No.505 「時の感じかた・・・」 2005.4.20
 子犬のジロ

 街行く人を明るい日差しが包み込む昼下がり、コチサの足元に一匹の子犬がまとわり付いてきました。

 こんな時は後ろから飼い主の声がかかるものです。

 その声は、たいていの場合、

 「こら!○○(犬の名前)ちゃん、やめなさい」

 と犬を叱る声か、

 「申し訳ありません、こら、ダメよ」

 と、先ず迷惑をかけた相手に謝るかのどちらかです。

 もちろん気分が良いのは、後者のほうです。

 この二つの違いは、飼い主が、

 「自分の飼い犬はだれもが可愛いと思っている」

 と考えているか、

 「自分が可愛がっているほど、誰もが犬好きではない」

 と理解しているかによるもののようです。

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 子犬
 「ってことは、キミはボクら子犬があんまり好きじゃないってことだね」

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 いきなり犬に話しかけられて驚いたコチサですが、たとえ犬であっても挨拶は礼儀なので、質問に答える前に自己紹介をする事にしました。

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 コチサ
 「キミじゃないよ、おいらはコチサって言うんだよ」

 子犬
 「わかったコチサだね。ボクは次郎丸・・・血統書付きさ。でもジロで良いよ」

 コチサ
 「わかった。で、質問の答えだけど、コチサは犬嫌いじゃないよ。ただ一般的な礼儀について考察してみただけだよ」

 ジロ
 「まぁ、ボクらは飼い主は選べないからね」

 コチサ
 「で、キミの飼い主はどこにいるのさ」

 ジロ
 「今日はいないよ。単独行動さ」

 コチサ
 「飼われていると、そんな気分の時もあるのかもしれないね」

 ジロ
 「ついておいでよ、良いとこ連れてってあげるよ」

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 別に行きたくはなかったのですが、無下に断るのも大人げがないと思ったので、取りあえずジロの後を歩きました。

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 コチサ
 「えー、こんなに眺めの良いところがあったんだぁ(^o^)」

 ジロ
 「ボクら飼い犬たちの秘密の場所さ・・・息抜きの場所ともいえるけど・・・」

 コチサ
 「へー、飼い犬もいろいろ大変なんだね、ストレスがたまるんだ」

 ジロ
 「誰だってそうでしょ。ストレスのたまらない生き物なんて存在しないんだよ」

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 子犬のくせにジロは少しイキがっているように見えました。

 生意気な感じです。

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 ジロ
 「この景色、この空気・・・安らぐんだよね」

 コチサ
 「なまじ血統書なんて付いてると、いろんな宿命があるのかも知れないね」

 ジロ
 「だからと言って、ボクに野良の道を歩む勇気もないんだよ」

 コチサ
 「そんなに悩むなよ。今のままでいいじゃん。こうして息抜きの場まで確保してるんだからさ」

 ジロ
 「コチサさん、タバコある?一服やりたい気分だよ」

 コチサ
 「無いよ(`_')、コチサは吸わないし。それに連れて来てもらって悪いんだけど、こんな空気の良い場所でタバコは吸われたくないな(`_')」

 ジロ
 「悪い、悪い、こりゃ一本取られたな」

 コチサ
 「^-^;」

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 ジロ
 「じゃぁ、そろそろ帰るわ」

 コチサ
 「えっ、もう?・・・来たばかりじゃん。5分もたってないよ」

 ジロ
 「じゃぁコチサさんはまだゆっくりしていけばいいよ。ボクは帰るからさ」

 コチサ
 「冷たいなぁ。まだいいじゃん。ジロ、せわしなさ過ぎるぞ^-^;」

 ジロ
 「コチサさんとボクは時間の感じ方が違うんだよ」

 コチサ
 「ん?」

 ジロ
 「ボクら犬と、コチサさん人間は、同じ一分でも感じかたが違うってこと」

 コチサ
 「そなの?」

 ジロ
 「当たり前でしょ。ボクらは人間よりずっと寿命が短いんだよ。1分を人間と同じに感じていたらもったいなさ過ぎるでしょ」

 コチサ
 「へぇー、そうなんだ」

 ジロ
 「そりゃそうだよ」

 コチサ
 「じゃぁ、15年生きた犬と100歳生きた人間とは、人生の長さって同じくらいに感じるのかな?」

 ジロ
 「それはわかんない。でも5年生きた犬でも15年生きた犬でも、死ぬ時は同じ気持ちなんじゃないかな?」

 コチサ
 「どんな気持ち?」

 ジロ
 「まだまだ生きたいって気もち」

 コチサ
 「ふーん」

 ジロ
 「人間からは達観しているように見えるだろうけど、なかなか悟りを開く境地にまで達している犬は少ないんだよ」

 コチサ
 「ジロは?」

 ジロ
 「ボクはこの通り子犬だし・・・悟りなんてまだまだだよ」

 仲良くなった子犬のジロ(^○^)

 コチサ
 「さ、コチサも帰ろう」

 ジロ
 「あれ、さっきはもう少しって言ってたのに」

 コチサ
 「だからもう少しがたったんだよ、これがコチサの時間なんだよ」

 ジロ
 「そか」

 コチサ
 「ごめんね、ジロの時間を少し使って引き止めちゃって」

 ジロ
 「いいってことよ。このぐらいの誤差はたとえ犬の人生の中だって想定内さ」

 コチサ
 「じゃぁ行こか」

 ジロ
 「あっ、おいらは帰り道はこっち側からなんだ。でもこっちは犬専用だから、コチサさんは来た道を帰ってね」

 コチサ
 「わかった、じゃぁね」

 ジロ
 「バイ(^o^)/~~」

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 たまには、子犬と話をしてみるのもいいものです。

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