No.248「少年と電車と大学ノート!」  2002.8.12

 写真・・・電車

 打合せの帰り、東京駅から中央線で新宿へ向かう車内でのこと。

 コチサの前に座っている一人の中学生くらいの男の子の事が気になりだしました。

 その子は、じっとしていることが苦手らしくて、体を激しくゆすったり周りをきょろきょろ見回したり、どうも気持ちが定まりません。

 両隣に座っている人も、困ったような顔をしています。

 その子は、片手に普通の大学ノートを上下半分に切ったものを抱え、もう一方の手には数珠のような玉の繋がったものを持っていました。

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 イラスト・・・カラフルクリップ1 何気にノートを覗くと・・・

 東京 →  神田 → 御茶ノ水 → 四谷 
                           ↓
 阿佐ヶ谷 ← 高円寺 ← 中野 ← 新宿

 という大人の手書きの文字が・・・

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 男の子は電車が出発すると、4色ボールペンを取り出し、猛然と「東京」の文字を消しだしました。

 そして数珠のような玉を一つ反対側に送り出しました。なかなかうまく行かないようで、一心不乱に玉を押し出していました。

 そしてあっと言う間に「神田」・・・

 男の子は慌てて「神田」の文字を消します。

 今度は緑です。

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 イラスト・・・カラフルクリップ2

 コチサは阿佐ヶ谷駅に待っているものが解ったような気がしました。

 なんか微笑ましく嬉しいような気持ちになりました。

 4色ボールペンの色違いの目新しさも消え、数珠球の押し出しも慣れ出した頃、男の子はまたそわそわ落ち着きがなくなり自分の世界に入ってしまいました。

 電車は四谷に停車し、新宿へ向けて発車しました。

 男の子のノートは手付かずのまま、数珠も移動しません。

 他の事に気を取られて上の空です。

 コチサは思わず声をかけようとしました。

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 イラスト・・・カラフルクリップ3 その時・・・

 最初はこの男の子のせわしない動きに嫌な顔をしていた隣に座っているおばさんが声をかけました。

 「四谷過ぎたわよ」

 男の子は最初ポカーンとした顔をしていましたが、すぐに4色ボールペンから青を選び出すと勢い良く「四谷」の文字を消しだしました。

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 どうやら心配していたのはコチサだけではなかったようです。

 周りを見回すと多くの人がこの男の子に暖かい眼差しを注いでいました。

 でも男の子はすぐに集中が途切れます。

 コチサの下車駅の新宿に着いた時、コチサは降りませんでした。

 最後まで塗りつぶすのを見届けようと思ったのです。

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 イラスト・・・カラフルクリップ4 中野・・・高円寺・・・阿佐ヶ谷

 男の子は、ドアが開くと同時に飛び出して行きました。

 コチサにとって久しぶりの阿佐ヶ谷駅は、記憶の駅とは違ってこんなに広かったかなと思いました。

 階段を走り降りる男の子・・・

 改札口には、ハンカチを握りしめた女性が・・・

 コチサは階段の上からその光景を見つめ、二人が出会わない前に背中を向けました。

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 男の子

 「お母さん、一人で来たよぉ」

 そんな声が聞こえたような気がしました。

ライン

 コチサ

 「ただいまぁ〜」

 社長

 「遅かったね」

 コチサ

 「あぁ電車乗り過ごしちゃってさ」


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