No.240「プロンプター!」  2002.7.8

 gifアニメ・・・七夕さま
 七夕さまの前夜の空は、真夜中にも関わらず、大きな白い雲がいくつも風に揺られてゆっくり移動していました。

 まるで明日の出会いを前に、風が空の大掃除をしているようでした。

 で、迎えた当日。

 天空ではどんなドラマが繰りひらげられたのでしょうか?

ライン

 数十年前のある夏・・・

 七夕に向けて、四国の山奥の小学校は、牽牛と織姫の七夕物語を上演することになりました。

 イラスト・・・牽牛 どうして牽牛と織姫は別れ別れになってしまったのか?

 どうして一年に一回しか会えないのか?

 天の川はどうして出来たのか?

 このお芝居を通して2年西組の子供たちは、七夕の「牽牛と織姫」のそれはそれは深い恋物語を知ったのでした。

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 コチサ

 「ただいまぁ〜」

 お母さん

 「お帰りぃ。今日から七夕のお芝居の稽古が始まったんやろ?どうやった?」

 コチサ

 「ん?別にぃ〜」

 お母さん

 「ほうー、その返事やと、人生思うように進まんかったようやな」

 コチサ

 「ん?どゆこと?」

 お母さん

 「織姫さまの役にならへんかったんやろ?」

 コチサ

 「ん?そんな事ないよ」

 お母さん

 イラスト・・・織姫「じゃぁ、お前が織姫さん役になったんかぁ?」

 コチサ

 「うん、まぁね」

 お母さん

 「そうか、良かったなぁ。お母さんはまたどうせ天の川の役にでもなるんやろうて思うとったよ」

 コチサ

 「うん、まぁそれもある」

 お母さん

 「なんやそれ?お前が織姫さんになったんと違うんか?」

 コチサ

 「まぁ正式にはね、未来ちゃんがやるんやけどな。コチサもやるんや」

 お母さん

 「?・・・まぁええわ。で、彦星さんは誰がやるんや」

 コチサ

 「ん?ハジメ君がやるんやけどなぁ、コチサもやるんや」

 お母さん

 「?」

ライン

 イラスト・・・黒板 時間は少し前に戻ります。

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 先生

 「・・・はい以上で配役は決定です。みんな頑張りましょうね」

 生徒たち

 「はーい!」

 コチサ

 「(意義ありと思ったけど、ただうつむくコチサ)」

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 クラス全員が出演するお芝居のはずなのにコチサの役はないのです。

 どうしたんだろう?

 先生はコチサの事を忘れてしまったのかな?

 それとももしかしたら、コチサは自分が勝手にコチサと思っているだけで、他の誰からも見えない人間なのかもしれない?

 などとほとんどパニックになりそうな時に、ようやく先生からのお声がかかりました。

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 先生

 「それから、このクラスで一番上手に本が読めるさっちゃんには、一番大事な役をやってもらいまーす。プロンプターさんでーす」

 イラスト・・・生徒1生徒1

 「えー誰それ?」

 イラスト・・・生徒2生徒2

 「そんな人いないよぉー」

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 お芝居の最中、コチサは舞台の袖に潜み、台詞を忘れてしまった役者さんに台詞を教えてあげる。

 それがプロンプターさんです。

 だから、織姫の役も牽牛の役も、全てコチサの役であるというのはまんざら間違っていないと思っていました。

ライン

 後年、コチサが劇団に所属して、実はこのプロンプターというのは大変な仕事であることを知りました。

 特に相手が大物の役者さんの場合、それが「間」なのか、本当に台詞を忘れてしまったのかを判断するのかはとても難しいことだそうです。

 判断を間違えると、役者さんのモチベーションは一気に下がってしまうし、プロンプを入れるタイミングというのも熟練の技なのだそうです。

 しかし、それは後年の話です。

 当時のコチサは、「プロンプター」というのをドラマのナレーションとか、影の声のような存在と考えていたようです。

ライン

 イラスト・・・学校そして、香川県○○小学校2年西組の「七夕劇」は始まりました。

 劇の様子は書きません。

 以下の、お母さん同士の感想からお察し下さい。

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 イラスト・・・誰かのお母さん1誰かのお母さん1

 「なんか面白い劇やったなぁ」

 イラスト・・・誰かのお母さん2誰かのお母さん2

 「台詞は全部、舞台の端から一人の子が言うんやな」

 イラスト・・・誰かのお母さん3誰かのお母さん3

 「あれはな、パントマイム言うんや。舞台の子は声に合わせて演技をするだけなんや」

 誰かのお母さん1

 「でも、舞台の子供たちも小さい声やけど台詞をしゃべっておったみたいやで」

 誰かのお母さん2

 「まだ子供やからな。ほんまはしゃべっちゃいかんのやろうけど、しゃべらんと演技をするリズムがつかめんのやないか」

 誰かのお母さん3

 「やっぱり子供にはパントマイムは難し過ぎるて」

 誰かのお母さん1

 「しかし、舞台の端からの声、大きなよう通る声やったなぁ。このお芝居、きっとあの子が主役やったんやな」

 イラスト・・・コチサ母コチサのお母さん

 「・・・」


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