No.60 2001.3.2
先週末のピアノ発表会でのひとこま・・・
出番を待つ小学一年生の女の子が、舞台袖のコチサのもとにやってきました。
コチサ
「どうしたの?」
由香ちゃん
「ドキドキしてきたの」
コチサ
「もうすぐ出番だからね」
由香ちゃん
「どうしたらいい?」
コチサ
「誰でもそうだから心配しなくて大丈夫だよ。緊張しないようにと思うとよけい緊張しちゃうからね」
由香ちゃん
「お姉さんは、緊張しないの?」
コチサ
「えっ?そうだね、そういえば、お姉さんは緊張してないね」
由香ちゃん
「いいなぁ」
コチサ
「そんなことないよ、お姉さんは由香ちゃんがいいなぁと思うよ」
由香ちゃん
「なんで?」
コチサ
「だって由香ちゃんは上手にピアノが弾けるでしょ、お姉さんは弾けないもん」
由香ちゃん
「でも由香、緊張してるからうまく弾けないかもしれない・・・」
コチサ
「大丈夫。お姉さんはもう何年もこのお仕事してるでしょ。由香ちゃんみたいな子、たくさん見てるの。みんな由香ちゃんみたいに緊張するの。でも舞台に出ると、みんな素敵な演奏を聴かせてくれるの。少し緊張してた方が、良い結果が出るみたいよ」
由香ちゃん
「でも由香、少しじゃないもん。ほら触ってみて」
白いドレスの由香ちゃんの胸から、確かにすごい心音が手のひらに伝わってきました。
由香ちゃん
「ね、どうしよう」
コチサ
「そうだ!じゃぁ由香ちゃんだけに、お姉さんが絶対あがらない秘密を教えてあげる。
お姉さんが、舞台から由香ちゃんの名前を呼んだら、由香ちゃん舞台の真ん中まで歩いてくるでしょ。その時にね、右手と右足、左手と左足を一緒にあわせて歩いてきてごらん」
由香ちゃん
「えっ?やだそんなの、かっこ悪いじゃん」
コチサ
「うん、きっとお客さんは、あっ由香ちゃん緊張してアガってるんだって思うよね」
由香ちゃん
「えーやだやだ」
コチサ
「由香ちゃんがわざとやってるのも知らずに、お客さんは由香ちゃんがアガってると思っちゃうんだよ、おかしいね」
由香ちゃん
「うん、由香アガってないのにね」
コチサ
「そうなんだよ。お客さんが勘違いをしてるの。でも由香ちゃんはわざとやってるから本当にアガってるわけじゃないんだよね」
由香ちゃん
「由香はアガってないのにね」
コチサ
「そうなんだよ。だから由香ちゃん舞台から勘違いしているお客さんの顔を見てごらん。ちょっとおかしくなっちゃうよね」
由香ちゃん
「うん、由香がアガってると思ってるからね」
コチサ
「そう、面白いよ」
結局、由香ちゃんはそのことを想像しただけで和んだようで、舞台にはしっかりと両手を両足を振った正しい歩き方でやってきました。
そしてとても上手な演奏を披露して、お客さんを喜ばせてくれました。
コチサが由香ちゃんを羨ましく思った本当の理由・・・
この司会の舞台に立って、何の緊張もしていない自分に気が付いたこと・・・
いつのまにか、自分の仕事を、そんなルーティンの仕事として消化していたこと・・・
いつも舞台に立つときは、口から心臓が飛び出しそうに緊張していたはずだった。
毎回毎回、舞台では新しい事を試そうと、何日も前から考え続けていたから、いつも新鮮でいつも緊張感溢れていて、恐くて、逃げ出したくて・・・
・・・だから充実感が残ったんだ。
司会でもお芝居でも・・・
だからこの仕事大好きだったのに・・・
開演直前に逃げ出したくなる緊張感を、コチサは久しく忘れていた事に気づきました。
いつも真剣で、いつも挑戦で、そしていつも一回限り・・・
だから成長があって、希望があって、そして夢が輝いていた。
恐くて逃げ出したくて、こんなもの大嫌いだと口では言っても、本当は何より大好きだった「緊張感」とか「プレッシャー」という仲間たち。
由香ちゃんの言葉が、いつのまにか離ればなれになっていた大切な友だちを、コチサの元にまた集まらせてくれたようです。
よーし、次回のピアノ発表会では、パントマイムMCに挑戦だい!
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