毎朝の散歩で出会うおじいさん・・・ そんなに大柄ではないのですが、背筋をピシッと伸ばして「頭よ天に届け!」という感じで歩いています。 もうここ何年も会っているのですが、別に挨拶を交わす事も無かったので気にかけることは無かったのです。 でもどっかで見た顔だとは思っていたのです・・・ 昼時の時代劇の再放送は、テレビ東京の独壇場です。 若かりし杉良太郎さんが、上半身を動かさない独特な走り方で、画面を横切ります。 その番組に、散歩のおじいさんが出演していました。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「そっかぁ、あのおじいさん、俳優さんだったんだぁ。どうりで見た事がある顔だと思った」 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサは早速、事務所のタレント名鑑でおじいさんを捜します。 しかし、活躍していた時代が違うのか見当たりません。 コチサが見た再放送の番組は、もう10年以上も前のものです。 おじいさんはもう引退したのでしょうか? それともまだまだ現役で活躍をされているのでしょうか? 少なくともコチサが見るテレビ番組や舞台ではお目にかかった事はありません。 でも、散歩の時の背筋を伸ばした歩き方、姿勢の良さは、やっぱり役者さん独特のものです。 そして、同じ散歩の人たちと挨拶を交わしたり、立ち話をしたりをしない、まっすぐ前を見つめて歩くその近寄りがたい孤高の雰囲気・・・ コチサは、おじいさんは引退したのではなく、いつでも舞台に登場できるように備えている現役の役者さんなのだと確信しました。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「多分今はおじいさんは充電期間なんだ。もうすぐ2ヶ月3ヶ月のロングラン公演の話がやってくるかも知れないから、こうして毎日体を鍛えているんだ」 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: このおじいさんを意識するようになって、コチサの毎朝の散歩によりハリが出てきました。 コチサも頑張ろう! 挨拶こそ交わすことはないのですが、毎朝8時少し前、神田川でおじいさんとすれ違うのが日課になりました・・・ そんなある日の昼下がり・・・ 同じ町内の全く別の道で、おじいさんと出会いました。 おじいさんはコチサと同じこの町内に住んでいるようです。 おじいさんの背筋を伸ばした歩き方は、遠くからでもすぐにわかります。 すれ違いました。 おじいさんは、白い薄ビニールの袋を下げていました。 コンビニかなんかで買い物でもしたのでしょうか? 袋の中に透けて見えるのは、病院でくれる湿布薬でした。 コチサは、おばあちゃんが良く病院からこの湿布薬をもらっていたのですぐにわかりました。 今日も元気に姿勢よく歩いているおじいさんですが、きっとどこか関節とか筋肉が痛いのかも知れません。 いやもしかしたら昨日今日に始まった事ではなく、おじいさんはいつも散歩の時に体のどこかに湿布薬を張っていたのかも知れません。 すごーく痛いのか、少しだけ痛いのか、コチサにはわかりません。 でもおじいさんは俳優さんだから、痛くても痛くなくても毎日胸を張って散歩します。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサは、ちょっとでも体の調子が悪かったり、筋肉が疲れていたりしたら散歩もジョギングも取りやめます。 無理をしないこと・・・ それが将来には大切なことだと思っているからです。 でももしかしたら、それはコチサがまだ将来を待つアマチュアだからかも知れません。 本当のプロは「今」が「その時」だから、いつでも弱音を吐かないで突き進むのかも知れません・・・ :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 今朝もおじさんは背筋を伸ばして、向こうから歩いてきます。 コチサも負けじと、姿勢を正して正面を向いて歩きます。 そしてまた今日も挨拶も無くすれ違いました。 おじいさんが通り過ぎた後、コチサは立ち止まって、目を閉じてこんな想像をしました・・・ 散歩から帰ったおじいさんの家の電話が鳴ります。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 電話の声 「もしもし、○○さんですか?実は明日からの明治座公演、助六役の役者が急に倒れてしまって・・・急な代役で申し訳ないんですが○○さん、ご出演願えませんか?」 おじいさん 「喜んでお受けしますよ」 電話の声 「ありがとうございます。でも2ヶ月のロングランなんで、もし体力的に無理な場合は最初の数週間だけでも結構なんですが・・・」 おじいさん 「その心配には及びませんよ。2ヶ月でも3ヶ月でも、半年でも、その準備はいつでも出来ていますから」 電話の声 「ありがとうございます。それじゃ明日、九時入りで、お待ちしています」 おじいさん 「はい、よろしくお願いしますよ」 コチサは目を開けて、にっこり振り返りました。 相変わらず姿勢の良い歩き方のおじいさんは、はるか遠くを歩いていました。 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「やったね、おじいちゃん!」 :::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: これが単なるコチサの想像だけでは終わりませんように・・・ |
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