コチサニュース No.58 2001.2.26

 事務所のそばの「ローソン」が、閉店しました。

 昼休みともなれば、近くの会社の人たちが大挙して押し掛け、レジに長蛇の列が出来るほどのお店でした。

 店長さんも従業員のおばさんも元気いっぱいで、朝早くからお店の前を掃除していたりと活気がありました。

 2年ほど前、同じ道路側、10メートルと離れていない場所に「セブンイレブン」が開店しました。

 神田川を渡るか渡らないかの違いだけで、近所のお客さんには選択肢が増えたことになりました。

 従業員のおばさんもそう言っていました。



 おばさん

 「セブンイレブンが出来たおかげで、ますますやる気がわいて来ちゃうわ。二つの店が競争しあえば、お客さんは喜んでくれるでしょ」

 コチサ

 「そうですね。二つの店を比べられますから」

 おばさん

 「店同士も、お互いの店には負けないようにと思えば、励みになるしね。両方の店で、売り上げ記録が更新されれば万々歳よ」

 コチサ

 「相乗効果が発揮されるって訳ですね」

 おばさん

 「でも、あんたはうちの店で買わなきゃだめよ」

 コチサ

 「もちろんですよ、コチサはここでしか買いませんよ」



 などと調子のいい事を言いながら、コチサはちゃっかり両店をはしごして、お得な方で買ったりしてました。

 時々、セブンイレブンの袋を下げて、おばさんに会ったりすることもあって・・・



 おばさん

 「あんた、あっちで買ったね」

 コチサ

 「あら、あらあら、私としたことが・・・何が起こったんでしょう、全く・・・」

 おばさん

 「いいって、いいって。その日その日で良い方を買って行ってよ。うちも負けないからね」



 「なんかいいな」って思いました。

 これまで独占状態だったのが、ライバル店の出現で、気持ちが守りに入ったり暗くなったりするのかなって思ったけど、このおばさん、全然そうじゃない。

 ライバル店が出来た事が、もっといい結果になることだと信じている。

 「やるな、このおばさん、なんだかすごいぞ」

 そう思いました。

 でも、おばさんはパートの従業員です。

 肝心の店長はそうは思わなかったようです。



 おばさん

 「あたしね、今月でこのお店からヒマもらうことになったから」

 コチサ

 「や、辞めちゃうんですか?・・・やっぱり売上が・・・」

 おばさん

 「そりゃ一時的に売上が落ちるのは当たり前でしょ。
 でもあたしが辞めるのはそれが原因じゃないのよ・・・
 売上が一時的に落ちるなんて、そんなことはわかってる事だからね。
 ライバル店が出来たんだから。
 それを元の売上に戻して、それから今度は新記録目指して頑張ればいいだけなんだからね・・・
 ただ店長は、そういう気持ちに、なかなかなれないみたいでね・・・」



 そういえば、店長は朝の掃除にも顔を見せなくなったし、たまに顔を見せても元気な声が聞かれなくなっている・・・

 それでも、おばさんが辞めた後入ってくる従業員は、挨拶の元気な子だったり、笑顔のキレイな子だったり、まだまだこの店には「ツキ」があるなとコチサは密かに思ってました。

 でも店長は、そんなことさえ気が付かなかったのかも知れない。

 「お早うございます」とコチサが挨拶しても、目も見ずに「おはようございます」と小声で返してくれるだけでした。

 元気な従業員も、笑顔のキレイなアルバイトも、いつのまにかお店から消えていました。

 外観も内装も何も変わっていないのに、店内は重く暗い雰囲気が漂い出しました。

 そうなるとお客さんは敏感です。

 コチサもだんだん・・・

 店の前を通り過ぎ、迷うことなく「セブンイレブン」に直行するようになっていました。

 そして一昨日の朝・・・

 「2月23日、午後6時を持って、当店は閉店致しました」 という、手書きの張り紙に出会いました・・・



 ちょっと考えてしまいました。

 「ローソン」が「セブンイレブン」に負けたわけではありません。

 それまで順風満帆だった店に、セブンイレブンが出現した時に、店長の中に「弱気の虫」が生まれたのかなと思いました。

 でも店長にはその弱気の虫を封じ込めるチャンスが、何度も何度もあったと思います。

 あのおばさん・・・

 その後の元気な従業員・・・

 笑顔のキレイなアルバイト・・・

 おばさんの「良いチャンスじゃない」と言う言葉に、

 「従業員は勝手な事が言えるな、経営者の身にもなってみろよ」 と思うことも出来ますし、

 「そうだそうだ、良いチャンスだ。あなたのような考え方の人がいてくれたら鬼に金棒、私は幸せだよ」 と思う事もできます。

 まぁ現実はわかりません。

 これはコチサの想像ですから。



 でもコチサは、いつの頃からかこの日が来ることを予想してましたし、多分他の利用者の人もそうだったと思います。

 張り紙を見て、あのおばさんを思い出しました。

 今頃どこで何をしてるんだろう?

 きっと相変わらず、この世の中に悪く考えることなんかまるで無いように、明るく元気いっぱい生きているんだろうな。

 「コチサ、何があっても、おばさんのように考えて生きていくからね」



 「お早うございます」 セブンイレブンのレジで、お腹の底から大きな声で挨拶したら、従業員さんがびっくりしてました。


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