お母さんの誕生日なので、プレゼントを買って贈ることにしました(^o^)
もう何年もそんな気の利いたことをしてないので、腰を抜かされでもしたらと心配です^-^;
ところで、いくらお母さんの誕生日といっても、めったに無いコチサからの贈り物ですから、お父さんがヤキモチを焼くかもしれません。
そこでお父さんのプレゼントも一緒に贈る事にしました。
でもだからといって誕生日でもないお父さんに、コチサがわざわざモノを買うのはもったいないので^-^;、この日の為に前々からゲットしていた「埴輪ネクタイ」を包むことにしました。
「埴輪ネクタイ」は、以前仕事の下見で「東京国立博物館」に行った時、売店で親分が買ったものをコチサがゆずってもらったものです。
ちなみにその時コチサは、勢いで埴輪人形を買ってしまい、とりあえず今でも家に飾ってあります^-^;
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お母さん
「もしもし、プレゼント届いたで。ありがとう(^o^)」
コチサ
「なんの、なんの(^o^)。子供が親に贈り物をするのは当たり前のこと、気にせずに使ってくれたまえ^-^;」
お母さん
「^-^;」
コチサ
「で、お父さんは?」
お母さん
「今、お風呂に入ってるけど、何か用?」
コチサ
「いや、お父さんの口からありがとうは無いのかな?って思って・・・」
お母さん
「(相変わらず恩着せがましい娘だ^-^;)」
コチサ
「まぁ仕方ない。風呂から裸で呼び出して風邪でも引かれたらこっちも困るし、礼は後でいいって言っておいてちょ」
お母さん
「はいはい、わかりました」
コチサ
「お母さん、「はい」は一回でしょ(^o^)」
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本当にたまにしか贈り物などしないコチサです。
このくらい偉そうな態度をとってもバチはあたらないはずです^-^;
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コチサが小学生の頃、放課後、町に出て運動靴を買ってもらう約束があったので、お父さんが軽トラで校門まで迎えに来てくれた事がありました。
見慣れた軽トラの前に、スーツを着てネクタイをした見慣れぬ男性が立ってました。
でも・・・
よく見るとお父さんです。
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コチサ
「あー、お父さーん(^o^)」
同級生のオカちゃん
「えー、あれコチサのお父さん?カッコええなぁ」
同じくツキちゃん
「ほんまや、カッコええな、俳優みたいや」
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コチサの家及びご近所一帯は、全て田んぼを仕事にしています。
コチサの家はお百姓なので主にお米を作りますが、野菜を作ったり果物を育てたりしている家もあります。
そんな田舎なので、普段の日常で、どこの家でもお父さんがネクタイをすることなどありえません^-^;
ネクタイをするのは、誰かの結婚式とかお葬式くらいです。
子供たちにしたら、ネクタイをした大人なんてテレビドラマで見るくらいです。
だから現実に目にしたものが何であれ^-^;、俳優に見えてしまったのでしょう^-^;
でもコチサも、そんな子供たちの一人だったので、ネクタイをして学校に迎えに来てくれたお父さんがとってもカッコよく見えて、胸を張って自慢したい気分でした。
コチサは同級生の羨望の眼差しの中で、お父さんの軽トラに乗り込み、町の靴屋に向かいました。
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コチサ
「オカちゃんがな、お父さんのことカッコええ言うとったで〜」
お父さん
「ほー、そうか、そりゃ嬉しいことをのー」
コチサ
「ツキちゃんもな、俳優みたいや言うとったで(^o^)」
お父さん
「ありがとさん、言うとってくれや」
コチサ
「うん(^o^)・・・でもなぁ」
お父さん
「ん?」
コチサ
「コチサ、お父さんがカッコええ言われて良かった。嬉しかったわ(^o^)」
お父さん
「・・・」
コチサ
「お父さんは、畑の仕事んときより、ネクタイをしているほうが似合うなぁ・・・ほんまに今日は嬉しかったで(^o^)」
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その日、お父さんがなんでネクタイをしてコチサを迎えに来てくれたのかはわかりません。
でもその日以来、お父さんはよくネクタイをするようになりました。
消防団の会合、日曜日の町への買い物、学校の父母参観・・・
いつもスーツにネクタイ姿のお父さんがいました。
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そして時はあっという間に10数年が流れました・・・
東京生活にも慣れた頃、お父さんが農業組合の視察で上京してくることになりました。
団体行動なので、自由な時間が取れませんが、何とか調整をつけてもらって、コチサと一緒に夕食がとれる運びとなりました。
待ち合わせのホテルに向かうコチサ・・・
ロビーに居たのは、軽トラこそありませんが、あの日のスーツにあの日のネクタイをしたお父さんでした・・・
若々しかった筋肉隆々の体躯は影をひそめ、すっかり薄くなった頭髪が、大都会の風に揺らいでいます。
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コチサ
「お父さん、お待たせ(^o^)」
お父さん
「おう元気か?」
コチサ
「うん、元気だよ、何食べる?」
お父さん
「東京はよう知らん。お前の食べたいものでええ」
コチサ
「お父さん、ネクタイしてきたんだね(^o^)」
お父さん
「あぁ、正直昔からネクタイは好かんのじゃ。じゃがあの日、お前があんまり嬉しそうに喜ぶんもんでな・・・」
コチサ
「・・・」
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その日、お父さんとコチサは中華料理をお腹一杯食べました(^o^)
もちろんお父さんのおごりです\(^O^)/
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コチサ
「お父さん、ネクタイきついんじゃないの?はずしていいんだよ」
お父さん
「ええって、大丈夫やから気にせんと、お前はたくさん食べ」
コチサ
「うん・・・」
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お父さんはスーツを何着持っているんだろう?
お父さんはネクタイを何本持っているんだろう?
コチサはそんなこと考えた事もありませんでした。
中学生の頃、お母さんと笑った事があります。
「お父さんがネクタイをするのは、あの日校門でコチサの同級生にカッコいいって言われて嬉しかったからだよ」
でもどうやらそれは間違っていたようです。
お父さんが嬉しかったのは、コチサが自慢できる父親であることを喜んだからでした。
友だちに「カッコいいお父さん」と呼ばれる自分が嬉しかったのではありません。
友だちに「カッコいいお父さん」と言われるコチサの喜ぶ顔が嬉しかったのです。
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今、目の前にいるお父さんのネクタイ姿は、今の時代とはとても合わない代物です。
結び方も、ネクタイピンの付け方も・・・
誰が見ても無理やりネクタイをしている姿は、おのぼりさんそのものです。
でも・・・
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お父さん
「やっぱり、苦しいからネクタイはずさせてもらおうかな」
コチサ
「ダメ!」
お父さん
「?」
コチサ
「コチサはネクタイをしているお父さんが自慢なんだから(^o^)」
お父さん
「お前は昔から・・・わしよりネクタイが好きなんか^-^;」
コチサ
「ネクタイをしているお父さんが好きなんだよ。ネクタイをしてみんなにカッコええなっていわれるお父さんが好きなんだよ(^o^)」
お父さん
「まったくお前は・・・子供じゃあるまいし・・・^-^;」
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その夜、短い時間だったけど、コチサはホテルまで腕を組んでお父さんを送り届けました。
少しヒールのついた靴を履いているコチサは、いつの間にかお父さんの背を追い越していました。
もしかしたら、イルミネーションが乱反射するショーウィンドーのガラスに映る二人の姿は、スマートではなかったかもしれません・・・
でもそれは、後で思ったことです。
コチサは、小学校のあの頃と同じくらい嬉しくお父さんが自慢だったし、お父さんもやっぱりあの日と同じように照れくさく、でも娘の喜ぶ顔が嬉しかったと思います・・・
「これからお父さんには、毎年ネクタイを贈ろう(^o^)」
あの日、お父さんをホテルに送って、コチサはそう誓ったものでした・・・
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社長
「で、それからまた10年近くが経過して、やっと初のネクタイを贈ったの?」
コチサ
「ま、まぁね^-^;」
社長
「それも強引に譲り受けた、埴輪ネクタイを?」
コチサ
「ま、まぁね^-^;」
社長
「いい話も、行動が伴わないとね・・・」
コチサ
「まぁそれが人間のサガってヤツだよ^-^;」
社長
「・・・」
コチサ
「・・・」