コチサニュース No.100 2001.6.8

 「ボイスプレゼンテーション」再々リニューアル後からのコチサニュースが100号を迎えました。

 という訳で100号記念のコチサニュースは・・・?

 時は元禄・・・

 じゃなくて、昭和の後半、小学生のコチサの想い出・・・



 コチサ

 「ただいまぁ〜」

 お母さん

 「お帰り。手洗ったらおやつ食べ、仏壇にチンってお鈴ならしていただくんやで」

 コチサ

 「うん」



 大福を頬張り、再び台所のお母さんに歩み寄るコチサ・・・



 コチサ

 「あのなぁ、今日からな、お母さんって呼ぶわ」

 お母さん

 「ん?・・・そやなぁ、お前も小学生になったんやしな。それがええな」

 コチサ

 「うん」



 生まれ育ったこの村で、「お父さん」「お母さん」などと呼ぶ子供は一人もいなくて、みんな「父ちゃん」「母ちゃん」が当たり前のことでした。

 小学校に通うようになって、違う村の子供たちが集うようになり、コチサもだんだん視野が広がっていったようです。  この村の外にも世界がある・・・

 きっとそんなことを体で実感したのだと思います。



 コチサ

 「だからな・・・今日から母ちゃんじゃなくて、お母さんやで」

 お母さん

 「なんかこそばいゆいな。じゃぁ田んぼのお父さんところ行って大きな声で「お父さん」って言っておいで」

 コチサ

 「うん!」



 勢い込んで、田んぼに来たけれど、なかなか最初の一声が出ません。

 そのうちお父さんが、コチサに気づきました。



 お父さん

 「どうしたん?学校終わったんか?」

 コチサ

 「うん・・・あのなぁ」

 お父さん

 「なんや?」

 コチサ

 「あのなぁ・・・」

 お父さん

 「なんや?言うてみ」

 コチサ

 「あのなぁ・・・」



 結局、日が翳って手を引かれて家路につくまでコチサは「お父さん」の一言が言い出せませんでした。

 そのうち歩くのに疲れたコチサをお父さんが背中に担ぎ上げてくれます。

 コチサを背負いあぜ道を歩くお父さん。



 お父さん

 「なんかあるんなら、父ちゃんに言うてみ」

 コチサ

 「あのなぁ、もう父ちゃんやないんや」

 お父さん

 「ん?どういうこっちゃ?」

 コチサ

 「今日からな、父ちゃんは父ちゃんでなく、お父さんになるんや。母ちゃんも一緒で、今日からお母さんになったんや」

 お父さん

 「・・・お父さんかぁ・・・サチコ、なんか町の子みたいやな」

 コチサ

 「ううん、コチサはこの村の子やけど、お父さんって言うんや」

 お父さん

 「そやな。まぁ言われる方も、なんかちょっと照れくさいけどな」



 お父さんの背中は温かく、コチサはそれまでの緊張感から解放されたのか、うとうととしてしまったようです。

 あぜ道はどこまでも細く長くまっすぐで、コチサの家まで続きます。

 一歩一歩踏みしめて歩くお父さんの足から伝わる振動は、柔らかく穏やかです。

 それは、大切なお米を作る田んぼと同じ土の上を歩いている振動です。

 こんな田舎でも、田んぼを一歩出るとコンクリートの国道が走ります。

 その振動は少しだけ硬く、ちょっぴり痛いかもしれません。

 こうして、あぜ道だけを通り家に着く幸せを体いっぱいに受けながらコチサの一日が過ぎていきます。



 翌朝・・・

 コチサ

 「お母さん、お父さん、おはよう!」

 お母さん

 「はい、おはようさん」

 お父さん

 「おはよう」

 コチサ

 「おばーちゃん、おはよう」

 おばあちゃん

 「おはようさん。今日からお父さん、お母さんって呼び名が変ったそうやな」

 コチサ

 「うん」

 おばあちゃん

 「このばーちゃんは、変わらへんのか?」

 コチサ

 「おばあちゃんはおばあちゃん、最初からずーとおばあちゃんだよ」

 おばあちゃん

 「そらちょっと寂しいなぁ」



 そんな時代から数十年・・・

 コチサには、妹と弟がいますが、この二人も同じ道を歩んできました。

 ところが・・・

 先日気がついたのですが、今、妹と弟は、

 「父さん、母さん」と呼んでいます。

 コチサは相変わらず、「お父さん、お母さん」です。

 妹と弟は、父ちゃんからお父さん、そして父さんという変化があったようです。

 でも、コチサは、父ちゃんからお父さんで止まったままです。



 早速電話でお母さんに確認をしてみました。

 お母さん

 「そやな、あの子たちはいつからか、母さんって言うようになったな。あんただけやな、お母さんって言いよるのは」

 んー、やっぱりそうか・・・

 でもまっ、いいか。

 一番呼びやすい名前が、「お父さん、お母さん」なんだし・・・



 という訳で、何が100号記念かわからないけど、やっぱり記念の話は田舎の想い出でということでした。

 さぁ次の目標は200号だ!


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