コチサニュース No.88 2001.5.7

 ネタ切れの時は、新聞をスミからスミまで眺めてみます。

 子供の数が20年連続減少しているとか・・・

 小学生のアンケートによると、一番ほっとする時は、圧倒的多数で「寝ている時」だったとか・・・

 こどもの日の特集にしては、なんか予定調和を壊すような内容が並んでいます。

 これって、企画は良かったけど、実際の結果が伴わなかったって感じでしょうか・・・

 イベント企画やさんだったら、事前のシミュレーションミスとか言って、支払いが遅れるところかも知れません。

 まだ幼稚園の頃のこどもの日・・・



 コチサ

 「おとーさん、今日はなんの日ですかぁー?」

 お父さん

 「田植えの日だよ」

 コチサ

 「ち、違うよ、そうじゃなくてぇ・・・こどもの日だよ」

 お父さん

 「子供が、田植えを手伝ってくれる日かぁ?」

 コチサ

 「ち、違うよ、こどもの日だよ。おとながこどもにプレゼントをくれるんだよ」



 こどもの日は、いつも忙しい田植えの時期と重なっていた。

 コチサの村では、順番で近所のうちの田植えの手伝いにいく。

 自分のうちも手伝いに来てもらうから、当然だよね。

 だからゴールデンウィークの一週間は、今日はどこのうちの田植えかというスケージュールでいっぱいだ。

 家族全員で手伝いに行くので、当然子供たちもついていく事になる。

 集まった子供たちは、大人たちの田植えを見ながら、畦道で遊んでいる。



 近所のかよちゃん

 「今日はこどもの日やで、農家のこどもはいややな」

 コチサ

 「かよちゃんもプレゼント、もらえんのか?」

 かよちゃん

 「当たり前やん、田植えで忙しいのに何言うとんて叱られるわ」

 コチサ

 「コチサの家もや」

 かよちゃん

 「いややな、百姓の子は」

 コチサ

 「でも、みんなの為に美味しいお米を作ってるんやで」

 かよちゃん

 「サラリーマンの方がええわ」

 コチサ

 「サラリーマンて何?」

 かよちゃん

 「会社に行って給料もらうんや。背広を着てるんやで」

 コチサ

 「かっこええなぁ」

 かよちゃん

 「そやろ。サラリーマンは田植えをせんでええんや」

 コチサ

 「こどもの日にプレゼントもらえるんや、ええな」



 その夜、コチサは良くわからずに、お父さんにサラリーマンになるようにお願いして怒られた。

 こんこんと、お百姓の仕事の意義と使命をたたき込まれた。

 翌日・・・

 今日は別の家の田植えのお手伝いだ。

 やっぱり、畦道で遊ぶコチサとかよちゃん。



 コチサ

 「サラリーマンより、お百姓の方が偉いんやて」

 かよちゃん

 「なんで?」

 コチサ

 「わからんが、お米つくってるんは、人の命のタネを作ることなんや」

 かよちゃん

 「ふーん」

 コチサ

 「お百姓さんが働かないと、サラリーマンの人はお米が食べられんやろ。お腹が減ったら働けんやろ」

 かよちゃん

 「そやなぁ・・・」

 コチサ

 「だからこどもの日にプレゼント買いに行けんでも、我慢せないかんのやて」

 かよちゃん

 「辛いなぁ、百姓は・・・」

 コチサ

 「辛いけど、胸がはれる仕事なんやって」

 かよちゃん

 「じゃぁこどもの日は、一生プレゼント買ってもらえんのかなぁ」

 コチサ

 「・・・」



 でも、田植えの季節が終わり、一段落をした頃、お父さんはコチサを近所のスーパー兼おもちゃや「マルナカ」へ連れていってくれます。



 お父さん

 「ほれ、サチコ。欲しいもんあるか?買ってええぞ。田植えの手伝いよーしよったからな、ご褒美じゃ」

 コチサ

 「うん!お父さん、ありがとう」

 お父さん

 「・・・サチコ・・・いーかげんにせぇよ、まだ決まらんのか」

 コチサ

 「う、うん、もうちょっと・・・」



 コチサはさっきから、あっちの売場とこっちの売場を、全速力で何回も行ったり来たり・・・

 息が上がっているけど、本人はそれさえも気づいていない・・・

 赤いワンピースの服と、ピンクの靴売場を行ったり来たり・・・

 どっちにしようか?

 どっちも欲しいし・・・

 一時間後、両手に二つの包みを抱えて満面に笑みを浮かべたコチサが、店を出て駐車場に歩いています。

 悩みに悩むコチサを見て、お父さんが根負けをして両方買ってくれたのです。

 軽トラに乗り込もうとすると、同じく両手に二つの包みを抱えたかよちゃんに出会いました。



 コチサ

 「かよちゃん!」

 かよちゃん

 「さっちゃん!」

 お互いの視線が、お互いの両手に注がれます。

 かよちゃん

 「ふふふ」

 コチサ

 「えへへ」



 2台の軽トラのドアが閉まり、駐車場の前の通りを、右と左に分かれて走り去りました。

 その後、コチサんちには妹と弟が生まれ、かよちゃんちにも3人の男の子が生まれました。

 毎年の田植えの時期の畦道は、どんどん子供が増えて行きました。



 一番ほっとする時が「寝ている時」だって?

 コチサもかよちゃんも、そんなこと考えた事もなかった、あの頃がありました。


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