コチサ 「やぁ、K子ちゃん」 K子ちゃん 「やぁ、コチサ」 コチサ 「久しぶりだね」 K子ちゃん 「一年ぶりだね、木の芽時に会う二人だね」 そういえば、K子ちゃんは、不思議と春から初夏にかけて会うお友だちです。 今日は、天気が良いので、散歩をすることになりました。 公園のまわりには、色鮮やかな花々が咲き乱れています。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「ねぇK子ちゃん、タンポポ鳴らせる?」 K子ちゃん 「で、出たよ」 コチサ 「な、何よ?人をお化けみたいに。何が出たよ?」 K子ちゃん 「覚えてないの?、コチサは毎年、タンポポを見つけると、そうやって聞いてくるのよ。そして適当なタンポポを摘み取って、鳴らそうとするけど、いつも鳴らないのよ」 コチサ 「そ、それは、タンポポが悪いんだよ」 K子ちゃん 「そうそう、そうやっていつもタンポポのせいにして、言い訳するの」 コチサ 「だって、本当にタンポポが悪いんだもん。田舎のタンポポはちゃんと鳴るもん」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: そしてコチサは、田舎のタンポポに似た、幹が太くて鳴りそうなタンポポをみつくろいます。 一本手にとって、吹いてみますが鳴りません。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「ダメだなぁ、東京のタンポポは」 K子ちゃん 「そんなぁ、タンポポのせいじゃないでしょ。タンポポなんて、もともと鳴らす為にあるんじゃないのよ」 コチサ 「何を言ってるんだいK子ちゃん、失敬だな。モノのない田舎時代、コチサたち子供は、タンポポを鳴らすことでどんなに助けられた事か。そこから友情が生まれ、人間関係が築かれたと言っても過言ではないのだよ」 K子ちゃん 「わ、わかったわよ」 コチサ 「向こうの山で誰かが転んで怪我をしたと言っては、タンポポを鳴らして大人たちを呼び、ふもとの村で火の気があがったのを見れば、このタンポポで消防団を呼び寄せたり、田舎に暮らすものにとっては、タンポポは鳴らす為にあるもんなんだ!」 K子ちゃん 「ちょ、ちょっと、わかったって言ってるじゃない、そんなに興奮しないでよ」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: まぁコチサは、タンポポの鳴らない怒りをK子ちゃんにぶつけていただけだけですが・・・ そして、10数本目のタンポポで、ついに! 「ブ…ブブブ、ブブ、ブー…」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「や、やぁったぁ!ねっ、K子ちゃん聞いた?聞いたでしょ。鳴ったでしょ、タンポポ、ねっ、ねっ」 K子ちゃん 「・・・」 コチサ 「やったぁ、鳴った、鳴った、わーい」 K子ちゃん 「ねぇ、今のが鳴ったことなの?、ブ…ブブブ、ブブ、ブー…って、すごい静かな、子豚の寝息のようなものが?」 コチサ 「そだよ。ねっ、鳴ったでしょ。K子ちゃんもやってみる?」 K子ちゃん 「いや、いい…」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コツを思い出したコチサは、次々にタンポポを鳴らして回ります。 自慢です。 「ブ…ブブブ、ブブ、ブー…」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: K子ちゃん 「あのさぁ、コチサと知り合って10年くらいさぁ、ずーとタンポポ鳴らせる?って言ってきたじゃない」 コチサ 「そだね。ついに実現だね」 K子ちゃん 「それだけ期待を煽ったものが、ブ…ブブブ、ブブ、ブー…なわけ?」 コチサ 「悪い?じゃぁ鳴らせる?」 K子ちゃん 「私は多分、鳴らせないと思う。…でも鳴らしても自慢には出来ない…」 コチサ 「?…へんなの?」 K子ちゃん 「あのさぁ、その音で本当に「向こうの山で誰かが転んで怪我をしたと言っては、タンポポを鳴らして大人たちを呼び、ふもとの村で火の気があがったのをみれば、このタンポポで消防団を呼び寄せたり出来たわけ?」 コチサ 「いやまぁ、あれは冗談。なかなか鳴らないから、大きな事を言ってみたかったんだよ。本当はほら、こんなに小さな静かで、安らかな音でしょ」 K子ちゃん 「ブ…ブブブ、ブブ、ブー…、ねぇどこが安らかなの?普通さぁ、これだけ引っ張ってタンポポ鳴らせるっていうからには、草笛名人のようにさぁ、音色が美しかったり、メロディが奏でられたり、何かしら「すごいね」っていう部分があるわけじゃない。それがブ…ブブブ、ブブ、ブー…だよ」 コチサ 「じゃぁ鳴らせる?」 K子ちゃん 「だから鳴らせないって、それに鳴らせても人には言えない」 コチサ 「ふーん、変なの」 K子ちゃん 「・・・」 コチサ 「なんかタンポポ鳴らしすぎて、お腹減っちゃった。お昼食べに行こうか?」 K子ちゃん 「うん、そうだね。天気も良いから、オープンテラスのお店がいいね」 コチサ 「よし、じゃあ、しゅっぱぁーつ」 初夏の香り漂う一日。 お友だちとのひと時、田舎の思い出を語り合いました。 東京生まれのK子ちゃんは、きっとコチサの田舎を羨ましく思ったことでしょう。 ん? 悪い? じゃぁ、タンポポ鳴らせる? |
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