行ってきました中華七〇番。 この話は「コチサ通信」の後日談になっていますが、コチサ通信を読まれていない皆様に簡単なあらすじを・・・ これまでの経緯・・・ コチサの自宅のマンションの向かいのお店「中華七〇番」。 元気なおじちゃんとおばちゃんと従業員のお兄ちゃんの3人で切り盛りしています。 おばちゃんは、毎朝コチサのマンションの前まで箒をかけてくれて、 おじちゃんは、怪しい者が侵入しないように日夜マンションに目を向けてくれています。 引越しして2年、コチサは毎朝の「おはよう」と帰宅後の「ただいま」で、すっかり仲良くさせていただくようになりました。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: でも・・・ 35年もこの場所でお店を続けているおじちゃんのお店は改装工事に次ぐ改装工事でもうくたくた・・・ 今回も改装の時期が来たのですが、おじちゃんは62歳、もうお金を返していく元気がないと言います。 そこで、5年もおじちゃんの下で働いているお兄ちゃんに、「改装費は出すから、この店を今後切り盛りしてくれるかね」と相談しました。 お兄ちゃんは、その話をした翌日消えてしまいました。 アパートももぬけの殻。 「きっとプレッシャーだったんだね」 おじちゃんはそう言って笑いました。 3日後、中華七〇番に張り紙が・・・ 「〇〇の住民の皆様には35年の長きに渡り、お世話になりました。 当店は12月21日を持って閉店することになりました。 ・・・(中略)・・・ 今後は暫く時間を置いて余生について考えてみようと思います。 ありがとうございました」 達筆です。 流れるように文字が滑っています。 窓ガラスに西日が当たり、その文字を透かして、ビールを持った水着姿の女性が笑っています。 来年貼ろうと思った、ビール会社が提供してくれるポスターの裏に閉店のお知らせが書かれていました。 そして・・・今日・・・ これまで、コチサは挨拶を交わしてはいましたが、中華七〇番に入った事はありませんでした。 コチサは一人でお店に入って食事をすることは、したことが無いのです。 気が小さいんだね。 実は、昨日もお昼店の前を、何度かわざとらしく通り過ぎたりしたのですが、お客さんが出たり入ったりしていて、つい入りそびれちゃったのです。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: コチサ 「こんにちは」 おばちゃん 「あら、いらっしゃい」 コチサ 「じゃぁ広東麺を・・・」 おじちゃん 「なんか緊張してるね」 コチサ 「一人でお店に入るの初めてなもんで・・・」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: そこには、これまで見たことの無いおじちゃんの姿がありました。 厳しい顔で鍋を振るおじちゃんがいます。 おばちゃんに檄を飛ばすおじちゃんがいます。 働くおじちゃんの横顔が見えました。 35年間、こうして来る日も来る日もお鍋を振っていたんだろうなぁ。 もうお鍋はおじちゃんの手の一部なのかもしれない。 だとしたら、仕事を辞める事は、手の一部を切断する位の苦しみや悲しみ、痛みがあるんだろうな・・・ ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: おじちゃん 「お待ち!」 コチサ 「(ズルズル)ぐすん」 おばちゃん 「ん?どうかした?コショウ鼻に入った?」 コチサ 「い、いえ・・・美味しいです」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 35年のおじちゃんのもう一つの手が作る作品は、やはり35年の歳月が詰まった格別の味がしました。 美味しいの一言では片付けられない味なのですが、出てきた言葉はありきたりの美味しいの言葉でした。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: おばちゃん 「いいんだよ。おじちゃんはその言葉が一番嬉しいんだから・・・」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 混雑を予想して12時前に店に入ったのですが、気がつくと店内は満員でした。 「ごちそう様でした」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 店を出たコチサが見たものは、行列を作っているスーツ姿の人たちでした。 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: 「明日で終わっちゃうんだってよ」 「不況なのかな」 「もうちょっと頻繁に食べに来ればよかったな」 「ここ美味いもんな」 ::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::: おじちゃんが店を閉めるのは別に不況のせいだけじゃなくて、いろいろな理由が絡み合っての事だけど、閉店を聞いて、昼休みの短い時間にまで、行列を作ってまで食べにきてくれる人達がいる。 この人たちみんなの 「美味しかったよ」 の声を聞けば、おじちゃんやおばちゃんはどんなに嬉しいだろう。 頻繁の人の出入りで、四隅をセロテープで貼り付けたご挨拶のポスターの一部がはがれました。 「今後は暫く時間を置いて余生について考えてみようと思います。 ありがとうございました」 その文字が風にゆれて「パタパタ」とはためきます。 新しい人生に飛び立つ羽のように、パタパタ、パタパタ・・・ そしてビールを持った水着の女性の笑顔も、パタパタ、パタパタ・・・ おじちゃん、おばちゃん、長い間ご苦労様でした。 チーン! 毎度ぉー 広東麺700円也ぃー |
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