No.286「お父さんへ」  2003.1.10

 写真・・・こんぴらさまの「幸福の黄色いお守り」ポスターの前にて

 すっかり里心がついてしまって、東京に戻るのが嫌になってしまいました。

 今回は帰省の直前に、お医者さんに「重度の貧血」と診断されていたもんだから、両親はコチサの顔と結果を見て「上げ膳据え膳」の扱いをしてくれました。

 ふふん、これって良い気分。

 これじゃ帰るのが嫌になって当然です。

 だらだら、ごろごろ、食う寝る食う寝るの生活で、田舎の空気を満喫しました。

 途中から里帰りしてきた妹の子供たちに負けないくらいのわがまま放題のお正月を過ごしました。

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 写真・・・帰省の朝、まだ昨夜の雪が残ってます 帰省の日…

 いつもは、コチサが朝起きるとお父さんは既に畑に出ていていません。

 お母さんは、台所の用意が忙しいので、コチサが勝手にタクシーを呼んで帰るのが習慣になっています。

 でもその日の朝は…

 お父さんがまだ居ます。

 起き出したコチサを見てからやおら畑に出る準備を始めました。

 そして…

 いかにも、たまたま出がけに会った娘に思い出したように声をかけるという感じで…

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 お父さん

 「じゃぁ行って来る…あっそれからな、親より先に死ぬなんて親不幸だけはしたらあかんぞ」

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 そう言うと、玄関を開けて振返ることなく出かけて行きました。

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 写真・・・コチサ家のおもち搗き

 コチサは子供の頃から「健康優良児」に選ばれるくらい元気な子供でした。

 風邪をひいて熱があっても、親に言われるまで気がつかず、「ウーウー」唸りながら外で遊びまわっている子供でした。

 病気がちな妹とは対照的な子供でした。

 親元を離れてもそれは変わらず…

 いやそれ以上に健康で…

 両親は「元気」以外の娘の事を想像したことさえなかったはずです。

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 タイミングは重なるもので、近所で娘さんが重篤な病気になってしまい、その両親が看病に行くという出来事がありました。

 その娘さんはもう嫁いでいて子供も高校生を筆頭に3人います。

 嫁ぎ先の両親も健在で、双方の親子3代が幸せな生活を送っていた矢先の事でした。

 そこでお見舞いに行ったコチサの両親が見た光景は、想像を絶するものがあったそうです。

 変わり果てたその娘さんの姿と、必死で看病をする年老いた両親…

 両親は、

 「親より先に子供が逝く不幸」

 を目の当たりにしたそうです。

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 そこに、青白い顔の娘が「重度の貧血」となって帰ってきたものだから、少なからず両親のパニックは想像が付きます。

 「わーい、わーい、上げ膳据え膳、いいなぁ〜」

 と喜んでいる場合ではありませんでした。

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 写真・・・父の手

 「親より先に死ぬなんて親不幸だけはしたらあかんぞ」

 お父さんは、笑顔で努めて自然に言いました。

 でもそこに込められた思いは…

 血を吐くような思いで発せられた言葉のような気がしました。

 自分の体は自分だけのものじゃないんだ!

 たくさんの「愛」が詰まった体は、詰めてくれたたくさんの「愛」のものでもあるんだ。

 当たり前の事なのについ忘れてしまう真実が、頭を叩かれたように伝わってきました。

 生きている責任、健康でいる事…

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 写真・・・こんぴらさまへお参りするコチサ

 「機上の人」になった時、コチサは窓から水平に見える朝日に誓いました。

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 コチサ

 「やぁ、日の出君。2003年、コチサは親孝行するよ。一番の親孝行は元気でいる事。そしてその次が頑張って仕事をする事。この優先順位を間違えないで頑張るからよろしく!」

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 お父さん

 
お父さんの気持ちは充分伝わったよ。

 でも一つだけ…

 「だからって、親が不摂生して良いってわけじゃないんだからね。お互いが相手のことを思って自分の体に気を使う、これには親子の違いはないんだからね」

 今年も実家に帰れて良かった。

 いくつになっても親から教わることは尽きません。

 写真・・・玄関にて 2003年もよろしく、コチサです。


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