No.147 2001.9.26
「本当に何でもネタにしちゃうんだね」
「そうかぁ、あの話はこういう形でネタになるんだぁ」
「どうせ、またこれも面白おかしくネタにされちゃうんだよね」
最近よく言われるのですが、このコチサにだって物事を判断する頭はあるようで、やっぱり書けないネタはあります。
特に、今回のようなネタ詰まりの時など、「書きたい、書きたい」とウズウズするのですが、やっぱりまずいでしょ、と自制心が働くようです。
古いアルバムを整理していたら、親族の法事の時の集合写真が出てきました。
襖を開けて部屋を一つにした、田舎の家の縦長の畳座敷に、「コ」の字型にお膳が配置されています。
今でも良くある風景です。
お膳の料理で、いろいろ言われるから、用意する人は大変なんだよね。
ところでその風景は、お膳も終わり、「コ」の字型の空いたスペースに一同が集合し、記念にカメラにおさめた時のようです。
写っている妹にまだ赤ちゃんの面影があるので、コチサは多分幼稚園くらいの年齢だと思われます。
コチサはおばあちゃんに抱っこされて写真に写っているのですが、どうもご機嫌がななめのようで...
抱っこから解放されようと、体を不自然に伸ばし、その右足がお膳のお椀の中にすっぽりうずまっています...
まぁ行儀悪い...
コチサ
「もしもし、お母さん、変な写真を見つけたんだけど、実はね...」
お母さん
「あぁ、それな。覚えとるわ。お前な、その時、お母さんに抱っこされたいってぐずったんや。お母さんは、園子(妹)を抱いとるからダメやって...それで、おばあちゃんに抱っこされてな」
コチサ
「コチサの足が、お椀の中に埋没してるんですが...」
お母さん
「むずがって、おばあちゃんの体から逃げようとして、お椀に足を突っ込んだや」
コチサ
「何故、取り直しをしないで、こんな行儀の悪い写真を?」
お母さん
「写真館のおっちゃんが来てくれたやろ...悪くて撮り直しは言えんかったんや。それに万が一火傷をしとったら心配やしな。とりあえず写真を撮ったら治療しよう思うてたからな」
コチサ
「火傷?コチサはこの時、火傷をしていたのですかい?」
お母さん
「お椀に足入れたんやからなぁ...赤うなっとったなぁ」
コチサ
「そ、そんなぁ...火傷の治療より写真を優先したのでしょうか?」
お母さん
「お前は、自制心が無かったからなぁ...こういう写真を残しておけば、見るたびに思い出して「後悔先にたたず」という生き方をしてくれるやろって...お父さんの親心やないかな」
コチサ
「でもコチサは、その時の事すっかり忘れるから、何にも役にたってないじゃん」
お母さん
「・・・」
コチサ
「しかし嫌だなぁ、こんな写真が残ってしまって。本人は全然覚えてないのに」
お母さん
「サチコ、後悔先にたたずやで、忘れたらあかんよ」
コチサ
「咽もと過ぎれば熱さ忘れる、とも言うよ」
お母さん
「・・・」
コチサの足に今も残る黒い傷跡...
そこには、こんな理由があったなんて...
これからは、この足を見るたびに、父と母が苦渋の決断をして残してくれた「自制心」という言葉をかみしめよう...
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お母さん
「お前な、嘘書いたらあかんで...赤くなっとったいうても、風呂に入って体が赤うなったようなもんやで...お椀のつゆなんてとっくに冷めてたんやからな...火傷にもならなかったんやからな。嘘は書いたらあかんで」
コチサ
「ちぇっ」
コチサの足に今も残る田圃の思い出...
この足にはそんな理由があったなんて...
あぜ道を走り、山道を転び、こんなに健康的に逞しく成長していた...
これからは、この足を見るたびに、父と母が誇りにしている「農家の娘」という言葉をかみしめよう...
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お母さん
「そうや、それでいいんや」
...今回は、ネタ切れってことで...
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