No.276「未来の高橋圭三さん!」  2002.11.21

 写真・・・線路

 電車の中で午後の陽射しを浴びてうつらうつら・・・

 今朝は早かったし、椅子の下からの暖房が心地良くて、つい船を漕いでいると・・・

 目の前に学生服の姿が見えたような気がしました。

 「あぁ、学生さんが立ったんだな」

 そしてコチサは再び、睡魔の世界へ・・・

ライン

 写真・・・くま

 夢と現(うつつ)の世界を行ったり来たりのコチサに、前の二人の会話が入ってきます。

 どうやら、お父さんと子供の会話のようです。

 さっき見たような気がした学生服は子供の方だったんだね、きっと・・・

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 子供

 「でさ、最後の秘境がクリアー出来ないわけよ」

 お父さん

 「うん、あれ難しいよね。でもあれはさ、その前の会話に鍵があるんだよ」

 子供

 「どこ?」

 お父さん

 「ほらメフィストの扉のさぁ」

 子供

 「あー、あの宝箱開けるとき?」

 お父さん

 「そうそう、それでね・・・」

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 写真・・・ねこ

 これはゲームソフトの話だな。

 きっと子供思いのお父さんなんだろうな。

 こうやって子供と会話する為に、仕事の合間にゲームをやってるんだろうな。

 偉いな。

 ・・・でも、それにしても、何も話し言葉までそんな子供風にしなくたって・・・

 とっても違和感があるよ。

 お父さん、声がすごく良いんだから・・・

 そうです!

 半分寝入っていたコチサを夢から引き戻したのはこのお父さんの「声」にあったのです。

 完璧なる腹式呼吸。

 体全体を共鳴版として使っているから声が美しく反響します。

 かつての高橋圭三さんの「どうも、どうも高橋圭三です」というあの声にそっくりなのです。

ライン

 写真・・・イルカ

 でもその声の持ち主が、子供相手の為とはいえ、子供言葉で、

 「それでさぁ、今度さぁ、お母さんに次の買ってもらおうとしたらさぁ・・・」

 なんて話してと、かなりの違和感があります。

 えっ?

 お母さん?

 なんか変だぞ?

 コチサは目を開けて前を向きました。

 そこには学生服の少年(多分中学生)が二人いました。

 片方の男の子は相手の男の子の肩まで位の身長で、坊主頭のメガネをかけた、どう見ても小学生にしか見えない幼い感じの子供です。

 もう一方の男の子は、まぁ普通の中学1年生くらいって感じです。

 「あれ?お父さんは何処にいるんだ?」

 しかし大人の姿は何処にもありません。

 「でさぁ、仕方ないから小遣いを貯めてさぁ・・・」

 小さい方の男の子が喋りだしました。

 「えっ、この声!」

 そうです、高橋圭三さんはこの少年だったのです。

 「えー!!!」

 コチサはびっくりして目が覚めてしまいました。

ライン

 写真・・・ぞう

 コチサは日々腹式呼吸の「声」の素晴らしさをアピールしています。

 「声」に威厳が出て相手に明瞭にアピールする腹式呼吸は、是非身に付けてもらいたいと言っています。

 でも・・・

 この少年は・・・

 小学生くらいにしか見えない少年が、何故か声だけ腹式発声・・・

 それも最高に反響する発声法・・・を身に付けて生まれてきてしまって・・・

 声だけ聞いたら、絶対に大人です(それも超かっこいいイメージの)

 でも実際は・・・

 少し、いやかなりの違和感がありました。

 子供の頃、声にコンプレックスを持っている友達が結構いました。

 「子供っぽい」(=子供なんだから当然です)

 「変な声」(=変声期を迎えれば大丈夫だよ)

 「声が小さい」

 「鼻声」

 「ハスキー」

 などなど・・・

 でも、子供の頃から腹式呼吸が完璧に身に付いて「高橋圭三さん」ばりな声を持っている子なんていなかった・・・

 もしかしたら、この少年も今はその「声」がコンプレックスなのかも知れない。

ライン

 写真・・・アヒル

 コチサが目を開けて驚いたように少年を見た時、それに気が付いた少年は話すのをやめてしまったから・・・

 「声」でいろいろ嫌な思いをしてきたのかも知れない・・・

 でも、それは今ちょっとだけの我慢。

 「君は、他の誰もがどんなに羨やんでも決してマネの出来ない、天性の声と発声法を持って生まれて来たんだよ。もうすぐわかるよ」

 ちょうど降りる駅だったので、コチサは心の中でそう呟いて、席を立ちました。

 未来の高橋圭三さんに出会ったその日、コチサは何故かいつも以上に外郎売の練習に熱が入りました。


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