No.228「突然の訃報」  2002.5.27

 写真・・・花びら

 俳優の伊藤俊人(としひと)さんがお亡くなりになりました。

 くも膜下出血での急逝だそうです。

 まだ40歳の若さでした。

 名脇役としてここ数年はテレビドラマでひっぱりだこでした。

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 写真・・・時計1 コチサが出会ったのはもう随分前、まだ「声」の勉強に学校に通っている頃でした。

 その学校の講師及び担当が伊藤俊人さんでした。

 コチサたち学生は、名前を音読みして「シュント先生」と呼んでいました。

 その頃のシュント先生は、痩せていてジャニーズ系の二枚目で「超カッコいい」と生徒たちの憧れの的でした。

 当時は三谷幸喜さんとかと「東京サンシャインボーイズ」を組んでいた頃だと思いますが、まだ役者としてはそんなに売れていなくて、アルバイトとしてコチサたちの学校の講師兼担当をされていたようです。

 年齢的にも若い現役のシュント先生から教わることは、生徒たちにとっても実り多い事ばかりで、今でもたくさんの教えが役立っています。

 コチサのオーデションにシュント先生は「マネージャー」という立場で何度も付き添ってくれました。

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 コチサ

 「また落ちましたね」

 シュント先生

 「サッチなんか、僕に比べたらまだまだ足りないよ。ぜんぜん落ち込むレベルじゃないね」

 コチサ

 「はい、まだまだ落ちまくります」

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 そういえばシュント先生は、「コチサ」と呼ばずに「サッチ」と呼んでいました。

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 シュント先生

 「呼び方は、いろいろあってもいいじゃない」

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 コチサのオーデションは、受かったり落ちたりを繰り返しながら、少しずつ実践の仕事を覚える事が出来、やがて卒業の時がやってきました。

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 シュント

 「じゃぁサッチ、これからも頑張って」

 コチサ

 「シュント先生も、チケット取るのが大変な俳優さんになって下さい」

 シュント先生

 「あぁ任せといて」

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 卒業するのはコチサたちなのに、シュント先生は卒業生から反対に花をもらう人気ぶりでした。

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 写真・・・時計2 それから数年後、シュント先生は再びコチサの前に現れました。

 今度はテレビのブラウン管を通してでした。

 シュント先生はその2枚目ぶりから、新劇の主役として舞台に立つと思っていたコチサはテレビドラマに出ている事に驚きました。

 そしてそれより驚いたのは、シュント先生は2枚目を捨て、四角い黒ぶちのメガネをトレードマークにしたバイプレーヤーとして生まれ変わっていたことでした。

 そしてその後、シュント先生は一気に名脇役としての地位を固めていきました。

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 お友達

 「ねぇねぇ古畑任三郎見た?シュント先生出てたね」

 コチサ

 「見た、見た。最近大活躍だよね」

 お友達

 「でもあの頃と全然違うよね。180度変わったよね。本当はあんなにカッコいいのに、わざと3枚目やってさ」

 コチサ

 「そうだね…」

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 写真・・・時計3 夢を叶える為に、シュント先生は何かを変えたのかもしれないと思いました。

 もしかしたらシュント先生は最初からこの道を決めていたのかもしれないけど、コチサたち生徒は、シュント先生は2枚目の新劇の舞台俳優になるんだと思い込んでいたからです。

 本当のところはわかりません。

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 写真・・・ガラスのビン 「呼び方は、いろいろあってもいいじゃない」

 ふとコチサはシュント先生の言葉を思い出しました。

 そしてこのシュント先生の再びの登場が、その後のコチサを変えました。

 それまでコチサは「声優」ではないと頑なに言い張っていました。

 コチサは「言葉を紡ぐMC」で、役者である「声優」さんたちとは、勉強の仕方も訴えたいことも違うんだと…

 それはどっちがすごくて、どっちがすごくないという事ではなく、ただ違うものだと…

 夢を実現するためには、若干の軌道修正が必要だ、そしてそれは夢を諦めることではなく、夢への梯子をたくさんかける事だと考えるようになりました。

 選択肢を多く残し、後は神に委ねる…

 そして「リスニングマガジン」が生まれ、「ハートクラブ」のお仕事をもらえるようになりました。

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 シュント先生がテレビで活躍するのを見るたび、

 「シュント先生、コチサも頑張ってるからね」

 そういい続けました。

 自分の進む道を決め、方向を決めたら、それに進むための選択肢をたくさん用意して突き進む。

 でも結果は自分で決めない。

 自分の一番輝く結果は、自然に周りが決めてくれるのだから…

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 卒業してからも、コチサはブラウン管を通してシュント先生から教わり続けました。

 シュント先生のご結婚の記事がワイドショーを賑わしたのは、ほんの7ヶ月前のことだったのに…

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 写真・・・花

 告別式はコチサの事務所のそばのお寺で行われます。

 そこはコチサのいつものジョギングのルートでもあります。

 当日は、たくさんの人たちとテレビカメラがシュント先生を称えて集まってくる事でしょう。

 コチサたち卒業生はご焼香に伺う事は控えることにしました。

 出棺の時、コチサは走っているはずです。

 高らかな天にこだまする長ーいクラクションの音が聞こえても、立ち止まらないで走り続けようと思っています。

 シュント先生のご冥福をお祈り致します。


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