No.404 「名文句」 2004.5.12
 仲良しヒヨコ

 アナウンス学校時代、コチサにはズッカとコミちゃんという仲の良いお友だちがいました。

 授業が終わったあと、3人でカラオケに行ったりボーリングに行ったりして遊びました。

 3人で行くと、若い男の子たちからよく声をかけられました。

 ズッカは沖縄出身の女の子ですが、
 「わたしの顔は沖縄っぽくない。
 アムロちゃんの顔こそ沖縄だ」
 と、いつも自分の顔にコンプレックスを持っている子でした。

 ズッカに言わせると、美人の条件は沖縄っぽい顔であること、だから自分は全然美しくない、ということでした。

 秋田出身のコミちゃんは、モデルのようなプロポーションと、さすが秋田出身と思わせる色白の透きとおった肌、整ったお人形のような顔立ちが魅力の、絵に書いたような美人でした。

 ちなみに香川県出身のコチサは、山焼けした浅黒い猿顔に、筋肉質のゴリゴリした肌、気分が高揚すると思わず両胸を叩くその仕草から「キングコングコチサ」と呼ばれていました^-^;

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 ズッカ
 「わたし、3人で遊んでいて男の子に声をかけられるの腹が立つの」

 コチサ
 「なんで?ラッキーじゃん。ボーリング代だってカラオケ代だっておごってもらえるよ」

 ズッカ
 「バッカじゃない。男なんてみんなコミちゃん狙いよ。わたしたちは引き立て役なのよ」

 コチサ
 「へっ?わたしたち?」

 ズッカ
 「わたしたちにいい顔をして笑っているのは、コミちゃんに優しい男だって思われたいからで、心の中では、『へっ、なんだこのブス二人組は』って思ってるのよ」

 コチサ
 「ふ、二人組?」

 ズッカ
 「だから今度3人で遊んでいて声をかけられたら、二人で断りましょう」

 コチサ
 「な、何で?だって得するのに・・・」

 ズッカ
 「いいから、わかった?」

 コチサ
 「うん・・・(-_-;)」

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 そして・・・

 ボーリングの帰り、コチサたち3人組は近くのファミレスで3杯目のコーヒーをお替りしていました。

 そこへ今でいうイケメンの男性が2名声をかけてきました。

 「今からカラオケにでも行きませんか?」
 という当時ではよくあるお誘いでした。

 ちょうどこの後カラオケに行く予定だったので、

 コミちゃんは、
 「わたしたちもこれから行くところだったよ」
 と自然な受け答えをしました。

 コチサはこずるく頭が回って、
 「(今なら、ここのファミレス代とカラオケ代が浮くぜ)」
 と、ニッコリしました。

 ところがズッカは、
 「あなたたちの魂胆はわかっています。
 わたしたちはバカな引き立て役はごめんです。
 さっさとコミちゃんだけ誘って行って下さい」
 と怒り出しました。

 コチサは、何故かズッカの「わたしたち」の「たち」の部分が気になりましたが、とりあえず事の成り行きを見守る事にしました。

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 コミちゃん
 「どうしたのよ、ズッカ。なんか変よ?」

 ズッカ
 「もう嫌なの、いつもわたしたちがあなたの引き立て役になるのは!」

 コミちゃん
 「えっ、どういうこと?」

 ズッカ
 「男はみんな、結局はコミちゃん狙いなのよ。カラオケなんてダシに過ぎないのよ!」

 コミちゃん
 「そんなぁ・・・そんな事無いよ、ただみんなで遊ぼうってだけで、誰もそんな深く考えてないよ。ねぇコチサ」

 コチサ
 「(おいらに振るなよ^-^;)う、うん、まぁ・・・」

 ズッカ
 「コチサ、いいのよ無理しなくて、今日は思いのたけを言っちゃいなさい!」

 コチサ
 「(えっ?何?どゆこと?)」

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 そしてその後、ズッカの口から今もコチサの記憶に残るあの名文句が飛び出たのです。

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 ズッカ
 「コミちゃん、あなたにはブサイクな女の子の気持ちなんかわからないのよ!!!」

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 この瞬間、店内の時間は止まり、笑顔で声をかけてきた男の子たちは、すごすごと退散していきました。

 お客さんの目は、仁王立ちになったズッカの雄姿に釘付けです。

 自らを「ブサイク」と名乗ったズッカを一目見ようと、席から身を乗り出して振り返っている人もいます。

 ズッカもそれに気づいたようです。

 コチサを見ると、

 「ねぇコチサ、誰もわたしたちの気持ちなんかわかってもらえないわよね」

 なんと、いきなり共犯者に引っ張りこみました。

 お客さんの目は、もう一人のブサイクを見ようと、視線を大きく回します。

 コチサ
 「ひぇー!!!!」

 もうコチサとしては穴があったら入りたい心境で、とにかくこの場をはやく立ち去りたい思いでいっぱいでした。

 何かが切れてしまったズッカを置いておいて、とりあえず正気なコミちゃんと割り勘でもいいから精算をして逃げ出そうとコミちゃんに目配せをしました。

 ところが・・・

 日ごろ穏やかでおしとやかな秋田出身のコミちゃんも、今日のズッカの態度にブチキレてしまったようです。

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 コミちゃん
 「ズッカ、あなたが何を言おうが思おうが関係ないわ。でもね、これだけは言っておくわ。コチサはブサイクじゃないわ!」

 コチサ
 「(えっ?また、コチサが出てくるの(>_<)、ひぇーε=ε=┏( ・_・)┛)」

 ズッカ
 「コミちゃんはそうやって、すぐ仲間をひっぱり込むのね。でもね、コチサはわたしの味方。ブサイク仲間よ」

 コミちゃん
 「違うわ、コチサはブサイクじゃない!」

 ズッカ
 「いいえ、ブサイクよ!」

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 どうして、どうして?

 コチサは何にも関係ないじゃん。

 ε=ε=┏( ・_・)┛

 どうして、どうして?

 コチサがことの中心になるのよ?

 ε=ε=┏( ・_・)┛

 事の成り行きを途中から観戦したお客さんは、コチサという子がブサイクかブサイクじゃないかで大喧嘩をしているように見えます。

 「どれその話題の中心の女の子は、どんな顔をしているんだ?」

 そんな好奇心一杯の視線が、痛いほどコチサを突き刺します。

 お店の人が止めに入ってくるまでの数分間が、コチサには何時間にも感じられました。

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 そしてこのゴールデンウィークに、あれ以来疎遠になったズッカがなんと10数年ぶりに上京してきました。

 コチサ
 「元気ぃ?」

 ズッカ
 「元気だよ。コチサも変わらないね」

 コチサ
 「(`_')」

 ズッカ
 「どうしたの?」

 コチサ
 「いや、別に^-^;」

 食べる程に昔話に花が咲きます。

 ズッカ
 「コミちゃん、引退後どうしてるかな?」

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 あの事件以来、コミちゃんとズッカは疎遠になり、ズッカにとってコミちゃんの消息は、テレビ画面を通してしか知りえないものになっていました。

 コミちゃんは、やはりその容姿が只者ではなかったようで、すぐにアイドルとなり、暫くグラビアやバラエティー番組を賑わした後、結婚引退の道を辿りました。

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 コチサ
 「子供も3人できて幸せみたいだよ。毎年、写真入の年賀状が来るよ」

 ズッカ
 「今でもやっぱりキレイ?」

 コチサ
 「うん、キレイだよ」

 ズッカ
 「わたし、悪いこと言っちゃったな」

 コチサ
 「そんなぁ、良いよ、気にしなくて」

 ズッカ
 「わたし、コミちゃんに嫉妬してたんだよね」

 コチサ
 「(なんだ、コチサへ謝ってるんじゃないのかい^-^;)」

 ズッカ
 「わたしさぁ、なんでも顔のせいにしてたけど、本当はそういう性格にこそ問題があったんだよね」

 コチサ
 「(うーん、年月は人間を成長させるなぁ(^o^))」

 ズッカ
 「わたしさぁ、真実を見る目がなかったんだよね、だからそういう意味では本当にブサイクだったよ」

 コチサ
 「大丈夫だよ。そうやってみんなだんだん大人になっていくんだよ」

 ズッカ
 「でもわたしたち、まだ結婚できてないし・・・そういう意味でまだまだ心のブサイクなのかもね」

 コチサ
 「たち?」

 ズッカ
 「うん。何か?」

 コチサ
 「・・・」

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 果たして、ズッカに真実を見る目が養われる日は来るのか?

 それとも、ズッカの見ているものは真実なのか?

 ってことは、コチサはブ・・・(ーー;)

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