、翌日の夕方には讃岐に戻るそうです。
今回は、取引先1社と打合せの為に上京しましたが、残りの時間に、名刺交換をしたことのある東京の会社10社ほどを、こうした突然の訪問で挨拶に回るつもりだそうです。
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コチサ
「香川ではそれもありなんだろうけど、東京では突然の訪問は迷惑がられるだけだと思うよ」
浩二
「そうなん?・・・でもせっかく来たから寄ってみるわ。迷惑そうだったらすぐ帰るし・・・」
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「だから事前に電話を・・・」と思ったんだけど、言うのを止めました。
もしかしたら浩二が正しいのかもしれないと思ったからです。
いや、何が正しくて何が正しくないなんて事はないから、この表現は違います。
浩二のやり方も、長年培われてきたノウハウなのかなぁと思ったのです。
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もう10年以上前になります。
可愛くて仕方なかった弟浩二から、真面目な手紙が届きました。
「姉ちゃん、ボク新入社員として一生懸命仕事してるんやけど、毎日が辛いです。
営業の仕事はボク苦手です。
いつもお客さんに怒られて、どうもあのお客さんはボクを嫌いみたいです」
その手紙を読んで、コチサは本気でこのお客さんに文句を言いに行こうと思ったものでした^-^;
うちの浩二のような、おとなしくて気の小さい人間に営業なんて勤まるはずがありません。
いったい会社は、何を考えているんだ(`_')
お母さんからの電話で、浩二が最初の1年間で10キロも痩せた事を聞きました(>_<)
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ところが、今、目の前にいる浩二は、その10キロ痩せたところからプラス30キロを加えたように・・・^-^;
可愛かった童顔の顔も影を潜め、ふてぶてしいお父さんの面影をところどころ見せはじめています^-^;
あー、時の流れのこの早さよ^-^;
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社長
「で、浩二君は、その突然の挨拶に行ったの?」
コチサ
「うん、行ったよ。
コチサもね、いろいろ考えて、
浩二にこう言ったんだよ・・・
行ってこい、行ってこい、
あんた何処へでも行ってきなさい
コチサ、あんたんこたぁ弟がおらん事なっても
何も寂しゅなかよ
浩二、ひとつだけ言うとくがな、
人様の会社行ったら、
働け 働け 働け 浩二
働いて働いて働きぬいて
休みたいとか遊びたいとか
そんな事おまえいっぺんでも思うてみろ
そん時は そん時は、死ね
それが人間ぞ、それが男ぞ
おまえも故郷ば期待されて、
花の都へ出てきたかぎりは、
誰にも負けたらつまらん
輝く日本の星となって帰ってこい
行ってこい、
あんた何処へでも行ってきなさい。
※引用:海援隊「母に捧げるバラード」
ってね^-^;」
社長
「^-^;」
コチサ
「全く、浩二も頑固になったもんだよ。香川には香川のやり方、東京には東京のやり方があるっていうのに(`_')」
社長
「そんなことないかもよ」
コチサ
「ん?」
社長
「確かに、うちの会社は突然の訪問はしないけど、その代わり突然の訪問をされたこともないでしょ」
コチサ
「そりゃそうだよ、みんなスマートな人たちだもん(^o^)」
社長
「浩二君が訪問した会社の人たちは、きっとふだん着のまま受け入れ、世間話をして、また仕事に戻っていくと思うよ。割烹着姿のお母さんがそうしたように・・・」
コチサ
「・・・」
社長
「お母さんは、その時遊びに来てくれたお友だちのこと、その場ではもう、すぐ忘れてしまっているけど、なんかあった時は真っ先に駆けつけるんだと思うよ」
コチサ
「・・・」
社長
「香川のやり方とか東京のやり方なんてないんだよ、きっと。あるのは、それをする人としない人・・・もしくは出来る人か出来ない人か・・・」
コチサ
「・・・」
社長
「それと、この10年、少しずつ試練を乗り越えて浩二君が強くたくましくなったという事実と、うちの会社がこの10年、何も変わらず細々と生きているという事実・・・」
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それが良いか悪いかはわからない。
ただ、良いことだとか、悪いことだとか、決め付けては何も産まれないし進まない。
浩二は、たくさんの嫌なことや、やりたくないことを少しづつ試してみることによって、自分なりの成功法則を会得してきたのかもしれません。
コチサが、あらゆることを頭で考えて、決め付けて何もしなかったことを、浩二は頭で考えるのを止めて、体で感じて身に付けてきたようです。
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翌日の夕方、浩二からメールが・・・
「世話になりました。結局10社に顔出ししてきました。それが仕事に繋がるかどうかはわかりませんが、ボクはやることやって満足です。サッコ姉にも会えて嬉しかったです\(^o^)/」