No.235「悲しみの天せいろ・・・」  2002.6.24

 写真・・・葉山の道

 企画書を書くなど去年の12月から関わっていた、某施設の展示設計の仕事が竣工を迎えるということで、コチサも「どれどれ」と、海を臨む葉山まで、立会いに出かけていきました。

ライン

 コチサ

 「竣工、おめでとうございます」

 理事長

 「コチサさんのおかげで立派なものが出来ました、ありがとうございました」

 コチサ

 「なんの、なんの」

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 ・・・というのは真っ赤な嘘で、外様のコチサは館内の端っこに小さくなっていました。

 そして腹時計も「グゥー」となる頃・・・

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 親分

 「じゃぁ、昼でも行こうか」

 コチサ

 「がってんだい!」

ライン

 メンバーは7名。

 コチサチーム(制作側)は大将の親分を筆頭に5名、それに仕事をくれる立場(クライアント側)の代理店の所長と営業君の7名です。

 写真・・・手打ちそば「和か菜」の看板 地元であるという代理店の所長のお奨めで、美味しいといわれる「お蕎麦屋」さんに出かけました。

 あいにく店内は混み合っていて、4人掛けのテーブル二つに、4人と3人で別れて座ることになりました。

 奥方のテーブルには、代理店の2名と親分、子分2号の木綿君が座りました。

 そしてもう一方のテーブルには、コチサを含めた子分3名が座っています。

 メニューが配られました。

 こういう時、コチサは気を使います。

 多分ここは、制作側として親分が支払う事になるでしょう。

 ということは、コチサにとっても身内の支払いとなるわけです。

 遠慮して一番安いメニューを頼むと、接待される代理店側も気にするはずです。

 かといって高いものを頼むのも、問題ありです。

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 コチサ

 「ここは向こうに先に注文をしてもらって、同じモノを頼む事で問題を回避しましょう」

 子分ども

 「なるほど、名案ですね」

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 コチサは注文を聞きに来るお姉さんを無視してメニューを覗き込むフリをしながら、耳をそばだてていました。

 しかし混雑する店内、なかなか聞き取れません。

 もうダメかぁと思った時、かすかに「天せいろ」という声が聞こえました。

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 コチサ

 「聞こえた?」

 子分1

 「うん、確か天せいろって」

 コチサ

 「あっ、やっぱり。コチサも聞こえた。じゃぁ間違いないね。(お姉さんに向かって)天せいろ3つ!」

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 無事難関を乗り越えて、コチサも子分たちもほっと一息です。

 ところが・・・

 先に運ばれて来た、奥のテーブルを見てびっくり・・・

 写真・・・せいろ

 ただの「せいろ」です。

 えっ?

 どゆこと?

 天せいろは?

 親分も、子分2の木綿君も、代理店の営業君もせいろをすすっています。

 そんな中で所長だけが「天せいろ」を広げていました。

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 コチサ

 「じゃぁ、聞こえた声は所長の声だったんだ・・・どうしよう、オーダーチェンジか?」

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 などと悩む間もなく、コチサたちのテーブルに「天せいろ」3つが並べられてしまいました。

 奥のテーブルより明らかに豪華です。

 (だって向こうは所長以外は全部ただの「せいろ」なんだもん)

 写真・・・輝く海老天 そして何故かコチサの前の海老だけが妙に大きく輝いて見えます。

 いつもなら喜ぶ事ですが、こんな時は肩身が狭いっす。

 まいったね・・・

 取り合えず、コチサは奥のテーブルと目をあわさないように、急いで天ぷらを頬張りました。

 でも・・・

 先に料理が運ばれた方が、先に食べ終わるというのは自然の摂理で・・・

 コチサが最後の海老を口に頬張った時に、親分がコチサのテーブルに現れ、スーッとレシートを取って行きました。

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 親分

 「先に車に行ってるから、ゆっくり食べて来なさい」

 コチサ

 「(口から海老の尻尾が飛び出た状態で、目を白黒)」

ライン

 せいろ-750円

 天せいろ-1.300円

 べっ、別に、天せいろが食べたかったわけじゃないやい。

 周りを考え、立場を考え、気に気を使っての選択が、たまたま失敗をしたわけだい!

 写真・・・お店の裏側の棚田

 海老を詰まらせ、涙目になったコチサの無言の訴えは、親分に届いたでしょうか?


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