No.111 2001.7.4
猛暑の中、○○公園でパントマイムの練習に励むコチサ。
師匠
「さぁ、今日はおしまい、帰ろう帰ろう」
コチサ
「そ、そんな、まだ来たばかりですよ」
師匠
「だって暑いじゃん。暑くない?」
コチサ
「そりゃ暑いですよ。猛暑と言っても過言ではないくらいに・・・」
いつもは、レジャーシートを敷いて寛ぐ人たちで埋まるこの公園も、さすがに今日は閑散としています。
コチサ
「でも、こうして暑さの中でも練習したという事実が、技術よりも精神力を鍛えるんです」
師匠
「技術鍛えないで精神力を鍛えてどうすんの?」
コチサ
「かつての高校球児たちは、炎天下の猛練習に一滴の水さえ飲まずに心と体を鍛えたのです」
師匠
「じゃぁやってれば、おいらは水飲んでくる」
コチサ
「あっ、師匠、コチサも・・・」
師匠のおごりで、冷たいミネラルウォーターをいただきます。
コチサ
「あー美味しい!本当はコチサも暑い中で練習する必要は無いと思っていたんです」
師匠
「同じ2時間練習するのなら、涼しくなってからすればいいんだよ」
コチサ
「そうですよ。暑い時は何も外に出ないで寝てればいいんです」
師匠
「いや、何もそこまでは言ってないぞ」
コチサ
「いいんです、言っちゃって。師匠、精神論みたいの嫌いなんでしょ。だから若いときはなかなか馴染めず、さっさとフランスに行っちゃったんですよね」
師匠
「いや、そんな事はない、厳しい練習もしたし、精神修養も積んだぞ」
コチサ
「あー美味しかった、ごちそう様でした。じゃぁコチサはさっさと帰りますね」
師匠
「おい、全く稽古はしないのか?」
コチサ
「師匠がさっき言ったんですよ、涼しくなってからすれば良いって」
師匠
「まぁ、そうだが、とりあえず冷たいミネラルウォーターを飲んだから涼しくなったと思ってな」
コチサ
「えぇ、でもせっかく涼しくなった体をまた炎天下に戻したら、また暑くなりますよ。そしたら師匠はまた自腹切って、コチサにミネラルウォーターを飲ませなくちゃなりませんよ。コチサはこんなこともあろうかと予想して、はじめからお金なんか持ってきちゃいないんですから」
師匠
「それもそうだな。また暑くなるとばかばかしいしな、帰ろうか」
師匠の自転車とコチサの自転車が、公園の遊歩道にそって出口に向かいます。
この師匠にしてこの弟子アリ・・・
難しい話を装いながら、結局は、楽な道、楽な道を選択して生きていきます。
師匠
「♪ケ・セラ・セラ〜人生なんてなるようになるのさ」
コチサ
「♪Whatever will be, will be〜」
大きな声で調子はずれの歌をうたって進んでいると、乾いた空にこだまする金属音が・・・
敷地内の有料のグランドで、白球を追う人たちの姿がありました。
汗で白いユニフォームが土色に染まり、それでも黙々と球に飛びついています。
グラウンドを横切る時、コチサと師匠の歌声は少しだけ小さくなりましたが、またそこを離れると、大きな調子はずれの歌声が戻ってきました。
ある日ある時、異なる二本の直線がたまたま交差したけど、それは一時のことで、お互いの直線はそのまままっすぐ、別々の方向に伸びて行きました。
チリンチリン・・・
コチサの自転車の呼び鈴も、やっぱり乾いた空にこだましました。
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