No.431 「狼少女じゃありません」 2004.7.30
 後ろを気にするランニングコチサ

 それは、タイムトライアルの最中の出来事でした。

 夜の8時過ぎ、いつものランニングロード、一周2.5キロの周回コースの最後の周の、ゴールまであと一キロの地点でした。

 腕時計でタイムを確認するコチサ・・・

 「うん、この湿気と気温の中ではなかなか良いタイムじゃん(^-^)」

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 突然、前方に黒い人影が見えました。

 大きな声を出してわめいています。

 駐輪中の自転車をなぎ倒しています。

 酔っ払っているのか?

 社会への強い不満が一気に噴出して荒れているのか?

 ・・・とにかく常道ではない人物が、コチサの行く手に立ちはだかっているのが見て取れます。

 コチサ
 「困ったなぁ^-^;」

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 近づくにつれ、その黒い影が小太りのおじさんであることがわかります。

 どうやら酔っ払っているわけではないようです・・・
 (それの方がタチが悪いのですが・・・^-^;)

 しかしコチサとしても、このおじさんのフラストレーションの発散のために、自らのタイムトライアルの記録を犠牲にするわけにはいきません。

 突っ込む事に決めました。

 コチサを前方3メートルに捉えたおじさんは、行く手を塞ぐように両手を水平に広げ仁王立ちに立ちはだかりました。

 道路の幅は2メートル強です。

 横をすり抜けるには距離がありません。

 スピードを緩めず突っ込んだコチサは、かつての名ボクサー輪島功一さんのようにカエル飛びで上体をかがめ、広げた手の下を潜り抜けました。

 コチサ
 「すごいぞ、さすがカエル飛び。全く時間のロスが無い^-^;」

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 そう喜んだ瞬間でした。

 コチサの襟首が掴まれました。

 小太りの割には敏捷なおじさんです^-^;

 おじさんはコチサを掴んで振り向かせると・・・

 おじさん
 「お前はオレが好きなのかぁ〜」

 とワケわかんない言葉でわめきだしました。

 さすがに状況からみて「いえ、生まれる前から嫌いなタイプです」とは言いづらかったので、とりあえず女性である事を思い出し、悲鳴を上げることにしました。

 コチサ
 「きゃぁぁぁぁぁ〜!!!」

 近くで散歩をしている人や、同じランナー、そして近所の住人などがすっ飛んで来てくれました。

 おじさんはあっという間に身柄確保されました。

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 近所の人
 「大丈夫ですか?」

 コチサ
 「ありがとうございます、おかげさまで助かりました」

 散歩の人
 「お怪我は?」

 コチサ
 「ピンピンしてます、じゃぁ」

 同じランナー
 「警察呼ばなくていいんですか?」

 コチサ
 「タイムトライアル中なので・・・」

 同じランナー
 「あぁそれは納得。急いで行って下さい」

 近所の人・散歩の人
 「?」

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 ・・・とまぁ、そんな事があったので、コチサは東急ハンズで防犯ベルを買いました。

 コチサ
 「へん、これさえあれば安心さ\(^o^)/」

 小さくてコンパクトなこの防犯ベルは、携帯電話のストラップのようなヒモが付いていて、緊急の場合そのヒモを引き抜けば、後は延々と非常サイレンが鳴る仕組みです(^o^)

 これさえあれば百人力・・・ということで、コチサの真夏の夜のタイムトライアルは一層厳しさと激しさを増しました。

 ランニング中は、ジョギングパンツにシャツという格好なので、コチサはこの防犯ベルを手に持って走ります。

 落としてしまうと大変なので、ストラップ部分を腕に巻いて万全を期す慎重派のコチサです。

 怖いものが無くなるという事は、精神的に開放されるもので、その分、走りに集中できます。

 記録もキロ10秒程度のペースで伸びていきます^-^;

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 しかし・・・

 調子に乗って走っていたその数日後・・・

 再び事件は起きました。

 小さな、ほんの小さなくぼみに足を取られたコチサは、「おっとっとっと・・・」とバランスを崩し、その勢いで防犯ベルのストラップ部分が外れてしまいました・・・

 「♪パパパパパァァァァ〜」

 辺りをつんざく不愉快な音。

 (まぁ不愉快な音だから、その効果があるというものですが・・・^-^;)

 焦ったコチサは、慌てて音を消そうとするのですが、焦れば焦るほどストラップの先を本体に差し込めません。

 もともと、外れやすく戻しにくい構造こそ防犯ベルに求められているのだから当然です。

 再び、コチサの元に、近くで散歩をしている人や、同じランナー、そして近所の住人などがすっ飛んで来てくれました^-^;

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 近所の人
 「どうしました?」

 コチサ
 「いや、まぁ、なに、その・・・(;;)」

 散歩の人
 「お怪我は?」

 コチサ
 「いや・・・ただ躓いて防犯ベルのストッパーが外れただけで・・・」

 同じランナー
 「あぁあなたはこの前の・・・あの日以来防犯ベルを持ち歩いたんですね^-^;」

 コチサ
 「ええ、まぁ・・・」

 同じランナー
 「何にしろ、間違いで良かった」

 散歩の人
 「ほんと、良かった良かった」

 近所の人
 「そうね、良かった良かった良かった」

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 何故か「良かった」の声が心に重くのしかかったコチサです^-^;

 防犯ベルの扱いは非常に難しいです。

 「良かった」という事で、同じ事を繰り返していると、近所の人に迷惑をかけ続けることになるし、狼少女になってしまっては元も子もありません。

 かといって持って行かなかったり、しっかりしまいすぎてイザという時に役に立たなかったら、前回のような災難に見舞われたときに心配です。

 人様に全く気を使わないことは出来ませんし、気を使いすぎて自らのリスクを高めるのも問題です。

 コチサ
 「そうだ!・・・もっと高機能の・・・例えば本当の危機に直面した時だけ作動する、人工知能が入った防犯ベルが出来ればいいんだ(^o^)」

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 いつの日か、そんなマシンが開発される日まで、コチサはとりあえず、足元に注意して転ばないように心がけながら、手首にストラップを巻きつけて走ることにしました。

 コチサ
 「ご近所の皆様、コチサは決して狼少女ではありませんから、万が一の時は、今後ともどうぞよろしくお願い致しますm(__)m」

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