No.052 2001.2.12
その昔、「池上線」というフォークソングがありました。
歌っていた女性歌手の名前は知りませんでしたが、コチサの田舎でも聞くことが出来ました。
まだ就学前の子供だったけど、その歌手が歌う・・・「♪いけぇ〜がみぃ〜せんの走る町でぇ〜」というフレーズが何故か心に残りました。
そして池上線は、コチサにとっておしゃれな街「東京」の象徴になりました。
でも東京に出てきて10数年・・・
実は、そんな思い出はすっかり忘れていたのです。
それが・・・
担当
「打ち合わせは相手先の事務所になりました。えーと、洗足池というところですね、池上線です」
コチサ
「池上線!?」
♪いけぇ〜がみぃ〜せんの走る町でぇ〜・・・
20年以上の歳月を超えて、コチサの頭の中に蘇るあのフレーズ・・・
かくして、忘れていたとはいえ、コチサの子供の頃のロマンとついにご対面となりました。
池上線・・・
まさかあれほどのドラマをコチサに用意してくれているとは・・・
くっくっくっ・・・
当日・・・
コチサ
「なんで、こんなに遅い時間に打ち合わせなんか・・・」
発表会等の打ち合わせは、先方が教室を開いていたりする関係で、どうしても遅くなってしまいます。
文句を言いながらJR五反田駅から階段を上り、東急線連絡口に・・・
そこには、ついにあこがれの池上線が・・・
それは、なんのへんてつもない、3両編成の電車でした。
♪いけぇ〜がみぃ〜せんの走る町でぇ〜
歌に歌われるほどの、繊細なイメージとは正反対、長い年月ただひたすらと走って来た寡黙なお父さんという印象です。
そして池上線には車掌さんはいません、ワンマン運転です。
(※後で聞いたところでは、昔は車掌さんはいたそうです。ワンマン運転に変わったのは去年の春のことだそうです)
五反田駅は始発駅なので、コチサは最後尾の車両の最後列に立って発車を待っていました。
「まぁ、なんだな、思い出なんてこんなもんだよ。取りあえず池上線にも乗ったし・・・実家に帰ったら、一緒に歌を歌ったスミちゃんに、少しだけ色を付けて自慢してやろう」などと、こズルい考えをしていたら発車のベルが・・・
もうドアが閉まりかけているのに、スーツ姿のおじさんが突進してきます。
強引だなぁ〜
おじさんは、閉まりかけのドアをこじ開けるように乗り込みます。
そこそこの混み具合の車内の乗客は、おじさんに不快の目を向けます。
でも、おじさんはかまわず乗り込み、ドアがバタンと閉じました。
ビリッという紙が破ける音がしました。
おじさんは、○○カメラのロゴの入った紙袋を持っていました。
手はしっかり紙袋の取っ手を握っています・・・
しかし取っ手の先の本体である紙袋は・・・
そうです、ドアの外です。
取っ手といっても所詮は一枚の紙、ドアはしっかりぴっちりと閉じられています。
これでは、ドアの非常信号も点かないし、最後尾にいるはずの車掌さんもいないこの電車では、運命のスタートボタンが押されたも同然です。
乗客の視線は、ドアの外、取っ手の先にある紙袋に注がれています。
いまや紙袋は破れ、袋からは、購入したばかりの商品が、いつでも飛び出し準備完了の姿勢で位置についています。
そして、電車は走り出しました。
こういう時の車内って、どうしてこう異様な緊張感と一体感のようなものに包まれるんだろう。
しーんと静まりかえった分だけ、人々の「ワクワク」という鼓動が聞こえるようです。
紙袋が完全に破れたら、いくらこっち側でおじさんが取っ手を握っていても、中身の商品はバラバラに飛び散ってしまいます。
でも、 「頼む!破れないでくれー」 と必死に祈っているのは、このおじさんだけかも・・・
車内の異様な緊張感とワクワク感は、絶対に次の展開を期待しているのがアリアリです。
コチサだって、やっぱりこの車内の緊張感とワクワク感に、「あーやっぱり池上線だぁ、もっと早く乗っておくんだった」などと思っていました。
しかし、こういう雰囲気での無言の行に耐えられないのもまたコチサです。
案の定、気がついたら口が先に開いてました。
コチサ
「カメラですか?」
おじさん
「えっ?・・・あぁそうです」
コチサ
「窓から見るに、デジカメですか?」
おじさん
「えぇ、そうです」
コチサ
「落ちますかね」
おじさん
「困りますよ、そんな」
コチサ
「大丈夫ですよ、みんな次の駅まで持ちこたえてくれって願ってますよ」
おじさん
「本当ですかね?どうもそうは感じられないんですが・・・」
おじさんがユーモアをわかる人で良かった。
この一言で車内の空気も変わりました。
乗客たちもコチサ同様、無言の行に耐えられなくなっていたのだと思います。
笑顔が浮かんで、「大丈夫、大丈夫」と目で訴えかけてくれています。
コチサ
「デジカメは良いですね」
おじさん
「えぇ」
コチサ
「車内には取っ手だけ、中身は走る電車の外なんていうシーンは滅多に見れませんよね、デジカメで撮っておきたいくらいですね」
(※これは嘘・・・心で思ったけど言わなかった)
会話はそれっきりだったけど、なごんだ雰囲気は続き、電車が揺れる度、人々はヒヤヒヤしたり、安心したり・・・
紙袋の破れは少しずつ大きくなってくるけど、デジカメは何とか持ちこたえていました。
コチサが、この前見に行った、サルテンバンコの曲芸でもここまでの緊張感は得られなかった気がしました。
そして電車は無事に次の駅、大崎広小路駅に到着しました。
期せずして小さな拍手があがりました。
おじさんは急に恥ずかしくなったのか、破れた紙袋を胸に抱えて持つと、ちょっとだけ目で挨拶をしてから前の車両に走っていきました。
そして車内は何事もなかったように、ごく普通の時に戻りました。
♪いけぇ〜がみぃ〜せんの走る町でぇ〜
この曲の全部の歌詞と、歌手がわかる方、コチサに教えて下さいね。
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