No.501 「在りし日の面影」 2005.4.7
 紫蘇の花

 コチサ  
 「ところで最近、お母さまのお加減はいかがですか?」

 会長
 「えぇおかげさまで元気になって、我がまま言っていますよ」

 コチサ
 「それは良かった(^o^)」

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 時々話しに伺う会長のお母さまに、会長はどうも頭が上がらない様子です。

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 会長
 「どうも親子でも性格は似ていないようで・・・」

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 キビキビ・テキパキというお母さまと、穏かでのんびりとした息子では、いくつになってもお母さまに分があるようです。

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 会長
 「母親から見れば、私ははがゆいんでしょうね」

 コチサ
 「かもね・・・コチサからみてもはがゆい時があるし^-^;」

 会長
 「そ、そーなんですか?」

 コチサ
 「冗談だよ(*^_^*)」

 会長
 「自分と性格が似ても似つかない子になってしまうってことは、親は残念なのでしょうかね」

 コチサ
 「なんで?」

 会長
 「自分の教育どおりに育たなかったってことになりませんかね」

 コチサ
 「教育と性格は別でしょ。それに話に聞く会長のお母さまと会長は、性格的にも正反対とは思えないけどね^-^;」

 会長
 「それはコチサさんが、私の母親を良く知らないから・・・」

 コチサ
 「そなの?」

 会長
 「そうですよ。こうと決めたらテコでも動かないんですから・・・」

 コチサ
 「なるほど、それは違うかも・・・会長はコロコロ動くよね^-^;」

 会長
 「そ、それは失敬ですよ^-^;」

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 そういえばコチサの性格も、お母さんお父さんのどちらにも似てない。

 (まぁ似てたら大変だけどね^-^;)

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 会長
 「じゃぁ、コチサさんの家の代々受け継がれてきた性格は、コチサさんの代で途切れてしまうんですかね?」

 コチサ
 「かもね」

 会長
 「悲しいですね、由緒あるコチサ家の歴史が・・・」

 コチサ
 「性格なんて個人の問題だから、代々受け継ぐもんじゃないし、全然気にならないよ」

 会長
 「そーなんですか?」

 コチサ
 「でも教育は別だよ。コチサ家の人間として、親が心血を注いで教えてくれた事は、性格とは関係なく受け継がれていくんだよ。だからそういう意味でコチサは、お父さんとお母さんの育て方をしっかり受け継いで育ってきたし、コチサ家の血筋は絶えないんだよ」

 会長
 「そういうもんですかね。私なんか性格も教育も受け継いでないから、会長家の伝統は私の代で終わりでしょうね」

 コチサ
 「そんな事ないと思うよ^-^;」

 会長
 「?」

 コチサ
 「会長家の一番の基本方針は【人に迷惑をかけない】じゃないの?」

 会長
 「そうです、よくわかりますね。母は口をすっぱくしてそう育ててくれました」

 コチサ
 「会長、人に迷惑をかけないじゃん」

 会長
 「そうですか、人間生きていればいろいろ迷惑をかけちゃうもんですけど・・・それに人に迷惑をかけないって言うのはありふれていて、別に我が家だけが特別とは・・・」

 コチサ
 「会長家の人に迷惑をかけないっていうのは、そういう意味じゃないと思うんだよね」

 会長
 「・・・」

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 会長のヤツ、コチサに嘘をつきやがった(`_')

 コチサが「お母さまは元気ですか?」と聞いたとき、顔色一つ変えずに「元気すぎて困っています」みたいな事をいいやがった^-^;

 お医者さまから、すでにあと二ヶ月などと余命を宣告されていたことなど、おくびにも出しやがらなかった^-^;

 チキショー、コチサは真に受けてしまったぜ(`_')

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 でも・・・

 コチサがそれを知っていたところで、どうなっていたっていうんだい。

 それはコチサにとって「迷惑」じゃないけど、「無力」を感じることにしかならない・・・

 もし会長の立場がコチサだったらどうだろう・・・

 コチサ家の基本方針は【人に嘘をつかない】です。

 (じゃぁコチサは全く守ってないじゃんというお叱りは置いといて・・・^-^;)

 もし「どうですか」と聞かれれば、「いやちょっと・・・」と言葉を濁したかもしれません。

 それは嘘にはならないし、相手への負担もそれほどにはならないと思うから・・・

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 でも会長は違いました。

 いつもは嘘などつけば、すぐ顔に出てばれてしまう会長が、平然と嘘をつきました。

 それは会長の中で、「嘘をつかない」ことよりも「人に迷惑をかけない」方が大事だという会長家の教育が、沁み込んでいたからだと思います。

 会長家の【人に迷惑をかけない】というのは、【他人に心の負担をかけない】という事と同じようです。

 会長のお母さまの具合が良くないことをコチサが知ったら、コチサの心に少なくても負担を負わすことになる・・・そんなことは会長家の人間として最もしてはいけないことだ・・・

 会長は、そういうお母さまの教育方針を体の芯まで受け入れていたから、平然と嘘がつけたのでしょう。

 会長家の伝統は紛れも無く、会長がしっかり受け継いでいたのでした。

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 コチサ
 「会長、それはそれでいいんだけど、コチサとしては寂しかったよ」

 会長
 「・・・」

 コチサ
 「お会いしたことは無いけど、コチサにとっては会長のお母さまは紫蘇ジュースの作り方を教えてくれたり、会長家の逸話を面白おかしく教えてくれたり・・・とっても身近に感じていた人だったんだよ」

 会長
 「すみません」

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 会長のお母さまは入院を拒否して、ずーと自宅で過ごしていたそうです。

 でも、自宅にいる間は、これっぽちも病人の様子は見せなかったといいます。

 ある朝、「今日から入院する」と言い出し、自分から荷物をまとめ、病院に入りました。

 そして、その晩・・・

 本当に、誰にも迷惑をかけない最期だったそうです。

 自らが体で会長家の伝統を実践して見せたお母さんは、今、全ての会長家の歴史を会長に委ねても良いと判断して、静かに舞台から降りていきました。

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 会長、コチサは何も言えないけど、一つだけ知っている事があります。

 それは、
 「いくつになっても、親との別れは辛い」
 ということです。

 元気が少しだけでも戻ったら、焼肉をお腹いっぱいコチサが食べてあげるね^-^;

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 紫蘇ジュース

 
追記:

 静かな、本当に静かなところで涙を流すと、
 涙が頬を伝う音が聞こえるのを知っていますか?
 それは、擬音としては文字にできない、
 とても不思議な音です。
 でもその言葉や文字にできない音を知ることで、
 またひとつ、
 人は人にやさしくなれる事を学ぶのですね。

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