No.65 2001.3.14
ハートクラブ(※毎週月曜日FM徳島...一応宣伝(-_-;))で使用する録音素材に「自転車が土埃りを立てて止まる音」が必要になり、コチサが自転車と運転手としての自らの体を提供することになりました。
夜の8時・・・「バーベキューお断り」の立て札のある砂地の公園に、機材を持った数人の男女が集まりました。
演出担当
「じゃぁ、そっちから勢いつけてここで急ブレーキかけて、ちょっと自転車斜めにする感じで、タイヤを軋ませてこっちで止まってね」
コチサ
「了解!」
トロトロ、トロトロ、キーッ、ストン・・・
演出担当
「な、なんか迫力無いなぁ・・・もう一回」
トロトロ、トロトロ、キーッ、ストン・・・
演出担当
「コチサさん、もっと迫力出して、こう思いっきり」
コチサ
「へい」
トロトロ、トロトロ、キーッ、ストン・・・
演出担当
「ねぁなんか、転ぶの怖がってない?・・・全然音録れないんだけど・・・」
コチサ
「そりゃ怖いさ、コチサ、スタントウーマンじゃないんだから。ただの善意の自転車提供者なんだから」
演出担当
「そりゃそうだね・・・でも、タイヤが土をうならせて止まる音が欲しいんだよ」
コチサ
「今時の自転車は、設計も優れているからね、急ブレーキ掛けても音は出ないし、そんなタイヤがしなる音はでないんじゃないの?」
演出担当
「そうだね、じゃぁ何かで作るか・・・」
閃くコチサ
コチサ
「じゃぁ、こうすればいいよ」
コチサは自転車を降り、後輪を持ち上げ、タイヤでほうきを掃くように土を擦ります。
ズズージュ!
ズズージュ!
ズズージュ!
演出担当
「おぉ、いいじゃんいいじゃん、その音その音。マイクしっかり録ってよ・・・じゃぁもう一回」
誉められてコチサも気分がよく、「ズズージュ!」「ズズージュ!」と、砂埃を巻き上げます。
演出担当
「オーケー、オーケー、ありがとうコチサさん、助かったよ。おかげで良い音取れたよ・・じゃぁ帰ろう・・・ん?何やってんの?」
その言葉に、ふと横を見ると、砂埃にまみれた録音担当の姿が・・・
コチサが一生懸命、タイヤで砂を掻いている時、その音を録ろうと、マイクを持って体を屈め自ら砂埃の中で決死の録音を試みている人間がいたことを忘れていました。
タイヤを軋ませて録音することは、まるでコチサがスコップで砂をかけているような結果になっていたようです・・・
コチサ
「まるで、砂太郎じゃん」
録音砂太郎
「へっ?」
コチサ
「わーい、わーい、砂太郎」
砂太郎
「そんなぁ・・・」
コチサ
「わーい、わーい」
どんなプロジェクトにも、必ずこうした「汚れ」という役が回ってきてしまう人がいます。
今回は文字通り「汚れ」でしたが、こういう「汚れ君」がいるプロジェクトこそ成功するプロジェクトなのだと聞いたことがあります。
コチサ
「砂太郎くん、こっち来ないで、汚れるから」
砂太郎
「そ、そんなぁ・・・」
演出担当
「じゃぁ砂太郎、コチサさんの自転車で戻って来て。我々は車でコチサさんをお送りするから」
砂太郎
「そ、そんなぁ・・・」
あーぁ、これから暫く彼は「砂太郎」と呼ばれ続けるのだろうな・・・
コチサが勢いであだ名付けちゃったから・・・
ハートクラブやリスニングマガジン・・・その他の作品を、毎回無事に世に送り出すことが出来るのも、実は砂太郎くんの努力によるところが大きいということ・・・実はコチサはわかっているのです。
走り去る車の中から、そっと手を合わせました。
演出担当
「何、コチサさん・・・砂太郎を拝んじゃって・・・それじゃ砂地蔵じゃん」
頑張れ!砂太郎!
負けるな、我らの砂太郎!
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