電車の中で午後の陽射しを浴びてうつらうつら・・・ 今朝は早かったし、椅子の下からの暖房が心地良くて、つい船を漕いでいると・・・ 目の前に学生服の姿が見えたような気がしました。 「あぁ、学生さんが立ったんだな」 そしてコチサは再び、睡魔の世界へ・・・ 夢と現(うつつ)の世界を行ったり来たりのコチサに、前の二人の会話が入ってきます。 どうやら、お父さんと子供の会話のようです。 さっき見たような気がした学生服は子供の方だったんだね、きっと・・・ :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 子供 「でさ、最後の秘境がクリアー出来ないわけよ」 お父さん 「うん、あれ難しいよね。でもあれはさ、その前の会話に鍵があるんだよ」 子供 「どこ?」 お父さん 「ほらメフィストの扉のさぁ」 子供 「あー、あの宝箱開けるとき?」 お父さん 「そうそう、それでね・・・」 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: これはゲームソフトの話だな。 きっと子供思いのお父さんなんだろうな。 こうやって子供と会話する為に、仕事の合間にゲームをやってるんだろうな。 偉いな。 ・・・でも、それにしても、何も話し言葉までそんな子供風にしなくたって・・・ とっても違和感があるよ。 お父さん、声がすごく良いんだから・・・ そうです! 半分寝入っていたコチサを夢から引き戻したのはこのお父さんの「声」にあったのです。 完璧なる腹式呼吸。 体全体を共鳴版として使っているから声が美しく反響します。 かつての高橋圭三さんの「どうも、どうも高橋圭三です」というあの声にそっくりなのです。 でもその声の持ち主が、子供相手の為とはいえ、子供言葉で、 「それでさぁ、今度さぁ、お母さんに次の買ってもらおうとしたらさぁ・・・」 なんて話してと、かなりの違和感があります。 えっ? お母さん? なんか変だぞ? コチサは目を開けて前を向きました。 そこには学生服の少年(多分中学生)が二人いました。 片方の男の子は相手の男の子の肩まで位の身長で、坊主頭のメガネをかけた、どう見ても小学生にしか見えない幼い感じの子供です。 もう一方の男の子は、まぁ普通の中学1年生くらいって感じです。 「あれ?お父さんは何処にいるんだ?」 しかし大人の姿は何処にもありません。 「でさぁ、仕方ないから小遣いを貯めてさぁ・・・」 小さい方の男の子が喋りだしました。 「えっ、この声!」 そうです、高橋圭三さんはこの少年だったのです。 「えー!!!」 コチサはびっくりして目が覚めてしまいました。 コチサは日々腹式呼吸の「声」の素晴らしさをアピールしています。 「声」に威厳が出て相手に明瞭にアピールする腹式呼吸は、是非身に付けてもらいたいと言っています。 でも・・・ この少年は・・・ 小学生くらいにしか見えない少年が、何故か声だけ腹式発声・・・ それも最高に反響する発声法・・・を身に付けて生まれてきてしまって・・・ 声だけ聞いたら、絶対に大人です(それも超かっこいいイメージの) でも実際は・・・ 少し、いやかなりの違和感がありました。 子供の頃、声にコンプレックスを持っている友達が結構いました。 「子供っぽい」(=子供なんだから当然です) 「変な声」(=変声期を迎えれば大丈夫だよ) 「声が小さい」 「鼻声」 「ハスキー」 などなど・・・ でも、子供の頃から腹式呼吸が完璧に身に付いて「高橋圭三さん」ばりな声を持っている子なんていなかった・・・ もしかしたら、この少年も今はその「声」がコンプレックスなのかも知れない。 コチサが目を開けて驚いたように少年を見た時、それに気が付いた少年は話すのをやめてしまったから・・・ 「声」でいろいろ嫌な思いをしてきたのかも知れない・・・ でも、それは今ちょっとだけの我慢。 「君は、他の誰もがどんなに羨やんでも決してマネの出来ない、天性の声と発声法を持って生まれて来たんだよ。もうすぐわかるよ」 ちょうど降りる駅だったので、コチサは心の中でそう呟いて、席を立ちました。 未来の高橋圭三さんに出会ったその日、コチサは何故かいつも以上に外郎売の練習に熱が入りました。 |
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