コチサ
「毎朝、寒いなぁ・・・起きるのがイヤになっちゃうよ。そうだ、こんな時こそ、早起きオヤジに電話しちゃえ」
お父さん
「なんだ?こんな朝早くから」
コチサ
「やっぱり起きてるんだね。早起きお父さん^-^;」
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ちなみに、我が家は昔から、ほとんどの場合、電話はお父さんが取ります。
コチサは、子どもの頃はそういうものだと思っていたのですが、大人になっていろいろなテレビ番組やシチュエーションに遭遇してくると、「これは変だぞ?」と思うようになりました。
特に、うちのお父さんは、田舎のかつ大昔の人間なので、基本、亭主関白です。
人前では、お母さんの事を、
「うちの愚妻です(`_')」
などと呼ぶのが、正しい呼び名だと本気で思っているような人です。
コチサは、こればっかりは許せなくて、お母さんにお父さんの事は、
「うちの宿六」
と呼ぶのが正しいんだよ、とすり込んでいます(^o^;
(お母さんは、19歳でお嫁に来て以来、お父さんの言う事が全て正しいと思っている、まさに天然記念物のような人生を送っています)
そんなお父さんですが、電話がなると腰軽く立ち上がり、我先にと受話器を取り上げます。
亭主関白を自認するくらいなら、お母さんが秘書のようにお父さんに電話を取り次ぐというのがカッコイイと思うはずなのに・・・
きっとお父さんの時代は、
「電話=超高級品」
だったから、
「電話=夫が出る」
みたいな発想があったのかもしれません。
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お父さん
「グタグタ前説してないで、用件はなんだ?」
コチサ
「あのさ、寒いから布団出るのイヤなんだよ。でもこのままだとまた寝ちゃうから、とりあえず話でもしてみようかと・・・」
お父さん
「お前、電話して話す友だちはおらんのか?」
コチサ
「い、いるさ・・・(`_')で、でも。日曜の朝5時に電話して話す友だちなんているわけないじゃん(・・;)」
お父さん
「寂しいヤツよのぉ〜(-_\)」
コチサ
「余計なお世話だい(-_-;)」
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コチサは、来月もマラソン大会があるんだ。
ここは何としても、目を覚まして、早朝ランニングに出発しなくてはならない状況なので、とりあえずお父さんへの立腹をガマンしながらも話を続けます。
でも、どちらかというと、お父さんよりお母さんと話したい・・・
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コチサ
「ところでお母さんは、何してるの?(代わってよ(-_-#))」
お父さん
「朝ごはん、こしらえよるに決まっとる」
コチサ
「ふーん(代われってば(-_-#))」
もうひとつ、お父さんの癖として、電話は必ず自己完結するものだと思っていて、人に電話を代わるという発想がありません。
だから昔はよく、
「お母さんに代わってよ」
と言っていたのですが、
そのたびに、お父さんのトーンが下がり、寂しそうに電話を代わるので、最近では、なんか可哀想で、コチサから「代わってよ」とは言い出しにくくなっています。
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でも、まだ目も覚めないし、布団を蹴り上げる勇気も無いので、もう少しお父さんの相手をしてあげることにしました。
(こっちからかけた電話なんだけどね・・・(ーー;))
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コチサ
「お父さんはさぁ、なんで電話が鳴ると家族の誰よりも一番先に電話に出るの?」
お父さん
「ワシが、益田家の家長やからに決まっとるやろ」
コチサ
「でもさ、会社とかでも社長さんは電話に出ないでしょ。秘書さんが出て用件を聞いて、必要があれば代わるじゃない」
お父さん
「ワシは社長やないし、秘書もおらん」
コチサ
「お母さんは?・・・田舎でも、よそのおうちでは、先ず奥さんが出るでしょ」
お父さん
「よそはよそじゃ、ウチはウチじゃ」
コチサ
「ふーん、変わってるね。普段は、どこのお家よりも亭主関白なのに。お母さんのこと、人前では愚妻なんて呼ぶくせに〜」
お父さん
「お前のことも、愚娘とかバカ娘とか言うとるぞ」
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そだね・・・
お父さんは、人前で絶対に家族を褒めない(-_-#)
子どもの頃、どこに行くにもコチサを連れて行きたがったくせに、連れて行った先で良い事を言われたためしがない。
先方の人がお世辞にも
「まぁ可愛いお嬢ちゃんで・・・」
などと言おうものなら、
「本当にバカ娘で・・・可愛いとこなんかひとつもありゃせんで」
と言下に否定します(`_´メ)
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・・・でも、子ども心に、そこにすごい愛情を感じたのはなぜ?
・・・もしかしたら、お母さんもそうだったのかな?
コチサが人前で
「これがうちのバカ娘で」
と言われて、なんとなく「あぁ家族なんだ、だから言えるんだ」
と嬉しく感じたように、
お母さんも
「うちの愚妻が・・・」
と言われて、なんとなく悪い気はしなかったのかもしれない・・・
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友だちや、たとえ親戚でも、悪口を言われたら、二度と口を聞きたくなくなるほど根に持つタイプ(ーー;)のコチサが、お父さんやお母さんに人前で悪く言われるのが嬉しかったのはなんでだろう?
今では、お父さんやお母さんに人前で褒められとしても、悪く言われるほどには嬉しくなかった気さえします。
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コチサ
「ふーん、なんだかわかんないけど。それで良いのかも知れないよ・・・ま、いっか・・・なんか目が覚めたよ。じゃぁ切るね」
お父さん
「体が悪うないんやったら、こんな朝早うには電話してくるな。ワシも年を取ってすぐには電話に出れんのじゃ」
コチサ
「じゃぁ、お母さんに出てもらえばいいじゃん」
お父さん
「まだまだ、ワシが家長やからワシが出る。良い知らせも悪い知らせも家長が一番に聞くんが務めやからな」
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・・・
・・・
お父さん、嘘を付いたね・・・
お父さんの本音は、悪い知らせを最初に聞くのが家長の務めっていうことだけでしょ。
良い知らせだったら、誰が出ても誰が聞いても良いんでしょ。
・・・
・・・
遠い、遠い、かすかな記憶が蘇ってきました。
電話に出るお母さん。
その電話を落とすお母さん。
膝を崩すお母さん。
慌てて駆け寄るお父さん。
そして、
黒い服を着たお父さんとお母さんに連れられて、何かを見ているコチサ・・・
・・・
・・・
今でも、時々、電話の音に、ビクッと肩を震わせるお母さん。
目が会うと、
「急に大きな音で驚いわ」
と笑ってみせるお母さん。
次のベルが鳴る前に、受話器を上げてるお父さん・・・
・・・
・・・
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歳を取ると、いろいろな事がわかってきます。
いや違います。
子どもの頃からわかっていたことが、より確信に変わるだけかもしれません。
どんなに人前で悪く言われても、
「お父さんは、誰よりも、お母さんやコチサ、そして妹、弟が好きなんだ」
という根拠の無い自信が、はっきりと確信に変わり、それと共に、とてつもない大きな感謝の想いが溢れてきます。
これからは、朝早くの電話や夜遅くの電話は控えることにしよう!
お父さんも歳だしね。
その代わり、昼間の、いかにもどこからでも電話がかかってきそうな時間帯には、これまで以上にたくさん電話をしよう。
お父さんの大好きな娘からの電話だ。
嬉しくないはずがない。