No.554 「行って来ます」 2005.11.30
 日本語の森を歩いて・・・フランス語からみた日本語学

 雑誌の書籍紹介コーナーで、

 「日本語の森を歩いて・・・フランス語からみた日本語学」
 フランス・ドヌル+小林康夫著

 講談社現代新書\756

 という本の紹介がありました。

 「フランス語から日本語を見ると、
  とても変な表現があるんだよ」

 というようなことが書いてありました。

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 例えば・・・

 「行って来ます」

 行くのと来るのは同時に出来ないのでだから、行くのか来るのかはっきりして欲しいと思うそうです。

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 例えば・・・

 「お湯を沸かして下さい」

 お湯はフランス語では「熱い水」のことなので、熱い水を再び沸かすことは変に感じるそうです。

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 おかげで改めて気がついたことも多々あります・・・

 訳すときに、いろいろ文法上の制約があるので、そういう事になるのでしょうが、おかげで改めて気がついたことも多々あります。

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 コチサ
 「じゃぁ行ってくるでぇ〜」

 お母さん
 「寄り道しないでちゃんと帰ってくるんよ」

 コチサ
 「わかってるって、行ってくるでぇ〜」

 お母さん
 「山で山芋掘って食べちゃあかんよ、またお腹こわすからな」

 コチサ
 「わかってるって、行ってくるでぇ〜」

 お母さん
 「はい、行っといで」

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 行ってくるでぇ〜

 「行ってくるでぇ〜」は、「また必ず戻ってきます」という美しい約束。

 心の絆を確認する、毎朝の美しい約束。

 はじめての場所にドキドキで出かけるときも、遠足でバスに乗って遠出をするときも、

 「行ってくるでぇ〜」

 の一言が、大きな安心を与えてくれました。

 コチサがどんなに遠くに出かけても、どんな冒険を始めても、帰ってくる場所、迎えてくれる人たちがいる・・・

 「行ってくるでぇ〜」がある限り、コチサは絶対にひとりぽっちにはならない。

 無意識にそんな美しい言葉を使っていたんだと、改めて気がつきました。

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 コチサ
 「もしもしお母さん・・・」

 お母さん
 「どした?元気かぁ?」

 コチサ
 「あのさー、よく子供の頃、学校行く時とか、コチサ「行ってくるでぇ〜」って言って出かけたよね(^o^)」

 お母さん
 「当たり前やろ、朝出かけるときに挨拶も出来ん子どもに育てた覚えはないでぇ」

 コチサ
 「お母さん、コチサが学校へ行ったあと、無事に戻ってくるか心配だった?」

 お母さん
 「親ならみんなそうやろ。あの山道を何時間もかけて歩いていくんやから・・・」

 コチサ
 「でも大丈夫だったでしょ。ちゃんと『行って来ます』って言ったでしょ」

 お母さん
 「?」

 コチサ
 「行って来ますは、出かけてもちゃんと戻って来ますっていう約束なんだよ(^o^)」

 お母さん
 「?」

 コチサ
 「あのさぁ〜」

 お母さん
 「ん?」

 コチサ
 「コチサ初めて東京に出るとき、お父さんとお母さんとおばあちゃんに、『行って来ます』って言わなかったよね」

 お母さん
 「当たり前やろ、お前、家出したんやから。わざわざ挨拶して家出するやつはおらんやろ」

 コチサ
 「そだよね^-^;」

 お母さん
 「?」

 コチサ
 「だからその後、10年も帰れなかったんだ・・・」

 お母さん
 「お前は、挨拶だけはきちんとする子やったからな。今頃そんなこと気にしてんのか?」

 コチサ
 「ううん、別にそうじゃないんだけど・・・」

 お母さん
 「あの時は仕方なかったんやないか。お父さんは絶対にお前を東京に出さんと言っとったし、ああするより他に方法はなかったんやろ」

 コチサ
 「そだね・・・」

 お母さん
 「その代わり、お前が毎年またこっちに戻って来るようになってからは、いつも元気に『行って来ます』言うて東京に戻って行くやろ、それでいいんや(^o^)」

 コチサ
 「そっか、挨拶はいつもちゃんとしてるんだね、コチサ」

 お母さん
 「そういえば、今年の正月だけはほら、なんや慌しくて『行って来ます』もなく戻って行ったなぁ」

 コチサ
 「えっ?そうだっけ?」

 お母さん
 「そうや、お父さんの畑作業と重なってしもうて・・・気がついたらお前はもうタクシーに乗ってたやないか」

 コチサ
 「そうだね、そういえばそうだった・・・」

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 本当に美しい日本の心のこもった言葉だったんだ・・・

 「行って来ます」・・・

 この言葉は、やっぱり本当に美しい日本の心のこもった言葉だったんだ。

 だからどんなに忙しくても、きちんと伝えないといけないんだ・・・

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 お母さん
 「で、今年はまた大晦日に帰ってくるんか?」

 コチサ
 「それがね・・・今年は帰れないんだ・・・」

 お母さん
 「な、何でや?」

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 バチがあたったのかも・・・

 「行って来ます」・・・

 今年のお正月、この言葉を大切にしなかったから・・・

 それでバチがあたったのかも・・・

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 コチサ
 「今年は東京でお正月を迎えるんだ」

 お母さん
 「そ、そうなんか・・・」

 コチサ
 「うん、お父さんにもよろしく言っておいてね」

 お母さん
 「わ、わかったわ・・・」

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 私は今から出かけますけど、必ずここに戻って来ます!

 「行って来ます」・・・

 私は今から出かけますけど、必ずここに戻って来ます!

 そんな大切な意味が込められた「行って来ます」。

 だから・・・

 ちゃんとそう言って元気に家を出かけた子どもの約束を破らせる権利なんて、世界中の誰にも無いんだ。

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