No.309「町の人たち!」  2003.4.10

 写真・・・アイスティー

 事務所から歩いて数分のところに、俳優座があります。

 以前コチサも劇団手織座さんの公演の時、お手伝いさせていただいた事があります。

 わりと老舗系の劇団や役者さんの公演が多いので、公演のある時は、いつものこの街の光景とは違った層の人たちの集団に出会います。

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 俳優座の裏に、昔ながらの洋食屋さんがあります。

 「バンビ」という名前です。

 吉祥寺の同じ名前のお店と、関係があるとかないとかの声がありますが、はっきりとはわかりません。

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 少し歩いて、六本木交差点に戻ると、誠志堂という本屋さんがありました。

 100年も続く、この界隈では有名な本屋さんだったそうです。

 先月14日で、この本屋さんは閉店しました。

 黒字経営だったのに、○○銀行の貸しはがしだ、とか、六本木ヒルズがオープンしてそこに大きな本屋さんが出来るからやめたのだとか、やっぱりいろいろな声があるそうです。

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 写真・・・オムレツ

 バンビでコロッケ&ハンバーグのランチを食べていると、俳優座から出てきたご婦人方のそんな興味ある話に出会いました。

 かつてこの界隈に住んでいた一人のご婦人が、久しぶりに俳優座でお芝居を観ての帰り、お友達を馴染みのお店に連れてきての独演会でした。

 この街に越してきてまだ日が浅いコチサには、時々知っている場所やお店が出てくる程度の話でしたが、それでも耳をダンボにして聞くに足りる面白いお話でした。

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 コチサ(独り言)

 「そのまま俳優座の舞台で話しても、十分面白いじゃないですか」

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 食後のドリンクをゆっくり飲みながら、ご婦人の話に耳を傾けます。

 機関銃のような勢いのある話口調は、どこか引き込まれるリズムがあって・・・

 春の午後の暖かさも加わって、コチサはいつのまにかウトウト・・・

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 写真・・・プリン

 小学校の頃、学校から帰ってきたコチサは、縁側で春の陽を一身に浴びながら、何するでもなくごろごろとしていました。

 ユリさんは、少し離れた所に住む同じ町内のおばさんです。

 気が向くと、コチサの家にもやってきて、お母さんの作ったおしんこを食べながらお茶をして帰って行きます。

 色のあせた割ぽう着がユニフォームのようなおばさんで、やってくると一時間はお母さんを離しません。

 ユリさんのお得意は、近所の噂話です。

 ユリさんはなんでもよく知っています。

 時折まわってくる回覧板より、ずーと早く正確な情報をくれますが、あまり知らなくてもいいようなゴシップ話も教えてくれます。

 お母さんはいつも適当にあいづちを打ちながら、ユリさんが話し終わって次の家に回るのを辛抱強く待ちます。

 コチサは、ユリさんのその機関銃のようなリズムがやはりどこか子守唄のようになるらしく、縁側でついうとうと・・・

ライン

 写真・・・ピザ

 六本木や赤坂は、なんかちょっとカッコ良さげな街で、田舎もののコチサには少しひるんでしまいがちですが、ご婦人の口調とユリさんの口調が年月を経てリンクした時、コチサにとってこの街は、とても親しみのおける街になりました。

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 コチサ

 「どこでも噂話やゴシップがあって、人は時に打たれて、時に励まされて成長していくんだ」

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 コチサはユリさんが帰っていくのを見た記憶がありません。

 気がつくと陽は傾き、お母さんがかけてくれたタオルケットに包まれているコチサがいました。

 台所からは、お母さんが奏でるトントントンという包丁の小気味良いリズムが聞こえてきます。

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 店員さん

 「お客様?お客様?ドリンクおかわりいかがですか?」

 コチサ

 「あ?あぁ、いえ、結構です。もう帰ります。ご馳走さまでした」

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 写真・・・マンゴゼリー

 少しだけウトウトしたようですが、ご婦人たちの姿はもうありませんでした。

 帰り道、誠志堂の前を通ると、閉店のお知らせの張り紙がパタパタパタパタ風にはためいていました。

 まるで雛からかえって、これから飛び立とうとする小鳥のように・・・

 パタパタパタパタ、パタパタパタパタ・・・

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 コチサ

 「閉店のお知らせは、終わりではなく新しい未来の旅立ちだから、パタパタパタパタは当然だね」

ライン

 写真・・・チョコケーキ

 田舎ものコチサが、少しだけ胸を張って六本木の町を歩いたきっかけの一日でした。



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