コチサニュース No.027 2000.12.8

  田舎のお母さんが、土手から用水路に落ちて膝のお皿にヒビを入れてしまいました。

 今は安静に休んでいます。

                   

  電話口の声が沈んでいました。

 お母さん

 「あのくらいな、なんとも無いと思っとんやけど、もう若くないんやな。体が動かなかったわ」

 コチサ

 「そりゃ、そうだよ。もう娘がこの歳なんだよ。若いわけないじゃん」

 お母さん

 「そういえば私がお前くらいの時は、ちょっとやそっと転んでも怪我なんかしなかったわ、お前は良いわなぁ」

 コチサ

 「そりゃそうだよ、今が若さ真っ盛りだからね」

 お母さん

 「それを言うには、ちょっとトウが経ちすぎてるんと違う?」

 コチサ

 「失礼だなぁ、切るよ。お大事にね」

 お母さん

 「お前も、いつまでも若いと思って無理するんじゃないよ」

 コチサ

 「ツーツーツー」

                   

 お母さんに予知能力があったのか、それとも親に口答えをした罰か…

 コチサは昨日、自転車で転んでしまいました…

 それも結構激しく…

 周りにいた人が助けに来てくれるほどの、目立つ騒ぎです。

 人が集まってくると、痛みよりも恥ずかしさが先立ちます。

 「大丈夫です、大丈夫です」

 曲がってしまった自転車を引きずりながら帰路にむかうコチサ。

 家に戻ってびっくり、左膝が握りこぶしくらい腫れています。

  「うわー」

                   

 それを見ると痛みがぶり返してきます。

 早速、お母さんに電話 。

 コチサ

 「お母さん、ごめんなさい…バチがあたりました」

 お母さん

 「まったく、無茶したらあかんて言ったやろ。病院は行ったのかい?」

 コチサ

 「ううんまだ…湿布してるから多分大丈夫だと思うけど…」

 お母さん

 「痛くなったら、すぐ病院行くんよ」

 コチサ

 「うん」

                   

 遠く離れて暮している母と娘が、二日違いで同じ所を怪我した。

 膝の怪我はジンジン痛かったけど、コチサは何か嬉しかった。

 「あーお母さんと同じ所を怪我したんだ。お母さんも今、痛くてこうやって膝を抱えているのかな」

 腫れた膝小僧を抱きかかえ、遠い田舎に夢を馳せると、お母さんに抱きかかえられている気になってくる。

 いくつになっても、親の前では子供は子供、幼きあの日に戻ってしまう。

 そして、いくつになっても親は親。

 歳をとって少し体が弱ってきても、子供の前では、強く優しく逞しい親を演じてしまう。

 一人の部屋で膝小僧を抱えながらそんなことを考えていると、時計のカチカチという音がやけに大きく聞こえる。

  突然、鳩時計が12時を告げた。

 「えっ?嘘」

 この部屋に鳩時計なんてないのに…

 でも確かに聞こえた気がした。

 田舎の、おばあちゃんやおじいちゃんの仏様のある部屋に、今も置いてある鳩時計。

 その鳩時計の音が、お母さんの耳を通してコチサに伝わったんだ。

 お母さん…

 子供は大人になって、大人はその分、歳をとっていく。

 怪我の回復は多分コチサの方が早いから、お正月はコチサがお雑煮作るね…

 川の流れのように、時は流れていく…

 でも、親子っていつまでも昔のままでいたいから、なかなかそんなの認めたくない。


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