街行く人を明るい日差しが包み込む昼下がり、コチサの足元に一匹の子犬がまとわり付いてきました。
こんな時は後ろから飼い主の声がかかるものです。
その声は、たいていの場合、
「こら!○○(犬の名前)ちゃん、やめなさい」
と犬を叱る声か、
「申し訳ありません、こら、ダメよ」
と、先ず迷惑をかけた相手に謝るかのどちらかです。
もちろん気分が良いのは、後者のほうです。
この二つの違いは、飼い主が、
「自分の飼い犬はだれもが可愛いと思っている」
と考えているか、
「自分が可愛がっているほど、誰もが犬好きではない」
と理解しているかによるもののようです。
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子犬
「ってことは、キミはボクら子犬があんまり好きじゃないってことだね」
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いきなり犬に話しかけられて驚いたコチサですが、たとえ犬であっても挨拶は礼儀なので、質問に答える前に自己紹介をする事にしました。
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コチサ
「キミじゃないよ、おいらはコチサって言うんだよ」
子犬
「わかったコチサだね。ボクは次郎丸・・・血統書付きさ。でもジロで良いよ」
コチサ
「わかった。で、質問の答えだけど、コチサは犬嫌いじゃないよ。ただ一般的な礼儀について考察してみただけだよ」
ジロ
「まぁ、ボクらは飼い主は選べないからね」
コチサ
「で、キミの飼い主はどこにいるのさ」
ジロ
「今日はいないよ。単独行動さ」
コチサ
「飼われていると、そんな気分の時もあるのかもしれないね」
ジロ
「ついておいでよ、良いとこ連れてってあげるよ」
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別に行きたくはなかったのですが、無下に断るのも大人げがないと思ったので、取りあえずジロの後を歩きました。
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コチサ
「えー、こんなに眺めの良いところがあったんだぁ(^o^)」
ジロ
「ボクら飼い犬たちの秘密の場所さ・・・息抜きの場所ともいえるけど・・・」
コチサ
「へー、飼い犬もいろいろ大変なんだね、ストレスがたまるんだ」
ジロ
「誰だってそうでしょ。ストレスのたまらない生き物なんて存在しないんだよ」
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子犬のくせにジロは少しイキがっているように見えました。
生意気な感じです。
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ジロ
「この景色、この空気・・・安らぐんだよね」
コチサ
「なまじ血統書なんて付いてると、いろんな宿命があるのかも知れないね」
ジロ
「だからと言って、ボクに野良の道を歩む勇気もないんだよ」
コチサ
「そんなに悩むなよ。今のままでいいじゃん。こうして息抜きの場まで確保してるんだからさ」
ジロ
「コチサさん、タバコある?一服やりたい気分だよ」
コチサ
「無いよ(`_')、コチサは吸わないし。それに連れて来てもらって悪いんだけど、こんな空気の良い場所でタバコは吸われたくないな(`_')」
ジロ
「悪い、悪い、こりゃ一本取られたな」
コチサ
「^-^;」
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ジロ
「じゃぁ、そろそろ帰るわ」
コチサ
「えっ、もう?・・・来たばかりじゃん。5分もたってないよ」
ジロ
「じゃぁコチサさんはまだゆっくりしていけばいいよ。ボクは帰るからさ」
コチサ
「冷たいなぁ。まだいいじゃん。ジロ、せわしなさ過ぎるぞ^-^;」
ジロ
「コチサさんとボクは時間の感じ方が違うんだよ」
コチサ
「ん?」
ジロ
「ボクら犬と、コチサさん人間は、同じ一分でも感じかたが違うってこと」
コチサ
「そなの?」
ジロ
「当たり前でしょ。ボクらは人間よりずっと寿命が短いんだよ。1分を人間と同じに感じていたらもったいなさ過ぎるでしょ」
コチサ
「へぇー、そうなんだ」
ジロ
「そりゃそうだよ」
コチサ
「じゃぁ、15年生きた犬と100歳生きた人間とは、人生の長さって同じくらいに感じるのかな?」
ジロ
「それはわかんない。でも5年生きた犬でも15年生きた犬でも、死ぬ時は同じ気持ちなんじゃないかな?」
コチサ
「どんな気持ち?」
ジロ
「まだまだ生きたいって気もち」
コチサ
「ふーん」
ジロ
「人間からは達観しているように見えるだろうけど、なかなか悟りを開く境地にまで達している犬は少ないんだよ」
コチサ
「ジロは?」
ジロ
「ボクはこの通り子犬だし・・・悟りなんてまだまだだよ」
コチサ
「さ、コチサも帰ろう」
ジロ
「あれ、さっきはもう少しって言ってたのに」
コチサ
「だからもう少しがたったんだよ、これがコチサの時間なんだよ」
ジロ
「そか」
コチサ
「ごめんね、ジロの時間を少し使って引き止めちゃって」
ジロ
「いいってことよ。このぐらいの誤差はたとえ犬の人生の中だって想定内さ」
コチサ
「じゃぁ行こか」
ジロ
「あっ、おいらは帰り道はこっち側からなんだ。でもこっちは犬専用だから、コチサさんは来た道を帰ってね」
コチサ
「わかった、じゃぁね」
ジロ
「バイ(^o^)/~~」
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たまには、子犬と話をしてみるのもいいものです。