No.250「生きててよかったぁ〜(^o^)」  2002.8.21

 写真・・・色えんぴつ

 知り合いの知り合いが出演するということでお芝居を観てきました。

 場所はコチサの自宅から歩いて5分、ビルの地下の居酒屋です。

 えっ居酒屋?

ライン

 会長

 「まだまだこれからの劇団ですからね、こういうところから一歩ずつですよ」

 コチサ

 「でも、まんま居酒屋じゃ・・・」

 会長

 「でもお酒も食事も出ませんよ」

 コチサ

 「・・・」

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 芝居の舞台は居酒屋のカウンターと狭い通路のみ。

 コチサたち観客は奥の壁面に沿って、ズラーと並べられて壁の花となります。

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 会長

 「コチサさん、もう少しつめて下さい」

 コチサ

 「もうキツキツですよ」

 会長

 「まだお客さんが入って来てるんですよ」

 コチサ

 「だってもう物理的に無理なんじゃないですか?」

 会長

 「そんなのはとっくにもう無理なんですよ。だって40人定員の所にすでに60人を入れているんですから。後は気合いで入るしかないですよ」

 コチサ

 「それって、消防法とかはどうなって・・・」

 会長

 「しっ!それはタブーです」

 コチサ

 「そ、そんなぁ」

ライン

 写真・・・グリーン

 そうこう言っているうちにお芝居が何気に始まりました。

 舞台は飲み屋、主人公はその飲み屋のママさん、ってまさにそのまんまのお芝居です。

 人を入れすぎた事を気にしてか、冷房は最強状態です。

 コチサは自分が冷蔵庫に入れられた生鮮食料品になったような気がしました。

 さすがにお客さんが一人手を上げて、

 「冷房ゆるめてくれませんか?」

 と音を上げていました。

 ところが、この劇団の人たちはこの場所を借りたとき、付帯設備の使い方を良く聞かなかったようです。

 いきなり冷房が止まりました。

 しかし芝居は続きます。

 写真・・・携帯電話

 主人公のママ、そのお店で働く女の子たち、そしてお客さん・・・

 という全く場所に違和感のないお話が進行して行きます。

 今度は誰かが「暑い」と言い出しました。

 そして慌ててエアコンに走る、劇団の人・・・

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 コチサ

 「会長、もうすぐ終わりますよね、この芝居」

 会長

 「えぇ時間的には、多分」

 コチサ

 「なんか息苦しいんですけど」

 会長

 「暖房入ってますからね」

 コチサ

 「な、なんでぇ〜?」

 会長

 「多分間違えたんでしょう」

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 写真・・・夜

 何で?

 真夏の地下、定員をはるかに超えた密室・・・

 そんな中でどうして、暖房がかかるのよぉ

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 コチサ

 「会長?なんか隣の男の人が体を揺らしているんですけど・・・」

 会長

 「多分、酸欠状態になっているんでしょう、コチサさんも気をつけて下さいよ」

 コチサ

 「そういえば、さっきから何か苦しくて・・・はぁはぁ」

 会長

 「頑張って下さい。多分もうすぐ終わるはずですから・・・」

 コチサ

 「会長、芝居見るのって大変なんですね」

 会長

 「はい、命がけです」

 コチサ

 「でも・・・はぁはぁ・・・コチサ、死にたくないっす」

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 そして芝居は終わった・・・

 ようです・・・

 狭いカウンター前にラインアップした出演者に、場内から割れんばかりの拍手が響きました。

 思わぬ大歓迎に、出演者の顔がいっそう満足げに輝きます。

 良かった、良かった・・・

 この拍手が、実は自分たちが酸欠状態の中で生き延びた事への、喜びの拍手であることは、この場を共有した観客たちだけの秘密です。

ライン

 写真・・・白い花

 細い階段を登って地上へと出た観客の顔に浮かび上がった喜びの笑顔は、まさに奇跡の生還を果たしたことへの生きている感動そのものでした。

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 会長

 「で、コチサさん、お芝居の感想は?」

 コチサ

 「うん、生きてて良かったっす」


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