No.131 2001.8.20
野球にそんなに興味は無いのですが、「高校野球」はよく見て応援をしたりします。
吹奏楽部に所属していた高校時代、春と夏の予選に応援団と共に予選球場を回った記憶が蘇ってくるからでしょうか・・・
常勝の強豪チームと違って、コチサの高校は2回戦突破すれば「御の字」というところで、一般の生徒たちが応援に来ることはまずありませんでした。
応援団と吹奏楽部は、部の存在意義として「行かないわけにはいかない」ので、一応野球部の選手に同行することになります。
「まぁ授業も休めるし、いっかぁ。それに行っても2回戦までだし・・・」
そしてそんな事を3年も繰り返せば、選手よりも応援団の方と気心が通じ合うようになります。
コチサ
「やぁ!」
団長
「おう!」
コチサ
「3回の表で3対2だよ。今日は頑張ってるね。この分だと9回まであるね」
団長
「あぁ!」
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甲子園出場常連校の応援団ならば、旗持ちを自ら団長が務めることは無いらしいのですが、コチサの学校の応援団は、何故か団長が旗持ちを務めます。
「旗は団の命」
「部員がいない」
「どうせコールド負けするんだから、そんなに疲れないで目立つことが出来る」
などいくつかの理由があるようです。
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コチサ
「やぁ!」
団長
「お、おぅ」
コチサ
「ラッキーセブンだよ。ブラスはゴーゴーセブンで行くけど、援団も合わせてね」
団長
「お、おぅ・・・」
コチサ
「大丈夫?風も吹いてきたけど?」
団長
「当たり前だろ、大丈夫だ。早くゴーゴーセブンやってくれ!」
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団旗は、応援団の命です。
(多分数十キロあるんじゃない?)
それを試合開始から終了まで、じっと持ちつづける・・・
もしかしたらグラウンドを走る選手より大変なんじゃないか?
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ブラスバンド
「ゴーゴーセブン!、戦え勇者ぁ〜、ゴーゴーセブン、越えろ場外ぃ〜」
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ラッキーセブン7回の攻撃に向けて、コチサたち吹奏楽部は盛り上がります。
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応援団
「ゴー!ゴー!セブン!、戦え○高!」
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吹奏楽のリズムに合わせるかのように、応援団の応援もゴーゴーセブンで盛り上がります。
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団長
「ウォーウォー・・・セ・ブ・ン・・・」
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吹奏楽と応援団の盛り上がりにあわせて、団長は団旗を持ち上げ・・・ようとします・・・
忘れもしません、高校3年の最後の夏。
ゴーゴーセブンが2回戦まで出来たのも久しぶりなら(ほとんどコールド負けだからね)、ゴーゴーセブンがこんなに長引いたのも初めてのことでした。
(打線が爆発したんだい)
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コチサ
「やぁ!」
団長
「お、お、おぅ」
コチサ
「勝っちゃったね」
団長
「お、お、おぅ」
コチサ
「よく頑張ったね、腕パンパンでしょ」
団長
「お、お、おぅ」
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団長の体は汗びっしょり、帰りは自分の鞄も持てないくらい握力を失っていました。
コチサの高校の応援団も、野球部同様、「ソコソコ」の応援団だったから、9回まで団旗を掲げる練習なんてしたことがなかったのです。
吹奏楽数名、応援団数名だけがいるコチサたち3塁側スタンドに向けて、選手達が一礼をします。
勝ってしまったことに選手達も驚き顔です。
初の3回戦は大騒ぎでした。
公休を取った生徒たちがぞくぞく応援に駆けつけてきます。
先生たちもやってきました。
いつもは、吹奏楽と応援団しかいない席が、その日は、吹奏楽と応援団の席を確保するのが難しいくらいの満席になりました。
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コチサ
「やぁ!」
団長
「おうっ!」
コチサ
「今日は団旗は副団長が持つんだね」
団長
「おうっ!」
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選手達にも3回戦は晴れ舞台なら、応援団にとっても吹奏楽にとっても晴れ舞台です。
団長は3塁側スタンドの最前列にグラウンドを背にして立ち、灼熱の太陽の光を黒い学生服で全て吸収してやるって意気込みで両手両足を大きく広げて叫んでいます。
団長
「戦え○高!、叩け白球、砕け青空」
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コチサもいつにも増して、気合いが入ってフルートを吹きます。
応援団も吹奏楽も汗びっしょりです。
試合の流れとは全く別の時間が、応援団と吹奏楽に流れていました。
何故かみんな涙を流していました。
3年間試合のたびに駆けつけた応援団と吹奏楽部。
誰に聞かれることもなく、歌い続けた応援歌と吹き続けた応援曲。
最後の最後でこんなにたくさんの人の前で、演奏し歌うことになるなんて・・・
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でもうまく言えないけど、その夏はなんかもうひとつ別のこみ上げてくるものがあって、それが吹奏楽と応援団の間に伝染して・・・
気が付くと、2回戦の時と同じように、3塁側スタンド前に選手たちが整列してました。
2回戦の時のような驚き顔では無くて、いつもの見慣れた少しだけ悔しそうで少しだけ照れくさそうな顔でした。
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コチサ
「お疲れさま」
団長
「お、おぅ」
コチサ
「5回コールド、最後はいつものパターンだったね」
団長
「あぁ」
コチサ
「ゴーゴーセブン、出来なかったね」
団長
「あぁ・・・でも今年は2回も出来たから」
コチサ
「今日の応援、熱入ってたね」
団長
「ブラスもな」
あれから、たくさんの夏が過ぎました。
甲子園球場が賑わう少し前、今年もどこかの小さなグラウンドで、小さな応援団と小さな吹奏楽部の夏が始まり、ひっそり終わる小さなドラマがあったかも知れません。
その後、東京に出たコチサは、同級生からの残暑見舞いで、地元に残ったあの団長が○○建設という小さな会社を興し、ユンボに乗って相変わらず真っ黒になって頑張っている事を知りました。
コチサ
「ゴーゴーセブン!、戦え勇者ぁ〜、ゴーゴーセブン、越えろ場外ぃ〜」
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