初めてスーさんに会ったのは、もう6年くらい前の事です。 スーさんの勤めていたオフィス○○リーという会社から、コチサたちMCが一週間ほどの仕事をもらった時でした。 当時オフィス○○リーは、やり手で有名の○賀社長と、その片腕と言われるディレクター○岡さんが勢いで引っ張っていくという「行け行け」の会社で名を馳せていました。 スーさんも肩書きはディレクターでしたが、どうも扱いが○岡さんとは違うようでした。 当時スーさんは20代の後半でした。 でも最初見た時は、見事に禿げあがった頭と恰幅の良さで40代に見えました。 スーさんは「仕事が出来ない人」で有名でした。 コチサは仕事が出来ないというのはどういうことかわからなかったのですが、スーさんを見てそれがどういうことかわかりました。 そして、仕事が出来るという事と会社に仕事を呼び込む事は、全く別なことだという事も知りました。 イベントの合間、コチサたちMCとスーさんやAD君たちが雑談をしています。 くだらない話だけど盛り上がっています。 そのうち、毎度のことですが、そこにいない誰かがサカナになった噂話に移っていきます。話はますます盛り上がっていきます。 ふと気が付くとスーさんがいません。 スーさんは机3つ離れたところで、チラシ整理をしています。 それはいかにもずーっと前からその作業をしていたような自然さです。 いつスーさんがコチサたちの輪からはずれていったのか、全く気がつきませんでした。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「そっかぁ、だからスーさんって言うのか・・・」 イベント期間中にこんな事件がおきました。 今回の仕事は、スーさんの所属するオフィス○○リーと、もう一つ△△企画の共同運営でした。 オフィス○○リーの○賀社長と△△企画の原○社長は、5年前の仕事での衝突から口も利かない関係が続いていたそうです。 その原○社長が、打合せの為、オフィス○○リーにやってきました。 ○賀社長や○岡大番頭は、朝から理由をつけてさっさと事務所を後にしていました。 結局、コチサたちMCとスーさんとその原○社長だけでの打合せになりました。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 原○社長 「ごめんください」 スーさん 「あぁ、原○社長、ご無沙汰しています」 原○社長 「あぁ、鈴木(スーさんの苗字)、毎年年賀状ありがとうな」 スーさん 「あぁ届いてましたか。僕が年賀状係りなので、勝手に送らせていただいたんです」 原○社長 「そうだと思ってたよ。返事出せなくてごめんな」 スーさん 「いえ、勝手にやってるだけですから」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: そして、打合せが進みました。 スーさんは仕事が出来ないので、原○社長が音頭をとって打合せは順調に終わりました。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: そして一週間にわたったイベントも無事終了しました。 ○賀社長と○岡大番頭はその間、一度も会場に顔を出すことはありませんでした。 スーさんが毎日来たのですが、スーさんは仕事が出来ないので、結局は原○社長が最後まで運営を取り仕切りました。 そして打ち上げです。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: スーさん 「じゃぁ、イベントの無事終了を祝って、乾杯!」 コチサたちMC 「乾杯!」 スーさん 「原○社長、どうもお世話になりました。○賀も○岡も忙しくて来られませんが、くれぐれも原○社長によろしくと申しておりました」 原○社長 「言ってないだろ、そんな事」 スーさん 「は?」 原○社長 「いいんだよ。あいつらが来るわけないのは知ってるから。でも今までは良いよ、あのやり方でうまくいったよ。でもこれからは難しいぞ」 スーさん 「はぁ・・・」 原○社長 「うちだって今回は頼まれたけど、お前がいなかったらまず断ってたからな。毎年来る年賀状からはお前の顔が見えたんだよ」 スーさん 「はぁ・・・」 原○社長 「しかし鈴木、お前はあいかわらず、全く仕事出来ないなぁ」 スーさん 「はぁ・・・」 数年後、スーさんがオフィス○○リーをクビになったという話を聞きました。 ほどなく今度はオフィス○○リーが倒産したという話も聞きました。 そしてつい先日、仕事先で偶然このオフィス○○リーの元社長○賀さんとばったり会ってしまいました。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ○賀元社長 「元気?」 コチサ 「えぇ元気です。○賀さんは?」 ○賀元社長 「このざまだよ」 コチサ 「会社、おなくなりになったんですってね」 ○賀元社長 「あぁ、不景気に勝てなくてね。社員を辞めさせて、○岡と二人、仕事の出来る人間だけで何とか乗り切ろうと思ったんだけど、ちょっと遅きに失したみたいでね」 コチサ 「はぁ、それはそれは・・・」 ○賀元社長 「思えば、鈴木とかああいう仕事の出来ない社員を抱えても会社がやってけた時代が花だったよな。あの時俺がもっと厳しくさっさと奴らを切っていたら、俺もまだまだだったのかもしれないな。仏心が仇になったよ。まぁ見てなって、もうひと花咲かせるわ」 コチサ 「・・・・・」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 多分、花は咲かないと思いました。 どんなに皆と楽しく騒いでいても、話が誰かの噂話になると、すーと誰にも気づかれずにその場所から消えていったスーさん。 ワンマンな社長が次々喧嘩して壊していく人間関係を、細々と年賀状だけでも繋ぎとめようとしていたスーさん。 毎朝誰よりも早くイベント会場に入ってブースの掃除をしていたスーさん。 たくさんのスーさんが浮かんできました。 仕事が出来るって何なんだろう? ○賀元社長は、仕事の出来ないスーさんをクビにして、仕事の出来る○岡さんと会社の建て直しをはかったけど、もし原○社長だったら○岡さんを放出してもスーさんには残ってもらったような気がします。 仕事が出来る人と、会社に仕事を呼び込む人は違うんだとわかりました。 ○賀元社長の別れ際の言葉です。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: ○賀元社長 「原○も調子に乗って鈴木なんか引き取りやがって、今に痛い目に合うぞ」 ○賀元社長、今自分がこんなに痛い目に合ってるのに、将来どうなるかわからない原○社長の事をそんなに心配するなんて、きっと仲直りしたんだね。 |
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