前号206号の、蜂に刺された話を読んだ中学の同級生から電話がありました。 千恵ちゃん 「あのさぁ、学生時代の失敗談を持ち出すんなら、蜂の話どころじゃなくてもっといっぱいあるんじゃない?」 コチサ 「そ、そかな?あ、あんまり無いと思うんだけど・・・」 千恵ちゃん 「そんなことないよ、教えてあげようか?100個以上あるよ」 コチサ 「い、いいよ。で、でも千恵ちゃんの中じゃ何が一番インパクトがあったのかだけでも教えてもらおうかな」 千恵ちゃん 「そうだね、面白いことは他にもあったけど、インパクトがあったといえばやっぱり学校を燃やすのかって言われた消火器事件じゃない」 コチサ 「はー、そんな事もあったけかね」 千恵ちゃん 「あったっけじゃないよ、今でも○中じゃ語り草だよ」 コチサ 「・・・」 あれは確かコチサが中学3年の時だったと思います。 消防署の方が来校され、全学年が校庭に集められての消化訓練がありました。 消防といえば、お父さんをはじめとするハッピを着た自衛消防団しか知らないコチサ達にとっては、本物の消防署の方はテレビや映画に登場するスターのようでした。 だから最初はランランと目を輝かせてお話を聞いていたのですが、いくらスターでも単調な消火訓練の話はだんだん飽きてきます。 いつの間にか、コチサは周りのお友達と、昨日のテレビの話題で盛り上がっていました。 やっぱり消防団より、「シブガキ隊」の話の方が楽しかったようです。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 消防隊の人 「じゃぁ今のお話をよーく頭に入れていただいてから、実際に消火作業をしてもらいましょう。じゃぁ先生、誰か代表を・・・」 先生 「はい、じゃぁ学年一の大声の益田、お前がやれ」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: その時になってもコチサは先生に呼ばれた事さえ気が付かずに、坂上二郎さんのモノマネなんかして騒いでいたようです。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: お友だち 「なぁコチサ、何か呼ばれてるみたいやで」 コチサ 「飛びます、飛び・・・えっ?」 先生 「益田、早よ出て来い・・・はいみんな拍手ぅー」 コチサ 「でへ、まぁまぁ」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: なんだかよくわからずに拍手に誘われて、コチサは全校生徒が組んだ円陣の中央に頭をカキカキ進み出ました。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「ど、どうも、コチサです。やぁやぁ・・・」 消防隊の人 「じゃぁ、さっき言ったように、正しい消火器を選んで消火して下さいね。ではいきますよ」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: そういうと消防士の方は、出来そこないの犬小屋のようなものに油をかけ火をつけました。 ボッっと音をたて勢いよく炎が燃え上がり、生徒たちの「ウォー」という声があがりました。 コチサはその光景をわりと間近で、ぼーっと見ていたのですが、炎の熱が頬を熱く染めているようで、 「おーなんかドラマの主人公みたい」 などと思っていました。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 先生 「おい益田、何やってるんだ、早く火を消せ」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: そう言われて周りを見ると、消火器が3台ばかり置いてありました。 そっかそっかこれで消せばいいんだ。 消火器の使い方ぐらい知っているぞ・・・ コチサは無造作にそのうちの一台をつかみ、燃えている炎に向けてグリップを握りしめました。 その瞬間、コチサは同時に飛び込んで来た、消防隊の人と先生に突き飛ばされました。 コチサの手元を離れた消火器は、路上に叩きつけられた象の鼻のようにばたばた動きながら、だらだら液体を垂れ流してのた打ち回っていました。 何が起きたのか・・・ それさえわからずコチサは、消火器ともども撤収されていきました。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 運ばれた保健室で・・・ 先生 「お前、本当に話を聞いてへんかったんやな」 コチサ 「まぁちょっと、二郎さんのものまねで盛り上がっちゃいまして」 先生 「火災にもいくつかの種類があるって話をしてたんや。油の火災、薬品の火災、そしてモノが酸素によって燃える火災ってな・・・それぞれに適した消火器があって、それを間違えるとかえって大変な事になるって・・・先に消防隊の人が小さなガラス箱の中で例を見せたやろ」 コチサ 「じゃぁコチサは、何か大きな間違いをしたわけですね」 先生 「あんな大きな火の中で冗談でも間違った消火器を吹き付けてみぃ、どうなるかわかったもんじゃないわい」 コチサ 「まぁ大事には至らず、ほっとしました」 先生 「それはこっちの台詞じゃ」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: そして話は尾ひれがついてあっという間に広まり、翌朝コチサは「学校を全焼させそこなった生徒」として登校する事になりました。 千恵ちゃん 「でもあの時の担任の動き早かったよね」 コチサ 「コチサはぶち当たられる身だったからよく覚えていないよ」 千恵ちゃん 「まぁでも学校が燃えなくて良かったよ」 コチサ 「校庭の真ん中で安全を考えてやってるんだから、例えコチサが間違えたところで学校が燃えることは無かったんだよ、まったく大げさな先生だよ。コチサに恥をかかせて・・・」 千恵ちゃん 「まぁそうだけど・・・でもあたしも学校は燃えなかったと思うけど、コチサは黒焦げになっていたと思うよ」 コチサ 「えっ?」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: そうか・・・ 今の今まで気が付かなかった・・・ 翌日からみんなの話題は「学校が燃えたか」で盛り上がっていて、コチサも「燃えるわけないじゃん」と、そっちの方ばかりに気持ちがいっていたけど・・・ あの時、あの炎から一番近くにいたのはコチサだったんだ。 頬に炎の熱が感じられるくらいだったのだから・・・ 先生が飛び込んで来たのは、本当に危機一髪の状況があったんだ・・・ それもコチサが燃えちゃうという・・・ ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「千恵ちゃん、今はじめて気が付いたよ。コチサ、怖くなってきたよ」 千恵ちゃん 「本当に、そんなこと今まで気が付かなかったの、信じられない」 コチサ 「だってみんなが、コチサの事、「学校燃やし女」とか言うから、それを否定することでいっぱいだったんだよ」 千恵ちゃん 「今からでも遅くないから、担任に感謝しなくちゃね」 大西先生、今こうしてコチサが元気にいられるのも先生の決死のタックルのおかげです。 丸い体で突進してきてコチサを救って下さった事に、心から感謝させていただきます。 益田コチサ、中学卒業16年目の春、白日の下に晒された真実が今ここに! |
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