No.94 2001.5.25
前回のおにぎりの話から、思い出したお話を・・・
高校の修学旅行の時のお話・・・
わいわいがやがや山猿一団が新幹線で東京へ初見参・・・
浮かれる気持ちに心も躍り、いそいそと新幹線の席に着きました。
箸が転がってもおかしい年頃とはいえ、なんであんな事がおかしかったのか・・・
新幹線の自動給湯器、冷たい水が出る奴が何故かすごいことで・・・
由里ちゃん
「ねぇねぇ、もう飲んだ?あれ」
コチサ
「ううん、まだ」
由里ちゃん
「もうみんな飲んでるよ、あたしたちも行こう」
コチサ
「うん、行こう、行こう」
そして小さい紙コップを膨らませて、わーわーきゃーきゃー言いながら、冷たい水を汲み上げ、かわるがわるに飲みます。
由里ちゃん
「やっぱり、美味しいなぁ」
コチサ
「うん、東京の水は違うなぁ」
何を言ってるんだい。
まだ新幹線は富士山も超えていない・・・
それに水なら、多分コチサの田舎の方が美味しいだろうに・・・
とにかく、新幹線車内は、香川県○○郡○○町大字○○字○○の少女たちで大賑わい・・・
コチサにとってもこの世の春のような嬉しい時間が過ぎていきました。
これは東京でもきっと良いことがある。
もう目の前には楽しいことしか無いような気がしていました・・・
しかし・・・
新幹線の中ではあいかわらず、席をとっかえひっかえ、カードゲームやボードゲームで賑わっていました。
コチサも一際大騒ぎ、あっちに行ったりこっちに行ったり・・・
「ふー」と一息、席につくと隣には、○○郡のアイドルK君が座っていました。
コチサ
「やぁ、K君!」
K君
「あぁ、コチサ君!」
気がつくと、まわりの女子たちがはやし立てます。
そういえば、K君はクラスでは女子たちの人気ナンバーワン、憧れの的です。
顔も美形で、育ちも良くて・・・
(といっても、コチサの地元での話しだけどね)
でも本人もそこを意識しているところがあって、コチサ的にはあんまり興味があったわけではなかったんだけど、まぁクラス1の人気者と話しているということで、そんなに悪い気分では無かった気がします。
そして、そのままお昼に突入・・・
それぞれがお弁当を広げて、賑やかさ、騒々しさに一層の拍車がかかります。
コチサもその頃は色気より食い気(今でもだろ?)、お母さんの自慢のおにぎりを食べること、食べること・・・
お母さんも良く知ったもので、おにぎり10個握ってくれたもんね。
ふと横を見ると、コチサの食欲に圧倒されたか、唖然としているK君の顔。
コチサ
「ん?K君も食べる?おにぎり。一個あげようか」
K君
「それ、手で握ったの?」
コチサ
「うん、お母さん自慢のおにぎり、美味しいよ」
K君
「ボクは、誰だか知らない人が握ったおにぎりは食べないんだ」
コチサ
「へっ?」
K君
「気持ち悪くてさぁ・・・コンビニのおにぎりなら食べれるんだけど」
誰だか知らない人?
コチサのお母さんだろうが。
気持ち悪くて?
コチサのお母さんのおにぎりがかぁ。
コチサはそのままトイレに入り、東京まで泣き続けました。
こんな美味しい握り方を他に誰が出来るんだ。
それから10数年の時が経ちます・・・
怒りは収まりましたが、思い出す度に悲しみは消えません。
目を瞑ると、修学旅行から帰った日の言葉が思い出されます。
お母さん
「東京楽しかったかい?」
コチサ
「うん」
お母さん
「おにぎり、みんなで分けて食べたかい?」
コチサ
「うん、みんな美味しい美味しいって、やっぱりお母さんのおにぎり世界一だよ」
それは嘘吐きコチサがこれまでついた100万回の嘘の中で、一番辛く悲しい嘘でした。
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