生まれた時は、父方母方とも、おじいちゃん・おばあちゃんは勿論、ひいおじいちゃん・ひいおばあちゃんまで全部で8名が健在だったという「超幸せな子供」だったコチサですが、今では母方の、このおばあちゃん一人を残すだけとなってしまいました。 ハナコばあちゃんは、コチサの大好きなおばあちゃんで、今でもお正月に帰ると、こっそりお小遣いをくれます。 ハナコばあちゃんにとっては、いつまでも小さな小さな子供なのでしょう。 昔気質のおばあちゃんは、「女は一歩下がっているもの」というポリシーで、お客さんが来た時はいつも一人だけ下がって、座布団はおろか畳にも座らずに廊下に座ってお客さんをもてなします。 多くを語らず、家を継いだ息子を立て、例えそれが間違った選択だとしても、息子の決めることに同意します。 おばあちゃんの顔は皺だらけです。 それもそんじょそこらの皺ではありません。 顔中に年輪のように深く深く刻まれた皺です。 でも仏様のような顔をしています。 皺の数だけ、心が泣いたり傷ついたりして、顔が仏様のようになっていったのだと思います。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: おばあちゃん 「サチコ、嘘だけはついたらあかんで」 コチサ 「うん、コチサ嘘ついたことないもん」 おばあちゃん 「それが嘘やで。おばあちゃんはな、この歳まで嘘ついたことないで」 コチサ 「嘘付きいたて思ったことないん?」 おばあちゃん 「それはあるわな。ここで嘘をついたらどんなに楽になるか、そう思った事はなんどもある」 コチサ 「じゃぁ嘘つけば良いんだよ、コチサみたいに」 おばあちゃん 「でもな嘘をついたら終わりや。そんな時はな、ぐっとこらえて飲み込むんや」 コチサ 「コチサはそれが出来ないんだよ。それにな、嘘はついて良い嘘もあるんやで、人を助けるとかな」 おばあちゃん 「サチコ、何言うても嘘は嘘や。ついて良い嘘なんて無い。おばあちゃんはどんな時も嘘は飲み込むんや」 コチサ 「ふーん」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 「嘘をつかないこと」・・・それが大正生まれの讃岐女、おばあちゃんの心の拠所だったんでしょう。 (その孫がなんで・・・という話は、今回は本題ではないので考えてくれなくて結構です^^;) ある日おばあちゃんは転んで足の骨を折り、長期に入院をしてしまいました。 その頃から、おばあちゃんはちょっと遠くを見るようになりました。 だんだん子供返りと言うか、世間で「ボケ」と言われる症状が出てきました。 話は、冒頭のお母さんとの電話に戻ります。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: お母さん 「それがなぁ、おばあちゃん、嘘をつくようになってな。みんな困ってんのや」 コチサ 「嘘を?おばあちゃんが?信じられない」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: あれだけ「嘘をつかない」事にこだわって生きてきたおばあちゃんが、病気の為とはいえ嘘をつくなんて・・・ 正気になってそれを知った時のおばあちゃんの気持ちを考えたらとても辛い気持ちになってしまいました。 でも・・・ 電話でお母さんと一緒に哀れんだところで何も生まれてくるものなんかありません。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「ふーん、でも良かったじゃん」 お母さん 「お前、何言ってるの?」 コチサ 「おばあちゃんは、病気で子供返りをしてるんだよ」 お母さん 「・・・」 コチサ 「子供になって、子供の頃したくても出来なかった事を一杯してるんだよ」 お母さん 「それが嘘をつく事なんか?」 コチサ 「おばあちゃんは、子供の頃、嘘をつくコチサを見て、きっと楽しそうに見えたんだよ。実際コチサも子供の頃楽しかったし・・・」 お母さん 「・・・」 コチサ 「あーこの子は何て天真爛漫なんだろう。それに皺一つ無い天使のような笑顔・・・」 お母さん 「お前、自分でそんなこと言って恥ずかしくないか?」 コチサ 「おばあちゃんの為だもん。・・・それでね、おばあちゃんは、自分も子供の頃、もっとこんな風に天真爛漫に生きてみたかったなって思ったんだよ」 お母さん 「で、今ボケてからそれをやってるのか?」 コチサ 「ボケてないよ。ただおばあちゃんは子供になっただけなんだよ。だから一緒におばあちゃんと笑って嘘を楽しんでいればいいんだよ」 お母さん 「そんな子供相手じゃあるまいし」 コチサ 「子供なんだよ。人は赤ちゃんで生まれて赤ちゃんに帰るんだから。それにお母さんは、嘘をつく子供を相手にするの得意でしょ。コチサのお母さんなんだから」 お母さん 「まぁな、お前は世界一の嘘つきやからな」 コチサ 「そんなことはどうでもいいんです!」 きっとおばあちゃんは今、幸せなんだ。 コチサはそう思うことにしました。 もう顔に皺を刻む必要は無い。 好きなとき、好きなだけ、部屋の真ん中に来て座布団を何枚も重ねて座っていていいんだ。 だって、本当はおばあちゃんが一番偉いんだから。 家を継いでいる息子だって、おばあちゃんが育てたんだから。 おばあちゃん、毎日元気一杯、嘘をついてみんなと笑って生きて行こうね。 今度コチサと会ったときは「嘘つき合戦」をしようよ。 でも今から頑張って勉強しておかないと、コチサにはなかなか勝てないよ。 なんてたってコチサの嘘は筋金入りだからね。 ハナコばぁちゃん、ただいま花の83才(^o^)丿 |
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