No.199「春に背いて逝く君」  2002.2.13

 写真・・・花

 リスニングマガジン第79号の発送に向けての試聴日の朝、音響担当の砂太郎から電話が入りました。

 編集遅れのごめんなさい電話かぁ〜

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 砂太郎

 「申し訳ないんですけど、今日の試聴ずらしていただけませんか?」

 コチサ

 「どしたの?」

 砂太郎

 「実は・・・」

       ライン

 砂太郎は6人兄弟の末っ子です。

 上には5人のお姉さんお兄さんがいます。

 そのうちの一人のお姉さんが去年結婚し子供が産まれました。

 写真・・・マグカップ 女の赤ちゃんでした。

 他のどの赤ちゃんと同じように大きな喜びと期待に包まれて産まれて来た赤ちゃんは、他の多くの赤ちゃんと違って大きな病気を抱えて産まれて来たそうです。

 「半年は持たない」

 お医者さんにはそう宣告されました。

 その赤ちゃんが、夕べ亡くなったそうです。

 たった8ヶ月の命でした。

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 コチサ

 「そっか・・・取り合えず発送の方は、お通夜お葬式が終わってから考えよう。大丈夫だよ、ちゃんと発送日には発送させるよ」

 砂太郎

 「すいません・・・」

       ライン

 そういえば砂太郎が似合わないアゴ髭を伸ばし始めたのっていつだったろう・・・

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 コチサ

 「ねぇやめない、その髭、似合わないよ」

 砂太郎

 「はぁ・・・一応来年の6月には剃るつもりなんですが・・・」

 コチサ

 「6月!今まだ11月だよ。あと半年も伸ばすの!」

 砂太郎

 「すいません・・・」

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 写真・・・帽子 6月はちょうど赤ちゃんが満1才を迎える月に当たります。

 ゲンかつぎだったのかも知れません。

 クリスチャンのくせにゲンをかつぐなんて・・・

 そんなせっぱ詰まったなりふり構わぬ思いも役に立たなかったんだ・・・

 赤ちゃんは産まれてから8ヶ月間、一度も保育器から出ることは無かったそうです。  

 家族はその間、赤ちゃんに触れることも出来ませんでした。

 「手当て」という言葉があります。

 お腹が痛い時、お母さんが手で触ってくれると不思議と痛みは消えていきました。

 コチサの妹の子供も、何かあるとすぐ体にまとわりついてきます。

 小さい子供や赤ちゃんの心と体の発育に「スキンシップ」がいかに大切か、おばあちゃん子だったコチサは良くわかります。

 でも砂太郎の姪の赤ちゃんは、一度も家族に触れられること無く、辛い苦しい人生をたった一人で戦っていたのでしょう。

 言葉を理解することも話すことも無く、その目でこの世界を見ることもなくこの世に生を受けた8ヶ月間を思いました。

 写真・・・鍵盤 「意味の無い人生なんて無い」と言われます。

 この世に生まれたのは生まれただけの理由があるんだ、と。

 砂太郎の姪の赤ちゃんにも神様が何かの役割を持ってこの世に生まれさせたのだでしょう。

 でも、その意味が人間にはわからない。

 だから家族もまわりも悲しむしかない。

       ライン

 天国でこの赤ちゃんの笑顔と笑い声が響き渡りますように・・・

 そして家族がこの悲しみから早く立ち直れますように・・・

 命名「○○」

 享年0才(8ヶ月)

 写真・・・花びら 合掌


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